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フレンチディスパッチ感想

「フレンチディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イブニング・サン別冊」(ウェスアンダーソン監督)

普段映画を見てあまり言語化しないようにしているのは、絵画的であり音楽的であり演劇的である映画という芸術に対する敬意である。僕は理論で構成された感想より直感的な(例えば楽しかった、面白かった、かっこよかった、悲しかった)感想の方がよっぽど感想としての役目を果たしていると思っている。

 しかしそんな私がこんな風に思っていながらこう映画レビューという僕自身が嫌うことの一つをするという理由というのは、この映画が無茶苦茶面白かったのである。好きな映画を5本上げろと言われた時4本は不動の作品があって残り1本は優柔不断に決めていた僕であるが、この映画でやっと5本目が決まったのである。歴史的な瞬間である。そんな作品に巡り合いながらなんと僕の周りには語れる人が誰もいないという悲劇が私にこうやて筆をとらせたのである。映画レビューとしているが所詮は素人の感想文なので大目に見て欲しい。

 今作のトピックとしてあげたいのは「本作のストーリーについて」と「動く絵画としての映画」である。

 まず1つめのトピックである「本作のストーリーについて」である。あらすじは20世紀フランスの町にある「フレンチディスパッチ」誌の編集部である。この編集長が急死し本誌は遺言により廃刊になってしまう。この最終刊に乗っている記事がオムニバス形式で繰り広げられるのが今作である。

このオムニバス形式というのは実は非常にまとまりを持たせるのが難しい。しかし雑誌という軸を一本通すことでしっかりまとまりができる。またこの作品の軸はビルマーレイ演じるアーサー・ハウイッツアー・Jrであることに異論はないだろう。冒頭で誰かの首を切らなければいけないという場面の少年に「私の部屋で泣くな」というシーンは実にユーモア溢れる撮り方をしているがここがかなり後から効いてくる。

 彼の遺言により廃刊になる雑誌の最後の記事としてこの映画があるわけだが、ただ最愛の編集長の死を悲しむのではなく一癖どころか何癖もある編集者の個性が光る記事をのせ、さらにラストシーンで和気藹々と編集長の思い出を語るシーンは非常に心が温まる。

 もう一つのトピックである「動く絵画としての映画」は少し専門的な話に聞こえるかもしれない。

 しかしウェスアンダーソン監督の映画を見たことある人ならば理解してくれる表現であると思う。

 彼の作品は非常にアニメーション的だ。アニメーションは実際の映画と違い画面に映っているものは全部描いている。当たり前だと思うだろうが非常に大事なファクターである。ウェスアンダーソン監督の作品はウェスアンダーソン監督の描き出したいものしか画面にない。人の動きだって独特であるし彼の作品の独特なカメラワークもそれに付随する要素である。

 だからこそ「ファンタスティックMr.Fox」や「犬が島」が違和感なく成り立つ。逆に本来はこれをやりたくてその延長に実写があるのではないかとも思わされる。

  ウェスアンダーソン作品といえばシンメトリーを多用したショットが真っ先に挙げられる。他にも真横からとってそのまま追っかけるカメラワークや人物を真上から撮るショットも多用される。なぜこれらのショットが多く使われるのかと考えたとき、僕はカメラという器官によるデッサンを行っているのではないかと思った。

 普段デッサンを行う際、モチーフの配置は自ら決める。そもそも何を描くかというモチーフも自ら決める。モチーフの配置によってそれが内包的に持っている魅力を外部に連れ出してあげることができる。デッサンはただ写真の様に模写するだけと思われがちであるがそれは違う。形や質感の丁寧な描写は大切であるが、それと同じくらいに自らの目というレンズや脳のフィルターを通して作り出された虚像を紙に復元していくことも大切なのである。

 役者を配置し、動きを作り、どう見えるかを指示する動作はそういう意味で絵画的である。特にウェスアンダーソン監督はそれが顕著に表れているように思う。そしてそれが彼の個性の爆心地であることは間違いない。

 今作では文字あるいは言葉の要素が大変重要になってくる。これは本作が雑誌をモチーフにした作品であるからというのは一目瞭然である。そのため文字の情報がとても多い。特に二部の日本語の字幕に英語の字幕が重なってくるところはかなり混乱ポイントであるように思える。

 しかしここで文字列を言葉という情報として脳内で処理するのは違うと思う。この映画での文字は役者や小道具と同じである。言葉としての文字でなくデザインとしてモチーフとしての文字と思えば今作をより楽しめるのではないだろうか。

 以上が本作の感想である。他にも1部の現代美術への皮肉や2部のフランス映画へのオマージュなど話せばキリがないほど情報量のある楽しい映画である。

 もしここまで読んでくれた人がいるなら感謝したい。そして今すぐチケットをとってフレンチディスパッチを見に行こう。

 

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