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坂本真綾の『イージーリスニング』

2001年、坂本真綾。作曲カンノヨウコ。コンセプトアルバム。

なお1、2、作詞サカモトマーヤ。6、作詞Chris Mosdell。

1.inori

 さらさらとつづられることばは、しずかで敬虔で、まさに祈り。

 冒頭とサビの神秘的なフレーズもよいが、平坦なAメロ部分が珠玉だと思う。「沈黙の町 壁に刻まれた遠い記憶が 今語るその人のことば」「呪文のように低くひそやかな声で」。物語にひきこまれる。彼女の発音と歌声の美しさが本当に生きている部分。
 砂漠の町、吹き付ける風に砂を払われ、浮かぶ壁の文字。その言葉は失われて久しい。女性が身につける淡い紗はゆらゆらなびいて、、。そんな情景が浮かぶ、詩情豊かな曲。歌われる「君を思う愛」にも説得力がある。

2.Blind summer fish 

 壮大な一曲目から、もうすこし近い、生活感のある内容へ。

 いまあなたを愛しているけど、私たちもう別れるね、別のみちを進むよね、っていう曲。いまこの瞬間の愛、をうたっている。おだやかで優しい語り。「これからもずっと一緒だよね」よりも、誠実で真実。

6.Another grey day in the big blue world

 望洋とした不思議な雰囲気の曲ながら、旋律が美しく歌いやすい。

 英語詞の美しさが際立つ。発音は流暢というより、子音ひとつひとつが透きとおっているよう。「そしてまた彼女は灰色の朝に目覚める」という詞のはじまりがよい。詞と旋律もぴったりとして雰囲気に乖離がない。窓際にたたずむ少女は、人生の憂鬱を理解している。そんなイメージ。サビで繰り返されるメロディは、ちっぽけな自分を追い越して滔々と流れる大河のような、どうにもできないうねりのようなものを感じさせる。
 灰色だけど、聞いていて暗い気持ちにならない不思議な曲。

 歌詞カードには公式の大変素敵な訳詞がついていたはず。うーんほしい。

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