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三位の化身

猟師が、川で水を飲む奇怪な生物に遭遇した。
一見、鳥に見えるその生物は、
3本の脚とケモノの頭が3つ合わさったような
異様な姿だった。

『これを生捕りにすれば高値が付くに違いない』
猟師は捕獲檻に野鼠を吊るし、そっと川辺の茂みに設置した。

しばらくして再度その場に訪れると、
檻の中には器用に真ん中の脚で鼠を掴み、豪快に貪り食う例の生物の姿があった。
生捕りにしたそれを持ち帰ると話はすぐさま村中に広まり、隣接する他の村にまで伝わった。

そして古老がこんなことを言い出す。
『この生物の3本の脚は、過去、現在、未来を表している。我々の信仰する神の化身に違いない』
すると他の村の男が
『いや、この頭を見ろ!身体、表現、精神の三業を表している。神が我々に懴悔を忘れぬよう遣わせたのだ』と。
そしてまた別の村の者が
『この世界を構成するのは地と海と空であり…』
などど、方々に自分達の信仰するものがいかに優れているかと、この生き物の在り処を主張しはじめたのだ。
次第に誰も他人の意見など聞く耳を持てなくなっていき、互いの信仰を貶し合うようになった。
やがては大きな争いへ発展してしまった。

どれほど多くの者が傷付いた頃だろうか、
争いを鎮めたのは例の生き物の死であった。
『あの奇怪な生き物が災いを運んで来たのだ!』
その主張には皆が頷き、刃を突き立てたのである。
争いは鎮まったが、失うものばかりだった。

あの生物は神の化身や遣いであったのか。災厄を運ぶ物の怪なのか。あるいは奇形なだけの生き物だったのか。
もはや判りようがなかったが、三頭三脚の亡骸は、戒めとして遺されていったという。

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