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共通テスト『歴史総合,世界史探究』 試作問題 全問解説

2022年11月に大学入試センターが公表した2025年度(令和7年度)から始まる新課程の共通テスト「歴史総合,世界史探究」の試作問題全問解説しました。

問題はこちら

https://partsa.nikkei.com/parts/ds/pdf/20221109/04q.pdf

社会人など時間のない方は、問題番号「7、12、24、32」の4問だけでいいので解いてみてください。韓国やインドネシアの開発独裁、アパルトヘイトによる非白人への差別、ナポレオンとムッソリーニによる宗教利用、ベトナム戦争の影響など、社会の問題点が浮かび上がる良問ぞろいです。

世界史選択の高校生は、ぜひ自分の頭を使って解いてみましょう。「試作問題」は当局が全力で作問してきた問題なので、これ以上に質の高い問題にはなかなか出会えないはずです。現行の共通テスト対策にも抜群の効果を発揮することでしょう。

⑴分量
大問は5つで、今年の共通テストと同じ。問題は33問で、今年の共通テストの34問とほぼ同じ。第1問「歴史総合」で9問・25点第2問から第5問まで「世界史探究」で24問・75点配点の4分の1「歴史総合」になります。

⑵難易度
標準的な難易度。むしろ知識レベルではセンター試験よりも易しい。しかし、問題を解くのに必要な資料が増えたため、読解に時間がかかるところが要注意です。

⑶対策
試作問題資料(史料・グラフ・表など)が多用され、読解にかなりの労力を割かれます。共通テストの過去問を時間を計りながら解いて、この形式に慣れておく必要があります。新学習指導要領で「思考力、判断力」を重視することが明記されていますが、年代並べ替えの問題(問題番号17、24)に見られるように重要事項の年代暗記で処理できる問題も多く、基本的な知識の暗記は必須です。複数の資料を比較しながら相違点や共通点を見出す判断力が試される問題も意識的に出題されています(問題番号13、33)。世界史と日本史が重なる部分の近現代史は、年号の暗記も含めて丁寧な学習を心がけましょう(問題番号7・1973年第1次石油危機、問題番号9・1972年日中国交正常化)。



第1問 「歴史総合」

1 答えは⑤ 生麦事件と薩英戦争
生麦事件を知らなくても解答できる(知っておいて欲しいけど)。イギリス人(白人)を襲っているので図は「い」。これが薩英戦争の原因なので年表は「a」か「b」。異国船を受け入れた後の事件と推測できるはずなので年表は「b」。

2 答えは② 英字新聞の論説記事の内容を会話文から推測
「現地の慣習や法律に従わなかったイギリス人の行動を正当化している」ものを選ぶ。①と③はイギリス人の行動を正当化していない。④の関税率はイギリス人の行動と関係がない

3 答えは③ 19世紀アジア諸国の近代化政策
③は1860年代に中国で行われた洋務運動。基本思想は「中体西用」。①はソ連ゴルバチョフによるペレストロイカ。②は中国鄧小平による改革・開放政策。④アメリカフランクリン=ローズヴェルトによるニューディール政策。①②④は20世紀の出来事

4 答えは②または⑥ 三国協商
三国協商イギリス・フランス・ロシアで構成。したがって、イギリスロシア

5 答えは⑤または① 19〜20世紀のイギリスとロシア
チャーティスト運動イギリス都市労働者による参政権要求運動血の日曜日事件ロシアで起こった日露戦争の中止と民主化を求める請願デモに対する軍の発砲事件

6 答えは④ ナショナリズムの現れ方
「国内で少数民族を同化しようとする」のはY。北海道旧土人保護法は1899年制定。日本政府は北海道の先住民アイヌを抑圧した。「自治や独立を勝ち取ろう」としたのはZ。ガンディーはイギリスによる植民地支配からインド独立運動を指導。

7 答えは③ 公害対策基本法と開発独裁 ★開発独裁は頻出
社説は1970年のもの。「あ」の第1次石油危機1973年なので無関係。「い」の公害対策基本法1967年制定なので該当する。社説の抜き書きにも「高度工業文明とGNP至上主義の中で,「物心両面の公害に苦しめられている」と公害に触れている。「X」の開発独裁強権的手段で民主化運動を弾圧し、経済発展をめざす政治1960年代軍部クーデタで政権を握った韓国朴正煕インドネシアスハルトが有名。朴正煕スハルトアメリカ寄りの軍人で、政権獲得後は親米政策を推進。社説には触れられておらず、時期も該当する。「Y」は2011年アラブの春なので時期的に該当しない。エジプトムバラク政権リビアカダフィ政権が民主化運動で倒された。仮にアラブの春を知らなくても、インターネットの商業利用が急拡大したのは1990年代なのですぐに消去できる。

8 答えは① アフリカの年と非同盟諸国首脳会議
1960年17の独立国が成立した「アフリカの年」。①と②に絞られる。1961年に第1回非同盟諸国首脳会議ユーゴスラビアの首都ベオグラードで開催された。これを知らなくても国際連盟は第一次世界大戦後の1920年に成立した国際機関なので消去法で答えを導き出せる。第二次世界大戦後の国際平和機構は国際連合

9 答えは② 発展途上国と日本の関係
日中国交正常化1972年1970年の段階では中国への経済援助は行われていない。したがってユメさんのメモは誤り。グラフから「2010年までは、東南アジアの割合が最も大きかった」は正しい。また、日本は東南アジアのフィリピン、ベトナム、インドネシア、ビルマに賠償金を支払ったので、テルさんのメモは正しい。グラフから南インドへの経済援助は2010年以降増加に転じているので、アインさんのメモは誤り。インドの重要性を印象づけている。「自由で開かれたインド太平洋」というスローガンのもと中国を牽制する日本の政策を想起させる。

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