2021年度共通テスト「世界史B」 問題分析


今年の共通テスト「世界史B」の全設問の解説を試みました。

初めての大学入学共通テストが実施されました。世界史Bは、すべての大問で資料やグラフを読み取る問題が出題され、読解力と思考力を重視する傾向が鮮明になりました。従来のセンター試験では大問4題、36問だったのが、今年の共通テストでは大問5題、34問に変化しました。設問数が34問に減少したものの、限られた時間で大量の資料を読み、分析することが必要となったため、実際には受験生の負担は大きく増したと思われます。

今年の共通テスト「世界史B」の出題形式は、2017年と2018年の試行調査(プレテスト)の問題に極めて近い形で出題されました。多くの受験生は、この2回の試行調査の問題と向き合って共通テストの準備をしてきたはずなので、従来のセンター試験の出題形式とは大きく異なる今年の共通テストの問題を見ても、それほどの驚きはなかったかもしれません。

今年の世界史Bの問題を眺めると、目をひく出題がありました。第3問でジョージ=オーウェルの小説『1984年』が問題文に使われたのです。しかも受験生がじっくり読む資料の下線部は「真理省に勤める主人公は、歴史記録を改ざんする仕事をしていた」から始まります。さらに設問の問8では「組織的な改ざんが行われた」との言葉も出てきて、「改ざん前の文章」と「改ざん後の文章」を読み比べて改ざんの意図がどこにあったのかを考察させます。もちろん誰もが、安倍首相に忖度して公文書の改ざんを指示し、国税庁長官に出世した佐川宣寿(のぶひさ)氏や公文書の改ざんを本省の命令で行い、罪の意識から自ら命を絶った財務省の近畿財務局職員赤木俊夫氏を連想するのではないでしょうか。たしかに見事な出題でした。

しかし、私は今年の大幅な出題形式の変更には批判的です。正直に言えば、センター試験の形式にすぐに戻すべきだと思います。いままで世界史を学習してきた成果を計る問題とはとても思えない設問が「読解力」「思考力」の名の下にいくつも見られたからです。資料やグラフを読み解く試みにしても、すべての大問で出題するのは極端です。せめて大問5つのうち1つで良いのではないでしょうか。従来のセンター試験は高校生が標準的な知識を整理・確認する上でも、取り組みやすい良問でした。読解力は基本的には「国語」で問うべきで、限られた時間で多くを学ばなければならない高校の社会科の基礎的な学力を計る共通テストで問うべきことではありません。誠実に知識を積み重ねた受験生がちゃんと報われる従来のセンター試験の形式に戻さなければ、これからの高校生があまりにかわいそうです。

「新しい試みをすれば、必ず批判が起こります。なんでも反対するのではなく、この新たな試みの良い点を伸ばしながら徐々に問題点を改善していけば良い。まだ共通テストは始まったばかりだ」などと涼しい顔で言っていられるのは、実際に問題を解いていないからです。第1問を解くだけでも、かつて世界史で受験した大人は驚くはずです。重要事項の知識の理解を問うのではなく、明かに問題が小賢しいのです。そして、一部は世界史の知識すら正面から問われていません。

今年の共通テスト世界史Bは、小説『デカメロン』から「ペストの流行」を答えさせて、新型コロナを意識した出題だとか、小説『1984年』から「公文書の改ざん」にまで触れていて財務省の公文書改ざん問題を揶揄していると、たしかにマスコミの目を引く出題にはなっています。しかし、問題の本質はそこではありません。出題形式が、少なくとも世界史に関しては明かにおかしくなっているのです。


問題はこちらから



第1問

問1 答えは③
秦の始皇帝が後継者について相談した相手など受験生は知らない。でも、この問題は良問だ。問題を読み進めれば、「その人物が統治のために重視したこと」とある。秦は法家を重んじたのでZ。したがって人物は法家の李斯。ちなみにXは儒家。Yは墨家。

問2 答えは③ 
秦の焚書坑儒は、医薬・占い・農業の書物は焚書の対象から除外されたので誤り。②は1545年のトリエント公会議。④マッカーシズム1950年代、冷戦下のアメリカで展開。「赤狩り」とも呼ばれ、進歩的なリベラル派が多数弾圧された。

問3 答えは② ★★
①は呉楚七国の乱。武帝の父景帝が鎮圧。②平準法と③儒学の官学化武帝の政策。④三長制北魏の孝文帝。下線部bには「彼が生きていた時代に行われていた政策への、司馬遷なりの批判の表明」とある。司馬遷は前漢・武帝の時代の歴史家。④は司馬遷の死後の出来事なので誤り。武帝の時代の政策は②と③。さてどう選択肢を絞るか。受験生も戸惑ったのではないか。なんと、この問題は世界史の知識がなくても解けてしまう。下線部bを見ると、「司馬遷は自由な経済活動を重んじ」とある。したがって、「司馬遷による批判の対象となった」のは、「国家による物価の統制」なので②。正直、この新傾向はちゃんとした世界史の学習を促すものとは思えない。読解力を問うレベルですらない。小賢しい。すぐにこんな出題形式はやめるべきだ。


ここから先は

6,856字

¥ 150

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?