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感想:森の女王とロストアロー


めーーーっちゃ良い曲見つけましたぁ!!!



森の女王とロストアロー feat.初音ミク

(ヘッダー画像はこちらのスクリーンショットになります。)


みなさん、聴きましたか?聴きましたか!?

これが初見時の私の反応です。
エグいくらいビビってるのが伝わるかと思います。笑



最注目ボカロPの一角、千石ナタデコ子

千石ナタデコ子さんのことはフォロワーからオススメされて「トワイライト」「ルーセントエイト」で知り、同年の投稿作「hide-rossa」を2020年の10選に入れるくらい、ものすごく魅力的な作品を作る方です。
曲調としては概してポップにまとまっているのですが、そこかしこで玄人然としていると言いますか。音楽ジャンルや音使いの引き出しの広さと深さを感じさせる方です。あとこれはうまく言えないのですが、音の切り返し方やグルーヴの扱いに非常に長けていると感じます。「カルマノマニマニ」や「∃ɔ!1∀」を聴いていただければこのあたりのニュアンスが伝わらないかな・・・と思います。
ここまでの作風の説明を見るとわかるかもしれないですが、かなりいろんな方向の曲を書く上にクオリティが高く、どんな曲を出してくるのか全然予想がつきませんw なのにどこか感じられるナタデコ子イズム(個人的にそこが曲の根底にあるグルーヴなのかなと)。これが今アツいボカロP、千石ナタデコ子さんです。

そんな千石ナタデコ子さん、最近だと「メルティングブルー」「Sweet-Swim-Mermaid」と夏を強く感じさせる爽快な曲調を連続して出していました。さて次はどんな曲を・・・!?という期待のなか投稿されたのが本作、「森の女王とロストアロー」です。



新境地の曲調

9月なので夏曲は終わりかな・・・と思いきや、先述の「メルティングブルー」「Sweet-Swim-Mermaid」とはまた違ったベクトルの夏曲!今回は海ではなく森。タイトルに書いてあるんだからそりゃそうだろって言われたら何も言えないんですけども。

曲の特徴としては、一言でいえば「物語音楽」です。本当にできること多いなこの人w 読めねえ・・・。曲調としてはまさに「森の音楽隊!」といった趣のサウンドです。(全然わからないんですが、こういう曲調を表す音楽ジャンルってあるんですか?ありそう) しかし物語音楽を汲んでか、ところどころで大胆な曲展開があります。歌メロから見た曲構成はサビを繰り返す一般的なポップソングの範疇を出ないのに、この歌詞と曲展開によってなんだかミュージカル曲を聴いているような気分になります。音が上質なだけに余計に。なんでこんな曲作れんねん

曲展開について具体的には、転調して変化を表す1B、2A~2Bの間の起承転結の”承”となるような怒涛の畳み掛けパート、2サビ前にシンコペーションと早口歌唱によって疾走感を増す2B後半、起承転結なら”転”にあたるような焦燥感を帯びながらクライマックスへ向かうC→B、そして曲中で唯一明確な陰りを感じさせるサビ最後の『ロストアロー』。このあたりが物語音楽の色を音として強く感じる部分です。序盤のAメロを最後に持ってくるのも、物語の締め括りを感じられます。
こうして書き出すと、とっても展開の多い曲ですよね。これらを元の曲調から一旦話したり自然に接続したり調を買えるだけだったり、遠すぎず近すぎずの距離感で変化をつけている技巧が「物語音楽だぁ」と思わせる程度のほどよい違和感に留めている秘密だと思います。バランス感覚が異常に良い。

余談ですが、2Aの後で急にレゲエっぽくなるパート、直前の2曲が連続して夏の海曲だったのでファンサービスかな?と思いましたw



歌詞考察求む

こんな項目の通り、どんなお話なのかいまいちよくわかってないですw

個人的にはこれ、少年の死を森の女王が肩代わりすることによって少年は森の主となり、女王は生まれ変わって、同じ物語を今度は逆視点で始めるっていう話だと思うんですけど、どうなんでしょう?
1サビの『返せない』は青い実を食べさせたことで森に閉じ込める的な意味合い、ラスサビの『還せない』は「土に還さない=死なせない」ということかなと。
『夢の終わりと引き換えに』は、生まれ変わる前の少年と過ごした生涯を夢のことのようにうっすら覚えてるってことなのかなと。
『どんな名前をつけようか』は・・・なんでしょう、少年と出会った時に「アローちゃん」と名付けてもらっていた、とか?『木漏れ日の中で顔出した』で夢の話と逆視点になってることに気付いた、、、みたいな。
タイトルの「ロストアロー」は、森の女王たるアローちゃんが死ぬということ、二人が一度離ればなれになることによる”失恋”のことを指しているんじゃないかと思っています。その意味でも森の女王はアローちゃんであってほしい。笑
ちなみに、もしアローちゃん説が正しい場合、『アロー、抱きしめるの、』でアローちゃんが自分の名前を一人称にしてるみたいになって、めちゃくちゃかわいいことになりますw

こうかなーという考えをここまで書きましたが、こんなふわふわな考察でいいんでしょうか?w
「ここ違くね?」とか「自分はこう思う!」みたいなご意見があればぜひ教えていただきたい!

考察抜きで歌詞の話をするなら、二人で思いを通い合わせて楽しそうに過ごしているのが2番ABだけなのが切ないですね・・・。途中のハイテンションなレゲエパートもそこを汲んだ構成だったのかな・・・。



ドラムの打ち込みレベルが高すぎる


ほんへ。

「hide-rossa」で深く自覚はしていたんですが、千石ナタデコ子さんは本当にドラムの打ち込みがうまいですね!良い音源を使っているというより、フレージングにしっかりニュアンスが出ているのがすごい。

今回お話したいのは、特にバスドラの細かい変化とハイハットの強弱についてお話ししたいです。
まずはバスドラについてですね。ここではサビを引用します。

まず、これが1サビの最初に聴こえるドラムフレーズです。シンコペーションを使いながらも、ゆったりしたリズムですね。

その次がこれ。(本当はハイハットではなくライドシンバルを鳴らしているのですが、わかりやすくするためにあえて1つ目と同じハイハットにしています)
倍テンすることで一気に加速したように感じる展開です。倍テンってなんだ?という方はこちらで解説してます

そしてその後がこれです。(こちらも2つ目と同じ理由で、本来ライドシンバルのところをハイハットです)
サビだけで3つものリズムで展開してくる、という話もしたかったので3パターン取り上げました。2つでもなく4つでもなく3つ、というのがどこかお洒落に感じます。
ですが、今回一番話したいのは2つ目から3つ目の部分です!
この2つ、刻み(今回はハイハット)もスネアも変わってませんが、バスドラのタイミングが変わっています!

見た目でもわかりやすいようにMIDIノートを見てみましょう。
まずは2つ目の部分。

そしてこれが3つ目。

画像に赤枠で囲った部分があるのですが、赤枠内の下にある四角がバスドラ、上の四角がスネアになります。
何が言いたいのかというと、バスドラの間隔が変わっているということです。上の画像のバスドラの内、スネアの後にある2つ目のバスドラをなくすことで、ビートに空白が生まれて疾走感のある状態から少し余裕が生まれてサビの終わりに向かっていくニュアンスが表現されています。スネアのゴーストノートが増えているのも、余裕が表れているようです。
この細やかな差異をドラムで演出できる作曲者って、ボカロシーンではそう多くないんじゃないかと思います。千石ナタデコ子さん、現役のドラマーか?ってくらいドラムについての造形が深い・・・。ちなみに個人的にはベースが本業なのではないかと勝手に思っています。


紹介したい部分は他にもあります。サビ後のさらにゆっくりになる部分と、ラストのハイハットです。
最初に前者。

ドラム好きの人は一聴しただけで「アッ好き・・・」と心を鷲掴みにされるこの強弱の演奏!ドラム単体だけで伝わる情緒の表現、素晴らしい。
「全ボカロPこれを真似してくれ」とつい言ってしまいたくなるくらいリスナーを強く惹きつける部分だと思います。このパートがサビ最後の「ロストアロー」と不穏に歌う直後で緩急をつけるようにやってくるのがずるいんですよね。サビという曲中でも一番と言っていい盛り上がりが終わった後に聴こえるから、不意打ちのように刺されてしまいます。森の女王だけでなく私も『射抜かれてしまったーーー』。


そして後者の説明です。

これも採譜したMIDIノート貼っときます

ため息。良すぎ。

まずこのバスドラですよね(画像下部分です)。だんだんと間隔が狭くなっています。何気ないですが、これだけで曲から滲む玄人感やワクワク感がかなり出てきます。むしろこの次第にバスドラが増えていく演出のために、前半部分で意図的にバスドラを抜いていた気すらします。そう考えると、このバスドラひとつとってもよく練られた構成だと思いませんか?

そしてハイハット。強弱の素晴らしさは先述の通りなのですが、なんといっても最後です。この余韻ある終わり方・・・!!!
画像の右の方を見ていただけるとわかると思うんですが、それまでほとんど一定間隔で刻まれていたハイハットが最後でリズムが崩れているんです。この”崩し”が・・・良い・・・!!
そしてこの部分、実は冒頭にもあるんですが(0:28あたりまで)、こちらではその後にもドラムのフレーズがあるのでオープンハイハットが短く切られています。対してラストはここで終わるためハイハットの残響音が最後まで聴こえます。この余韻ある終わり方・・・!!!(2回目)




おわりに


私から伝えたい感想は以上です!

これまでの作風の広さを考えても大胆に舵を切った曲調に、歌詞考察、そしていつも通りのドラムのお話でした!
ドラムについてはまだ手の込んだフレーズがあるのですが(2:10~2:24あたりとか)、今回はここまでとさせていただきます。採譜するのが大変!w
千石ナタデコ子さんの迸る魅力、その一端をお伝えできていたら嬉しいです。

いつもながらかなりピンポイントな話だったため、ストリングスとかベースとか、他の楽器も本当は素晴らしいのです。というか本当はそちらについて話した方が曲調とリンクして魅力を伝えられるのではないかと思いますw
そちらは他の方に任せるとしましょう!誰か氏~~!
歌詞考察も他の方のものをぜひ見たいですね!



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