無間地獄<お前は俺かそれとも別のものか?>

その巨大な脳みそはただそこに在るかのようでいて、そこにはなかった。自分の中にあるようで自分の中になく、自分の外から話しかけているようで魂に響いている。しかし、それは一度も見たこともない「思考」であったから、かなり異質に感じた。その異質な思考が自分の中にあることが気持ち悪かったし、その気持ち悪さの中にどこか叱られているような居心地の悪さを感じた。されど、それは、神のような絶対善でもなかったし、またあの総大将のような他者的な恐ろしさもなかった。奇妙であると言ってしまえるほど同列でもなかったし、畏敬を感じるというほどの神聖さもなかった。

うごめいていた。ただ在った。それが巨大な脳みそだった。

亮は沈黙を守った。それは戦いだった。それだから、ひどく損を食ったように思った。

ーーーまだ戦わなくていいと言っていたではないか。

そんな思いが沸き起こった。

同時に巨大な脳みそがぐるりと方向を変えて、あの澄んだ目で亮を見据えた。目玉が引きちぎられる思いをした。痛みに耐えられずに目を閉じようとしたけれど、巨大な脳みその目は亮にそれを許可させなかった。

ーーー待て!!!お前は私ではないはずだ!なぜ思考を懐柔するのか!!

巨大な脳みそはその澄んだ目を亮からすっとそらした。亮の痛みは和らいだ。しかしここは無間地獄である、いまだに亮は落ち続けている。亮は無間地獄をただ開店することもなく一直線に落下している。痛みもある、体はないし、胸も引きちぎられた。だから今は目玉だけで落下しているはずなのに、すべてが痛んだ。体の存在を感じている。引きちぎられた胸の感覚も確かにある。

ーーーだから俺がいけないんだ、だから俺がいけないんだ。

巨大な脳みそが姿を変えていく。脱皮のように生々しいその変容を亮は見たくないと目をつぶろうとした。目をつぶりたいのにつぶれない。痛みは最悪に響く。それだけれど、それだけれど、この痛みがきっと明日へつながるこちがわかっていた。それは定型的な感覚ではない。かつてのようなトレースするだけの言葉ではなく、何か別の部分からの暗号のように感覚的に理解した。あの幾光年前かの、「もうすぐ終わる」というような感覚とは別種の感覚だった。

なぜなら、これから、すぐに最大の痛みが来て、その痛みを乗り越えない限り生きては帰れないことをよく理解していた。それがそれが、何を意味しているかが感覚的にわかったからこそ、すべてを委ねるしかないと考えた。委ねてしまえば、きっとこの痛みをも乗り越えられると委ねた。そう宣誓した時、亮の眼下に黒い炭酸の海が広がった。何もなかった宇宙から、黒い炭酸の海が見え始めて、次の瞬間、その海が亮を覆っていた。

巨大な脳みそが言った、

「炭酸は、二酸化炭素。息ができるだろうか…俺は酸素を吸って生き永らえていたのに」

もはや恐怖はなかった。それを悪意だとも思わなかった。

<<to be continued/...>>


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