無間地獄<ある男が送るその有様>
その総大将に指名された男の名前は亮という。総大将を見つけたのはあのスターバックスだった。いつものスターバックスできれいな女がいた。PCを異常な速さで神経質にたたきながらコーヒーをすする姿にいつもぞっとさせられていた。夜になればあの女が悪魔として彼を襲った。妻がいたわけではないが、共に暮らす彼女がいた。いつ帰ってくるかもわからない、尻切れトンボのような関係だったけれど、事実上「女がいた」。それでも毎夜毎夜、あの総大将にうなされた。スターバックスに行けば必ずいるその女のPCをのぞいてみたかった。何をあんな異常な速さで打ち込んでいるのか、女の秘密を知りたかったのだ。あのスターバックスにいる男たちなら皆同じことを思ったはずだが、どうやらあの場であのPCをのぞき込んでチケットを受け取ったのは自分だけであったらしい。その証拠に部隊には顔見知りは一人もいなかった。驚いた、あの女の住まいはきっと自分の家の近所だと思っていたのに、顔見知りがひとりとしていなかったのだ。
総大将が鬼ごっこをしましょうと書いたときに、自分の中のいたずら心が呼び覚まされた。あの女を飼ってみようかそんなふうに思った。俺の金で養ってやろう、だれにもばれずに女を飼えるなんて最高だそこまで意識はしなかったものの、無意識では何かがギラりと刃先を変えたことは感じた。そして、まんまと鬼ごっこに乗っていき女を追いかけここまで来てしまった。
記事を読んで、バカげていると胸ポケットを見たときにあのチケットがあった。
ーーー解き放つ、来たれ私のもとにーーー
目がその文字をとらえ、あの部隊の一員となり、そして今無間地獄に落とされていた。
ーーー総大将はどうして俺を見初めたのか。
絶え間ない地獄に落ちる過程でありながらも妙な自尊心が亮を卑しめた。
ーーー総大将は俺に何をしろというのか?
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