倫理とか科学的根拠とか

久しぶりのnoteです。

今話題に上っている心理師、心理士の倫理、科学的根拠のことについて少し考えてみました。

わたしはこの話題を最初から見ていたわけではないので、何に端を発しているのか、ここで問われている「倫理」が一体何を指しているのかは知りません。ただ「倫理を越えてもクライエントのためになるならそれでいい」といった考えには非常に危機感を覚えています。また科学的根拠についても同様で「根拠がなくても改善していれば良い」という考えは非常に危険です。この2つについてつらつらと思うことを書いてみます。

まず「倫理」についてです。この話題に参加されている方の多くは臨床心理士や公認心理師をお持ちの方みたいなので先にそれぞれの倫理綱領を見てみたいと思います(公認心理師の会の倫理綱領は見当たりませんでした)。

公益財団法人日本臨床心理士資格認定協会の臨床心理士倫理綱領

一般社団法人日本臨床心理士会倫理綱領

日本公認心理師協会倫理綱領

臨床心理士にも公認心理師にも倫理綱領があって、臨床心理士はみんなこれを守る義務がありますし、日本公認心理師協会の会員もこれを守る義務があると明記されています。
具体的な内容はどの倫理綱領もあまり変わりません。
・自己の欲求や利益のために行わないこと
・専門的支援関係の範囲を超えた関係を結ばないこと
・専門的知識及び技術、最新の研究内容及び成果の研鑽を怠らないこと

きっと専門家であれば、学生のうちからずっと言われてきてあることだし、当然知っていなければならないことです。
しかし、時折話題になるクライエントとの性的接触の話だったり、科学的根拠を無視した支援であったり、こういったことが専門家でもされているのが残念でなりません。

ちなみに、公認心理師法では、倫理とは言われていませんが、第40条で信用失墜行為の禁止や第43条資質向上の義務が明記されています。

倫理については法律やそれぞれの規約の中で細かく定められているにもかかわらず、どうして「倫理なんてどうでもいい」なんて方が出てきてしまうんでしょうか(むしろ倫理なんてどうでもいいなら、その資格を保持することもできないので、資格ごとペイってしてください)。

最初に言われていた倫理の話が何かは知りませんが(2回目)、クライエントとの性的接触なんて言語道断で即刻アウトですよね。「そうすることでクライエントが改善したんだ!」とか「クライエントが望んだんだ!」なんて言われてもそんなこと知りません。望んだなんていうのは陽性転移の現れでしょうし、性的接触で改善した根拠なんて出せるんでしょうか?ぜひとも聞いてみたいものです。
他に考えられる倫理的な問題は、医者の指示を無視して介入するとかでしょうか?公認心理師だと法的にアウトですよね。臨床心理士でも無視した時に起こり得るクライエントへの不利益に責任が取れるのでしょうか?たとえたまたまAさんが改善したとしても、その次もうまくいくかなんてわかりません。心理的技法による介入の改善率は100%なんてあり得ませんから。それなのに、指示を無視して違う介入をすることへの責任や自己満足について考えたことがあるんでしょうか?気になります。

また公認心理師法の中で言われている信用失墜行為、具体的にどんなことなのか人事院のハンドブックを参考にしてみました。

セクハラやパワハラなどの各種ハラスメント
わいせつな言動や不必要な身体接触
公共物の着服
虚偽の申請及び不正受給
不適切差別的な発言
過度の飲酒による事故事件

こういったものが当たるようです。ほとんどは法律にも違反してますね・・・。とにかくここにもわいせつな云々とあるように、性的な接触は信用失墜行為にも当てはまります。
倫理なんてどうでもいい、なんて言ってる方はこういった行為も容認できてしまいそうなので、もう一度考え直していただきたいですね。

さて、2つ目の科学的根拠のお話です。実はこれもまた倫理の問題を多分に含んでいます。先にみた倫理綱領にもバッチリ書いてますからね。根拠をもってクライエントに接することは、同時に倫理的にお互いを守ることにも繋がります。

これは大学院時代からよく耳にしている「科学的根拠なんてなくったって目の前のクライエントが改善していたらそれでいいじゃないか」という声。本当に怖いですよね。

そもそもその人たちはどうやって改善したか否かを見ているのでしょうか。どうやって説明責任を果たしているのでしょうか。

病院にかかった時に、「これは私しかしていないが必ず改善する!」と言われて魔法陣を描いてみるように言われたらどうでしょうか?その病院に来る方のほとんどが風邪引きの患者さんで魔法陣を描いても描かなくてもそのうち良くなっていたとして、その医者が魔法陣を描くことでうちの患者のほとんどが改善しているから、これには効果がある!と言っていたらどうでしょうか?
なんかこれと似たような話がまかり通っているように思えてなりません。

科学的根拠、エビデンスは一定の条件のもとその効果が検証されたものです。そしてこの歴史の中で着実に積み重ねられてきたものです。それを蔑ろにして「わたしのやり方には効果がある!」なんていうのはただのエゴだし、クライエントのためにもなりません。
当然これまでにない最新の介入によって効果が得られることも考えられますが、その時にはその介入による効果を検証して根拠を示す必要があります。そうでないとただの自己満足です。だって、その次もうまくいくかはわかりませんから。それで失敗して不利益が発生したらどうするのでしょう。
科学的根拠が全てではないですが、これがないと始まりません。精神分析だって認知行動療法だってそれ以外の心理的療法だって、科学的根拠が示されたものはたくさんあります。経験と勘なんていう前時代的なものではなく、根拠を持って心理支援していってもらいたいなと思う次第です。

自分にできることが何かを模索しながら、とりあえずできること、発信できることから始めようと思います。少しでもリアクション頂ければ励みになりますので、よろしくお願いいたします。