チキンレース

 黒煙が太い柱の様に立ち昇り、都の赤煉瓦を煤で染め上げる。
大通りには巨大な篝火が等間隔に並び、虫の様に群がる住民が狂気じみた歓声をあげていた。

 群衆の視線の先、聳え立つ二つの白い柱の間に動く巨大な影があった。鎧を着た竜だ。炎の熱を浴び、黒煙を吸い込んだ竜の興奮は今や最高潮に達しようとしていた。俺は騎手だ。この都のレースに出場する。

 ルールはシンプルで最高だ。目印の黒煙に沿って空を飛び、生きてゴールすること。あとは自由だ。騎手を炎で焼き、竜に喰わせても良い。ハルバートで竜の首を叩き斬っても構わない。

 群衆から悲鳴が上がる、見物人が竜に喰われたのだ。
「近づきすぎの馬鹿が」
特注のフルプレートメイルを着た騎手の一団が竜の元へと歩きだした、手には鞍と得物を持っている。群衆はそれに気づき歓喜した。
俺は相棒に近づき、牙の間に詰まった肉片を取ってやった。
「準備は良いか?相棒」
相棒は目を細め、低い唸り声で答えた。

【つづく】

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