ただいま樹木葬

休憩室で机に突っ伏している
雨で湿った机から木の匂いが胞子のように放たれる
ぎゅっと目を瞑り、眠りへと意識を傾ける
強く強くまぶたを閉じる
いま私は死んでいる者なのだと思ってみる
温度を持たない物体になったとイメージをする
すると
咲いた
景色が次々と咲きはじめる
いもうとの顔が白んでゆく
防波堤に沿って並ぶテトラポッド群が震えだす
クラスメイトが私に向けた紫色の視線はゆがむみたいにおどって
現代文〈下〉157ページ右から9行目「再びそれはひらいた」に鋭い西陽が射す
青痣の鈍痛と鍵穴のひかり
知らない町の知っている夕焼けを緩衝材として
感傷剤として
焼け爛れてみたりする
ぜんぶ私
なのに
他人事
私は知らない
私は見ていない
なにもわからないまま流されていく夢
眠りまであと3cm

すっ

まぶたに刃を入れられる
ひらかずともひらかれるまぶた
赤い視界
どこを見ても赤い赤、赤い赤
あかいあか
夢のようなリアル
窓に打ち付ける強い雨が
感覚に靄をかけていく
見えているものが夢めいていく
目を瞑った先の景色のほうがずっと現実らしく、うねる

いままぶたをひらいてみているあれやこれは
すべて夢
そうだったでしょう胎内の頃
羊の群れが柵にたむろして
いつも私の夢の邪魔をした
どこからか水がどっと押し寄せて
羊の群れを、柵を、眠りを
飲み込んだ
夢だけが残って
ようやく
「再びそれはひらいた」
懐かしい匂い
やっと私は樹木になれる

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?