こんなに青臭かったっけ?『フラグタイム』

フラグタイム』を見た。

主人公である森谷美鈴(伊藤美来)は内気な高校生で、1日3分間だけ時間を停止させられる能力を持っている。ある日、時間を止めている間に人気者で美少女なクラスメイト・村上遥(宮本侑芽)のスカートをめくっていたところ、なぜか遥が動きだし、能力がバレてしまう。遥に能力が効かない理由がわからないまま、美鈴は遥の「お願い」を受けて、遥のために時間停止能力を使うことに。遥に振り回されながらも、強く惹かれていく美鈴だが……。

こんな下手なあらすじよりも公式ホームページのIntroductionとかCharacterとかを読んでもらったほうがよっぽどまともな説明が書いてある(なお、Introduction以外のページはテキストがコピーできたり、Theaterページで各劇場の上映スケジュールが見られたりする親切仕様である)。でも、まあ、「百合姫は軟弱。ガレットを読め」という言葉を2019年末にして見かけ、既視感に感動した百合ヲタとしては、感想と、あのころの百合についての思い出を書かないわけにもいかない。「百合姫は軟弱。つぼみを読め」の道も、「百合姫は軟弱。ひらり、を読め」の道も通ってきた身としては……。

さて、『フラグタイム』の感想である。『あさがおと加瀬さん』と同じスタッフ陣の本作だが、『加瀬さん』を見ていない私としては、ところどころ差し込まれる心象描写に、 同じ佐藤卓哉監督の『selector infected WIXOSS』を思い浮かべて、なんだか戦々恐々としてしまった。砂場に突き刺さるスコップとか怖すぎる……。
とはいえ、記事タイトルにも書いたとおり、今作はあくまでも人間関係、特に学校における人間関係にありがちな悩みを持つふたりの少女が真っ向からぶつかり合い、成長する物語である。美鈴は他人からの評価が気になりすぎて人と馴染むことに恐怖心を持ち、クラスメイトに話しかけられてもほとんど返事ができない。いっぽう、遥は他人によく思われたいがために八方美人な上辺を作り上げた末に、自分自身の芯をなくしてしまう。書いてしまえば、実にありふれた悩みだが、制服を着て、教室の中で何時間も過ごす高校生にとっては一日中頭を悩ませる問題でもある。
映画は、美鈴の立場に寄り添い、美鈴のモノローグとともに進む。そのため、遥がなにを考えているのかはほとんど謎である。そして、謎めいた遥に振り回されるうちに、美鈴は自分の望みと向き合い、誰かに伝えるために自分の考えていることを自然と口に出せるようになるまで成長する。いっぽう、遥もまた美鈴との触れ合いで、誰に対しても優等生的な振る舞いをする美少女、という、遥の思う「他人に求められている自分」「他人から高く評価される自分」から脱してゆく。これらの過程が、愚直なほどまっすぐ描かれているのが逆に新鮮だ。そして上質な百合だ。

そう、上質な百合なのである。もともと、女子ふたりがメインのジュブナイル作品は百合に事欠かない(『ふたりのロッテ』から『電脳コイル』から『ふたりはプリキュア』まで)が、『フラグタイム』もその例に漏れない。美鈴が遥を見る視線は熱を帯びているし、一心に遥のことを考える姿はどうにも意地らしく、遥のちょっとしたからかいにあれやこれや動揺する様子はもう、たまらなかった。
また、遥の美少女ぶりもよい。子犬みたいにまるっこい美鈴と対比された、すらりとした体――これはすこし変態っぽい視点かもしれない――と、丁寧に描かれた仕草が、長い黒髪と相まって、私は『マリア様がみてる』の小笠原祥子さまを思い浮かべてしまった。そもそも、「遥」という名前はいかにも美少女にふさわしい。
そんなふたりが、手をつなぎ、追いかけっこをし、壁ドンからキスまでのあれやこれやのスキンシップの満艦飾を見せてくれる。そして「森谷さん!」「村上さん!」と名前を呼び合いながらお互いを少しずつ知って、大きく心を近づけていく。百合オタクとしては咽び泣くしかない。
私が一番ときめいたシーンは、時間を止め、美鈴と遥がはじめて交わす、保健室でのキスだ。重要なシーン、綺麗なシーンは他にいくらでもあるだろうが、あのキスの甘酸っぱさはほんとうにすばらしかった。

それから、エンディングの『fragile』カバー……アラサーの心にはバッチリ突き刺さったっていうか、『fragile』が突き刺さずに何が1990年代前半生まれだって感じだ(?)。あらためてちゃんと聞いた『fragile』の歌詞は、それはもう本編のストーリーに沿っていて、イメソン好きには最高に幸せだった。声優さんたちの演技もむろん、最高によかった。

なお、『あさがおと加瀬さん』『フラグタイム』に続く、「2010年代前半からある、高校が舞台の百合作品」をアニメ化するとしたら……という妄想への答えとしては、『キャンディ』『リスランタン・プティフルール』『レモネード』(これは舞台が中学だけど)を推しておく。や、好きな作品を推してるだけってわけじゃないですって。それと小説なら『384, 403km あなたを月にさらったら』とかどうですかね……。




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