見出し画像

メロンのトルタ 生ハム添え

果房 メロンとロマンがメロンを使ったお家で楽しめるレシピを発信する企画、「メロンのレシピノート」。

第19回は、果房 メロンとロマンが位置する東京・神楽坂でイタリアのフリウリ=ヴェネツィア・ジュリア州の郷土料理とワインが味わえる「NODO」さんがレシピを考えてくださいました!

外観昼

今回お話をお伺いしたのはオーナーの及川 博登さんとエクゼクティブシェフの浅野 拓也さん。イタリアの郷土料理の魅力と、お店を出されるまでのお話をお伺いしながら、メロンレシピについて教えていただきましょう。

➖NODOをはじめとして、神楽坂でイタリアの郷土料理を提供する3つのお店を経営していらっしゃる及川さんですが、イタリアとの出会いについて教えてください。

画像2

及川さん:私が20歳の時に、生まれて初めて訪れた海外の国がイタリアでした。ちょうどデザインの勉強をしていた時で、とにかくイタリアの街並やファッションを見てみたい!と強く思ったんですね。現地でマルゲリータを初めて食べたのですが、生地とモッツァレラチーズの食感や、トマトのフレッシュ感が素晴らしく、衝撃的な美味しさだったのを今も覚えています。その体験がイタリアの食に対する興味の原点でもあります。

その後もデザインの仕事をしながら定期的にイタリアに足を運んでいましたが、30歳半ばくらいの時に、「もっとイタリアとつながり、その素晴らしい文化を伝える仕事がしたい」と考えるようになりました。食べることが好きだったこともあり、イタリアの食をお店を通じて伝えていこうと、思い切って独立を決心しました。

➖イタリアの郷土料理に注目されたのは何故でしょうか?

及川さん:イタリア料理は日本全国食べられる場所がたくさんあって、その文化は日本にも定着しています。でも、実際に自分でイタリアを訪れてみると、現地の料理と日本で一般的に認識されている「イタリア料理」のイメージの乖離に気づきました。バーニャカウダはピエモンテでしか食べられないし、ミラノ風カツレツはミラノでしか食べられません。ピザは日本でいうお寿司のような存在で、きちんとしたピッツェリアで食べる料理というイメージです。ひとくくりに「イタリア料理」といっても、ひとつひとつに生まれた場所や背景があるんです。

画像3

例えば、イカスミのパスタはヴェネツィア発祥の料理なのですが、そのことは、日本ではあまり知られていません。ヴェネツィアは海抜が非常に低く、海が荒れ少しでも水位が上がると街が浸水してしまうような場所。数百年も昔、戦いに敗れた北イタリアの人々が、ぬかるみが多く、侵攻されにくいヴェネツィアの地に逃れて住み始めたのが都市形成の始まりです。その人々が手に入れやすい海の幸を使って作ったのがイカスミのパスタの起こりとされています。「イカスミのパスタが食べたくて」生み出された、のではなく、ヴェネツィアの人々は生きていくために「イカスミのパスタしか作ることができなかった」んですね。

そういったイタリアの料理のひとつひとつの背景にあるストーリーを現地で知った時、とても面白い!と思ったんです。そこで、全ての料理をひとくくりに「イタリア料理」と表現するのではなく、その料理のもつ歴史や物語も伝えることができるお店にをつくりたいと思うようになりました。

最初にオープンしたGli Scampi(リ・スカンピ)はヴェネツィア州、次にオープンしたIL BOLLITO(イル ボッリート)はエミリア・ロマーニャ州、そしてここ、NODOはフリウリ=ヴェネツィア・ジュリア州の郷土料理とワインを味わっていただけるお店です。

➖NODOが扱うフリウリ=ヴェネツィア・ジュリア州のワインや郷土料理にはどのような特徴があるのでしょうか?

画像4

及川さん:イタリア北部のフリウリの大きな特徴は、オーストリア、スロヴベニアの国境に位置するということです。歴史的にオーストリアに支配されていた時代もあり、イタリアの土地でありながら、異国の文化が色濃く残っています。

フリウリのワインといえば、オレンジワイン。フリウリは日本の稚内とほぼ同緯度の寒冷な気候で葡萄作りが非常に難しい場所です。100年以上前に、GRAVNELという生産者が、不作だった葡萄を使って数種類の醸造方法を試したところ一番美味しかったのが、皮ごと白葡萄を圧搾するオレンジワインだったことから、フリウリで広くつくられるようになりました。NODOに来たらまずはフリウリの生産者さんがつくるオレンジワインを味わって、知っていただきたいですね。

画像6

↑これまで60を超えるイタリアのワイナリーを訪れたという及川さんが現地で撮ってきた生産者さんの写真。浅野さんのお茶目な姿が映り込んでいることも。左から2番目がオレンジワインの第一人者GRAVNERの四代目のJoskoさん。

画像6

↑オレンジワインの作り方について写真を見せながら丁寧に教えてくださいました。

浅野さん:フリウリの代表的な料理の特徴は、クミンやキャラウェイ、パプリカパウダーなどのスパイスを使うことです。

画像7

スパイスを使うのはイタリア全土の中でも南部のシチリアと北部のフリウリだけ。フリウリにはトリエステという港があって、スパイスが高級食材であった時代から交易の拠点になっていたことも料理に影響を与えています。さまざまな文化が交差する場所なので料理名もイタリア語だけでなく、スラブ語やドイツ語、オーストリア語などの影響があり、勉強するときにはイタリア語以外の知識もないと料理を理解できないので大変です。(笑)

土地柄、海の幸も山の幸も味わえて、さらに、イタリア文化が色濃く残る料理や、オーストリア料理に近いもの、スロベニア料理に近いものなど、味のバリエーションが多いのもフリウリの特徴です。以前、オーストリア料理とパスタ料理が好きというお客さまがお店にいらっしゃり、「オーストリアの料理とパスタが同時に味わえるなんて、こんなお店ないよ!」と感激してくださったのは印象に残っています。

➖浅野さんは、及川さんが最初のお店Gli Scampiを立ち上げた時から、エクゼクティブシェフとしてお店に立っていらっしゃるとのことですが、どのような経緯でお店に関わることになったのでしょうか?

浅野さん:もともとフレンチの料理人だったのですが、とあるお店で独立前の及川さんと一緒に働いていたのがきっかけです。ある時、及川さんに誘われてイタリアを一緒に訪れたんです。私にとっては初めてのイタリアだったのですが、そこで歴史や郷土料理に触れてみたら「すごく面白い!」と感じて。ビシビシと伝わってくるものを肌で感じました。イタリアの郷土料理のにあっという間に魅了され、及川さんと一緒にお店をやっていく決心をしました。もともと歴史の勉強が好きだったということも影響していると思います。

画像29

➖郷土料理やその土地のワインを知るにあたり、情報収集はどのように行なっているのでしょうか。

及川さん:今は、インターネットである程度情報は収集できる便利な時代ですが、一番は現地に足を運ぶことです。今はコロナ禍で開催が難しいのですが、毎年浅野や神楽坂の3つのお店のスタッフたちとイタリアを訪れることにしています。行った際は少しの時間も無駄にできない!という思いでワイナリーを訪れて生産者に会ったり、1日に何食も現地の料理を味わったり。

比較的ハードな行程である一方、現地に行って帰ってくるとスタッフの変化も目に見えて分かります。熱量が高くなるんです。スマートフォンの待ち受けも帰国後にイタリアの風景の写真になっていたり。(笑)

画像9

↑店内に並ぶ生産者さんの写真と直筆のメッセージ。これを眺めながらお食事をいただくのもお店での楽しみのひとつ。

私が言葉でいくら表現しても10%しか相手に伝わらないものが、本人が実際に現地に行くことで100%理解してもらえる。だからこそ、現地を訪れるということは非常に大切にしています。
そういう経験が積み重なって年々お店が進化していく過程もひとつ感じていただけると嬉しいです。

浅野さん:今はYouTubeなどで、郷土料理のレシピが紹介されているので、そちらをもとに調理、再現してみることもあるのですが、同じ材料と手順を用いても上手いこと再現できないことがあります。日本で試行錯誤している間はいくら考えても原因が分からないのですが、現地に行って料理を食べてみると、食感や料理の質感をリアルに感じることができるので、どのように作るべきか瞬時に理解できるんです。

イタリアはもともと食材が豊富な土地というわけではなく、歴史的に都市同士の争いを繰り返してきた歴史もあります。そんな中、自分たちの住む土地で得られる食材をいかに美味しく調理するか、知恵を絞って生まれたのがイタリア料理のルーツ。レシピを作る時、現地における料理の味わい、空気や雰囲気、自分が感じた感情を思い起こしながら考えています。それに加え、その料理が歩んできた歴史も必ず理解するようにしています。その過程を経ていない人がいくら完璧に料理をしたとしても、そのパスタを食べてみると、美味しいんだけど、あと一歩何か物足りない。現地で何かを感じ、歴史を理解した人が作る料理と、そうでない人の料理の間には決定的な違いがあるんです。

➖そんな浅野さんが今回考えてくださったのが、メロンのトルタ 生ハム添え。このレシピを考えてくださった経緯について教えてください。

浅野さん:イタリアでメロンといえば、生ハムメロンです。エミリア・ロマーニャ州の真ん中を流れるポー川流域はメロンの名産地として知られています。平野が多いこの州では生ハムの生産も盛んです。その地域で夏に食べられているのが生ハムメロン。暑い夏でも豊富な水分と塩分で美味しく食べられる前菜として誕生しました。この生ハムメロンの文化をさらにイタリアの郷土料理であるトルタと組み合わせて表現しようと考えました。

画像10

トルタとはイタリア語でケーキのことで、マンマ(お母さん)がつくる昔ながらのケーキです。地域や家庭ごとにレシピが異なり、その土地や時期に採れるフルーツを中に入れます。一般的にはりんごを使って作るトルタ・ディ・メーレが有名です。今回は、りんごの代わりにメロンを入ることで、伝統的なトルタのスタイルは維持しつつ、自分なりに新しい生ハムメロンを再現してみようと考えました。

メロンは水分が多く、焼き菓子に向いていないと思われがちですが、このトルタの場合、メロンの水分が生地にいい具合でいき渡るのでしっとりと仕上がります。

また、青肉・赤肉どちらのメロンを使うかで仕上がりが変わってくるのも面白いです。赤肉メロンは果汁が多いのでよりしっとりと柔らかな生地に、青肉メロンは香りがより豊かなのでメロンの香りをより感じられ、生地は
よりしっかりとした食感に仕上がりますよ。

➖使用するメロンにより焼き上がりが異なるのも魅力ですね!このレシピを作る際、気を付けることについて教えてください。

浅野さん:メロンの存在感がしっかり感じられるよう、二種類のカットを用意しています。小さめのカットはトルタ全体に味わいを広げ、大きめのカットはメロンの食感を引き出す役割です。

画像31

また、メロンの水分量が異なるので青肉を使用した場合、赤肉を使用した場合でそれぞれ焼き時間を変えています。

焼きたての味はプリンのようなふわっととろける食感、焼いて粗熱をとったトルタを冷蔵庫で1〜2時間冷やせば生地がしまり、また違った食感を楽しむことができます。焼き立てはふわふわで形が崩れやすいですが、それをざっくばらんに楽しめるのも家庭料理であるトルタならではの楽しみ方。お好みの食べ方で楽しんでいただけたら嬉しいです。

画像31

↑青肉のケーキもつくってくださいました。生地がよりしっかりとしていて、メロンの風味もより強め。

ある程度知っているつもりだったイタリア料理を、違った切り口から見てみると、実は知らなかった歴史や物語がたくさんあり、沢山の驚きと発見がありました。及川さんと浅野さんが、現地で感じた生き生きとした情報をもとに語る郷土料理のお話はどれも本当に興味深く、自分もその土地を旅しているような気分になります。また、次から次へ、郷土料理や生産者のお話をしてくださるお二人のご様子からも、イタリアに対する想いや熱量が伝わってきました。ただ味わうだけでなく、食の物語を聞きながら料理やワインを味わえばより一層美味しく感じられるということを体験できる時間となりました。本当にありがとうござました!

NODO・浅野さんが教えてくださったレシピ:

メロンのトルタ 生ハム添え(8人分)

画像30

材料
メロン(青肉or赤肉)…350g
グラニュー糖…100g
強力粉…125g
バター…50g
牛乳…75g
卵…1個
レモン汁…1/2個分
ベーキングパウダー…8g

ケーキ型18cm

(仕上げ用)
生ハム…お好みの量
生クリーム…お好みの量
マスカルポーネ…お好みの量

※メロンは青肉と赤肉、お好みの方で。青肉はしっかりとした固めの生地感に、赤肉はしっとりとした生地に仕上がる。青肉と赤肉で焼き時間が異なるので注意すること。

事前の準備:
オーブンを180度に予熱しておく。青肉メロンを使うか、赤肉メロンを使うかで焼き時間が異なるので注意する。(青肉:35~40分、赤肉:40分〜45分)

ケーキ型にバターをぬり、底面に強力粉(材料の分量外)を薄くまぶしておく。

画像12


↑事前にバターと粉を型につけておくことで外しやすくなります。

強力粉はふるっておく。

つくりかた:

1.メロンをカットする。半分は1cm四方程度のさいの目状に、もう半分はメ5cm程度のサイズに薄くカットする。

画像13

画像14


2.卵を卵白と卵黄に分ける。

3.メレンゲをつくる。卵白をホイッパーで泡だて、白っぽくなってきたらグラニュー糖を目分量で半分(50g程度)入れ、さらに泡立てる。目安はホイッパーで落として、角が立たない程度。

画像15

4.卵黄に3.のグラニュー糖の残り半分を入れ、白っぽくなるまでホイッパーで混ぜる。

画像16

5.バター50g、牛乳75gを鍋に入れ、火にかけ、バターが解けたら火をとめる。

画像17

6.4.に5.をそそぎ、ホイッパーで均一になるように混ぜる。

画像18

7.6.にふるった強力粉125gを入れ、粉っぽさがなくなるまでホイッパーでしっかり混ぜる。

画像19

8.7.に3.でつくったメレンゲをゴムベラで入れる。気泡をつぶさないようホイッパーで混ぜる。

画像20

画像21

9.8.にレモンの皮を適量削って入れる。

10.9.に1.でさいの目状にカットしたメロンをまぜる。大きめにカットしたメロンは上にのせるのでとっておく。

画像22

11.10.の半量をケーキ型に入れ、平らにする。上に1.で大きめにカットしたメロンをきれいにならべ、10.の残ったもう半量を流し入れる。

画像23

画像24

画像25

12.11.を180度に予熱したオーブンに入れ、焼く。焼き時間は青肉メロン、赤肉メロンどちらを使用するかによりことなるので注意する。

青肉メロンは30〜35分、赤肉メロンは40分〜45分。

焼き時間が終わったら、竹串等を刺し、中まで焼けていることを確認する。

13.飾り用のクリームをつくる。生クリームとマスカルポーネをお好みの量まぜる。

画像26

14.カットしたトルタに、生ハム適量、13.のクリームを適量のせ、完成。

画像27

画像30


外観夜

NODO

〒162-0831
東京都新宿区袋町3番
tel  03-6228-1149

[月〜金]
Lunch 12:00〜14:00
Dinner 17:00~24:00
Take Out 12:00〜24:00

[土・日・祝]
Lunch 12:00-15:00
Dinner 15:00〜24:00
Take Out 12:00〜24:00

定休日
不定休

※営業時間が変更となる場合があります。
詳しくは店舗(03-6228-1149)にお問い合わせください。

photo:Takashi Sato

text:Mayuki Tsujihara
(果房 メロンとロマンのディレクターとして働きながら、ライターとして日本の島々をはじめとして、地域と食をテーマに取材を行なっております。好きなメロンはタカミメロン。)



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?