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ドクター・ペッパーは罪の味がする。

消える直前に蝋燭の火が大きく膨れ上がるように、冬の季節もまた、最期の寒波を放っているようだった。今年最後の雪の日に、僕はマクドナルドをデリバリーした。

夜にマクドナルドを食べるなんて、とダイエットに余念のない女友達からLINEが返ってきた。肉が2倍になるんだよ、とメッセージを送ったが既読はつかない。氷で嵩増しされたコカ・コーラはすぐに水気の混じった薄味になって、ズズズ、と音が鳴った。

年度末の日曜日は何をやるでもなく、成果といえば新発売の任天堂のゲームが進んだことくらいだった。明日からまた始まる時間を切り売りする日々を待つだけの数時間、心は渇き続けていた。

ストローを啜っても水の味しかしなくなった頃合いで、いてもたっても居られなくなり、財布とスマートフォンだけを握って、裸足のままサンダルを引っ掛けて僕は外に出た。

僕はそれを「冷蔵庫」と呼んでいた。路地を1ブロック隔てただけのところにそれはあった。お金を入れなければ中身が取り出せない冷蔵庫、公園脇にあって、誰もが使える冷蔵庫。僕は、冷蔵庫にドクペを取りに来た。

その赤い「冷蔵庫」には、誰もが飲んだことがあるであろうメジャーな飲料水が並んでいた。その中でもどちらかと言えば地味な色合いで、何となく人を選ぶような佇まいの缶がドクペだった。

たまには違うものを飲んでみようかな、という思いも無くはないが、3枚の硬貨を投入し終わった頃には、指がいつものボタンに向かっていた。ガコン、と音がして、僕は財布をしまった。

缶の蓋を指先でぶら下げるように持って、サンダルをペタペタと鳴らしながら僕は家路についた。すれ違うピザ配達の自転車を目で追いながら、お疲れ様、と心の中で呟いた。

ドアを開けて眼鏡が曇ったことで、存外に部屋が暖かいことに気付いた。やはり外は寒かったのだ。椅子に座って、プルタブを引き上げると、プシュ、という小気味良い音が耳に届いた。

誰とも会話の無かった一日の終わりに、ドクペ缶は相応しかった。人工的な甘味が体に何かしらの悪影響を与えてくれることを祈りながら、喉を鳴らしていた。

悲しいのか嬉しいのか知らないが、勝手に溜息が出た。少しずつぬるくなっていくドクペ缶をまた少し、また少しと飲みながら、僕は明日を待っていた。

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