記事に「#ネタバレ」タグがついています
記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。

城平京 雨の日も神様と相撲を

そろそろ何か書くネタがなくなってきたぞ……

好きな本と作家さんを紹介します。

城平京さんの小説「雨の日も神様と相撲を」
です。

「頼みがある。相撲を教えてくれないか?」神様がそう言った。
子供の頃から相撲漬けの生活を送ってきた僕が転校したド田舎。そこは何と、相撲好きのカエルの神様が崇められている村だった!
村を治める一族の娘・真夏と、喋るカエルに出会った僕は、知恵と知識を見込まれ、外来種のカエルとの相撲勝負を手助けすることに。同時に、隣村で死体が発見され、もつれ合った事件は思わぬ方向へ!?

雨の日も神様と相撲を あらすじ

城平京さんは漫画原作も多くやってらっしゃる小説家さんで、私はスパイラル〜推理の絆〜が大好きでした。現行では虚構推理の原作者さんです。この方の作風ってかなり絶望的なんですけど、この作品をきっかけにかなり明るくなったなあと。

主人公が優秀な能力を持ってるくせに自己肯定感が極端に低いって今思えばイキリなろう系なんだけど、相撲取り目指してるのに体格が小柄というのは納得できる理由かなあ。中学生男子ならまだ成長期だから体格についてそこまで卑下しなくてもと思うけど。

相撲は似合わないし、これで何か意味や価値ある所へ届くとも思えない。とうに限界が見えている。それでも、やめる十分な理由ときっかけには恵まれなかった。

意味や価値のあるところに届くとも思えない。ってのは共感しますね。人生の大半の時間を費やしてきたものが無意味に感じる虚無感ってのは、主人公はまだ15だけど、生きた時間が短いと余計そう感じるのかもしれない。
現実でも将来の夢を大人が子どもにしつこく聞くのは暴力的と最近は言われるようになったけどね。

夢なし先生の進路指導っていう漫画も好きです。
虚無や挫折をそのまま素直に描写する作品って最近流行ってるのかな?
サクセスストーリーの主人公への憧れより、自分と同じ痛みを抱える共感できる主人公って最近受けがいいですよね。

前記事でも言ったけど、痛みへの共感は鎮痛剤なんで、共感ばかり求めるのは現実の痛みが耐え難くなってるのかなとちと愚考。共感の礼賛は考えたいテーマではあるなあ。
発達障害は人の気持ちが分からないとか共感力がないとかのイメージから差別されてますしねえ。


私がこの本で一番好きな、痺れたのはこの部分です。
文脈がなければ問題ないとは思いますがクライマックスの引用なんで一応ネタバレ注意で。

文季は今さらながら自覚した。もし未来からこの立場の文季を見れば、文季はもはや神話の一部なのだ。未来にとって神話となる出来事を作れる立場にいるのだ。
『お前は言ったな。秩序とは所詮、ある集まりをなめらかに動かすルールであり、そのための物語に過ぎないと。なら新たなルールと物語を作り、適切な秩序を生んでくれ』

この城平京のミステリー作家としての矜持ともいえる価値観かな?秩序というものの捉え方が大胆で刺激的で好きなところです。
作家性をかなり端的に表してる文章だと思います。

最初は自分が相撲をやっていても意味や価値があるところまで届かないと言っていた文季が、神話を作れる立場にあると自覚し、相撲に愛されていると確信する物語。

私もあと2〜30年で自分の人生が歴史であると確信できるように生きられるのかな?
そもそも2〜30年も生きられないかもしれませんが。

あまりネガティブばかりを表出してても仕方ないんで、他人の言葉に感化されて腐らずいたいよなあ。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?