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1993年 SideB-9「YAH YAH YAH/CHAGE & ASKA」

飛鳥涼作詞・作曲 飛鳥涼・十川知司編曲

・「振り返れば奴がいる」(フジテレビ系 1993/1/13~3/24)主題歌

 フジテレビ系水曜9時枠1月クールドラマ主題歌。「SAY YES」に続く自身2曲目のダブルミリオンシングル。当時同一アーティストが複数のシングルでダブルミリオンを記録したのはCHAGE & ASKAが初めてであり、その後もMr.CHILDRENしか達成していないというズバ抜けた記録である。

 この頃すでにメガヒットアーティストの一員となっていたCHAGE & ASKAだったが、この「YAH YAH YAH」のヒットの意味はとてつもなく大きい。1979年にデビュー、「ひとり咲き」「万里の河」「MOON LIGHT BLUES」「モーニングムーン」「PRIDE」「恋人はワイン色」「太陽と埃の中で」と10年以上かけて地道に積み重ねてきたCHAGE & ASKAとしてのキャリアを、「SAY YES」の超特大ヒットはある意味ご破算にした。少なくともASKA個人にはそう感じられたのではないか。ソロシングル「はじまりはいつも雨」のヒットが重なったこともあり、彼は自分たちに心優しいバラードシンガーのイメージがつくことを恐れたと思う。「SAY YES」の直後に「僕はこの目で嘘をつく」をシングルカットしたとき、そんな彼らの葛藤を感じた気がした。男の計算高さをロックサウンドに乗せて偽悪的に歌った「僕はこの目で嘘をつく」は80万枚を超えるヒットとなる。その後80年代後半に発売した「LOVE SONG」や「WALK」を再びシングルカットし、これもヒット。「モーニングムーン」以降の自信作たち(おそらくは)を収めた「SUPER BEST Ⅱ」も250万枚を超す大ヒット。それでも続くシングル「if」「no no darlin’」は共に心優しいラブソングであった(いい曲だけどね「no no darlin’」。まあそれはともかく)。

 そんな葛藤を「YAH YAH YAH」のメガヒットはすべて吹き飛ばしたといえる。このあと、CHAGE & ASKAのイメージは「SAY YES」よりもむしろこちらの、風に向かって拳を突き出しているイメージになった。ASKAの達成感は如何ばかりであったろう。だが同時にその未曾有の成功が新たなプレッシャーを連れてきたことも間違いないだろう。このヒットが彼らにとって(特にASKA個人にとって)いいことであったのかどうかは今となってはもうわからない。

 このドラマに自らのイメージチェンジを賭けていた人物がもうひとりいる。主演の織田裕二である。この時織田裕二も“カンチ”のイメージに苦しんでいた。彼がこの作品で演じた司馬江太郎は現在巷で語られるほど悪人だったわけではないが、それでも石黒賢演じるうっとうしいほどの正義漢・石川玄と並ぶことで、クールなダークヒーローとして見事にキャラが立ち、結果として織田裕二は新たなイメージを獲得したのである。彼はカンチの亡霊から解き放たれたが、数年後「踊る大捜査線」の成功で再び別のイメージと戦うことになる。

 けれどもテレビドラマ史におけるこの作品の存在価値はまたしても別のところにある。「振り返れば奴がいる」は三谷幸喜が脚本を書いた初めてのゴールデンタイムの連続ドラマである。このドラマの成功で三谷は注目され、翌年の「警部補・古畑任三郎」の執筆へとつながるのである。ただ、この「振り返れば奴がいる」では彼の持ち味であるコメディー的味付けが全く必要とされず(一説にはプロデューサーが三谷がコメディー作家だということを知らずに発注したといわれる)、現場でどんどん脚本が書き換えられたことにショックを受けて、その経験から「ラヂオの時間」という芝居を作ったそうだ(「ラヂオの時間」は三谷の劇団・東京サンシャインボーイズにて93年に上演され、97年には三谷の初監督映画として劇場公開された)。

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