銀山温泉で嘆いたりその背後の山をe-bikeで走ったり
山形の観光界では今や山寺立石寺と並ぶ人気の銀山温泉。
古い造りの旅館が谷あいの川沿いに建ち並ぶ風景はすこぶるフォトジェニックであり、民は我も我もとSNSに投稿するために訪れる。加えて近年ではインバウンドなんたらで海外の観光客も我も我もに加わってどっと押し寄せ、オーバーツーリズムも憂慮されるテーマパーク状態になっているとも聞く。
山形市民であるわたしはといえばしかし、銀山を最後に訪れたのはもはや20世紀の昔だ。その後の銀山といえば、外人女将で有名だった某旅館の、景観にそぐわないと不評な改築の話とか、最近の押すな押すな状態とか、パッとしない話ばかり聞いていたので、近くに行くことはあっても温泉街に足が向くことはなかったのである。
今回ふたたび所用で銀山を訪れる機会を得た。6月も末であったが梅雨入りが遅れてロスタイムの晴天に恵まれていたこともあり、この機に温泉街に足を踏み入れその現状を検証するとともに、南側の山を巡る林道をたどって大谷地沼なる池沼で風情を味わったのち、温泉街に下るループを考案作成した。出動車両は山道に備えて電動アシスト、BESVのPSF1である。
温泉街には駐車場は無い。あっても宿泊客に供するものであり、日帰り観光客は手前の有料駐車場に停めて歩くか、1.5km手前の「大正ろまん館」なる道の駅的な観光施設から連絡バス(往復500円)を利用することを強いられる。観光バスで詰めかける団体客もまた、ここから小さな連絡バスに詰め込まれて圧縮輸送されるため、個人客も運が悪いと一緒くたに圧縮されるおそれがある。であるから自転車を持参するのが最善である。
午前の所要を済ませたわたしは、このろまん館にクルマを停め、持参した昼食を車中で摂った(ろまん館にも食事処があり、ラーメンやカレーなどを供しているが、混雑を憂慮したのである)。
しかるのち、PSF1を展開し、走り出す。温泉街は最後のお楽しみとしてとっておき、先に林道ポタを実行する。
棚田の緩やかな登りから造林地に入っていく。幅員は狭いが全線舗装だ。
ぐんぐん登っていくとブナ源水と銘打った湧水がある。その先はブナ林だ。
ブナの木は近年植林されたもので、どれも若木だ。蔵王の山で見かけるようなブナの古木と比べるとまだ頼りない若者といった風情で、君たち頑張って大きくなれよという感じだ。
周辺の植林地は斜面だが整地されて平坦な箇所も多く、テントを張って泊まりたくなる。
さらに登って行った先にはブナ観音という新しい社が祀られていた。そこからブナ林をゆく遊歩道などもつくられている。
そしてブナ林音頭だ。どこかで聴けるのだろうか。題字は吉村のおばはんこと県知事だ。ムダにお金をかけている。県の肝煎りでこの辺りをブナネタで観光化しようとしたフシもある。
さらに登っていくとサーキット場なるものがある。オフロードバイクで不整地の激坂や凸凹を走り抜ける道楽のための施設だ。この時もエンジンの音が遠くから聞こえていた。この辺りが最高地点である。
音のでかい乗り物とか声のでかい人間とかにはなるべく関わらない人生を志向するわたしは、音のしないe-bikeで粛々と大谷地沼に着いた。
あたりに集落もなく、人気もない。そもそもこの日出発してから軽トラ一台にしか会っていない。
いい雰囲気の沼だが、周囲に遊歩道みたいなものも無く、道から眺めるだけとなった。
ここから銀山温泉に向かって林道を下っていく。眺望もなくただただ造林地の中を下っていく。あまり面白くはない。
飽きた頃に視界が開けて温泉街に着いた。
平日ではあったがそれなりに人出はある。
温泉街に入って目を引くのが、近年の改装が評判の芳しくなかったところのF屋である。和モダンとかいう小洒落たものとされるが、実際目にすると、やっぱりちょっと違うんじゃないかと感じる。ここは山形の奥地なんだから。そういうのは仙台の近所、秋保とかでやってよという気がする。
奥のほうの半分は古風な建築の連なるクラスタだ。この部分が正統の銀山温泉と言える。
まあそれにしても人は多い。写真でそんなに写ってないのは人波が切れる瞬間を待ったわたしの忍耐の為せる技である。
さらに加えて折しも中華圏の団体が到着したばかりで、我も我もとじわじわ奥に向かって移動しようとするところであった。入れ替わりにわたしは華麗に退散したのであった。
川の両岸に建ち並ぶ古風な旅館の織りなす風景が銀山の魅力とされるが、その川も見れば河底はコンクリで固められて風情を欠くし、ほんとうに絵になる旅館の並びは奥半分、長さにして数十メートルだ。そこにどっとツーリストが詰め込まれれば、もはやテーマパークのようになってしまうのは致し方ない。
銀山温泉の真の風情を楽しむには、宿を取った上で、日帰り客の帰る夕方以降にチェックインし、旅館の風情を満喫した上で、翌朝ふたたび観光客の波が押し寄せる前に後にするのが良策であろうと思われる。
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