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ひかりの存在

この土日は、親友の家にお泊りで遊びにいく予定だった。けれど、土曜の明け方、熱っぽいなと思って体温計を測ったら38度近くの熱があって、結局、会うことができなかった。

何年かぶりのお泊りで、すごくたのしみにしていたのに…。

彼女と出会って20年。一時期、彼女が陶芸の修行で距離的に離れてしまっていた時もあったけど、わたしが会いに行ったり、またそこで彼女のお友達を紹介してもらって仲良くなったりして、今、彼女は旦那様と一緒に大きな川を挟んでわたしの住む街の向こう側に住んでいる。

本当は語り明かす中で、わたしの病気のことも話しておこうと思っていた。わたしが双極の症状がはじめて出たときに、親身になって病院に付き添ってくれて一番つらかった時期を支えてくれた大切な人だから。

出会った時から、楽しいこと、うれしいこと、好きなことが似ていて、いつも自然体で気負ったところがなく、決して人を悪くいうことがなく、彼女の手から生まれてくる陶芸作品は彼女のように、温かく、そして、手に取ると安心感を与えてくれる存在なのだ。

今度の骨髄検査の同意書でふたりまで緊急連絡先を登録しておかなければならなくて、一人は母、もうひとりを弟にしようかと思ったのだけど、彼は静岡で先日、最愛の妻を亡くしたばかり。わたしのこともまだ伝えてないので勝手に、弟の電話番号を登録するわけにもいかずで、彼女にお願いできればと思っていた。

そのお泊りの当日、熱を出してしまい会えなくなったわけをメールしなくてはいけなくなった。緊急連絡先のこともお願いしないといけないことも伝えなくては…。

熱がこもってぼーっとしてる頭の中でいろんな思いが入り混じって、どう伝えようと考えているとさらに体中に熱が帯びていく。

平成から令和に代わる4月30日からわたしはやはり原因不明の39度の高熱を出し、ネットでなんとか診察をしているところを探し、診てもらったという記憶がよみがえってくる。

昨日も土曜日。なんでいつもこんな魔の悪い日に熱を出してしまうのだろうと自分を呪った。このまま熱が上がってしまって日曜日に突入してはいけない。そう思って、指示を仰ぐために何度か大学病院の代表番号に連絡を入れるがつながらない。

仕方なく彼女に、熱が出て今日会えなくなったこと、そして、血液のがんの疑いがあるために、現在、いろいろ検査をしている最中で、病院から緊急連絡先を2つ登録するように言われていて、(弟の事情もしってくれているので)申し訳ないけれど、2番目に彼女の連絡先を登録させてもらっていいかという文章を送った。

心の中で突然驚かすような、そして、ぶしつけなメールを送ってしまったことを詫びた。

彼女にメールを送って、ふたたび病院に連絡を入れたら、ようやく繋がり、事情を話すと、土曜日は血液腫瘍内科の外来はやってないとのこと。救急の方に電話を回しますと言われた。

救急の看護師さんと電話がつながって事情を話すと、医師の方からに今飲んでいる痛み止めの薬が痛みと解熱作用どちらにも効くので、とりあえず、様子をみて、それでも熱が下がらないようなら、月曜日に受診してくださいと言われた。

すぐに薬を飲んで午前中は熱の中でいつの間にかまどろんでしまった。

目が覚めたのは昼前で、彼女から心配するメールが届いていた。ありがたいことに緊急連絡先を言ってくれてもいいし、必要ならと固定電話の番号まで書いていてくれた。

午後に少し熱も落ち着いてきたので、電話すると彼女は電話口で

「もう、ほんと心配した、心配したよ…、びっくりもだけど、どうすればいいのかわからなくて、声聞くまでめっちゃ不安やったんや…」

と、どんどん涙声になっていった。

「ごめんね、ほんとごめん…。いつも心配ばかりかけてしまって。それも突然、メールでがんの疑いがあるなんて言われて、そんなの読んだらびっくりするよね、ほんと不安にさせてごめん」

わたしは彼女に自分ががんかもしれないということを、本当は言いたくなかった。やっぱり大好きな彼女を悲しませたくないから…。だから、やっぱり彼女が泣いたとき、わたしも泣いてしまった。

がんという病気は家族や周囲の人をも、深い絶望の底へと突き落としていく病気だというのを、父と妹をがんで亡くした経験上、痛いくらいにわかっているつもりだ。そして、今度はわたしの番なのかと。

彼女はでも、涙ながらに言ってくれた。彼女は結婚してまだ間もないのだけれど、旦那さんにきちんと話をして、もし必要な時があれば制作をセーブしてでも、わたしのことを優先できるようにと。

高齢の母と独身であるわたし。これからどうなっていくのかわからないけれど、やはり、いつか誰かの力を借りなければいけない時がやってくる。

わたしの癖でつい人生の悪い側面を見がちなところがあるのだが、彼女はいつもわたしの中の「ひかり」として存在し、支えてくれていることに心から感謝している。

ありがとう、Kちゃん。






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