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[小説]まぶしい

本宅からの呼び出しは、ほぼ100%面倒ごとだ。

心底嫌そうにその手紙に目を落とす幼なじみの姿を見ながらジョーカーは身構える。

手袋をしたままの指先から放り出された上質な紙が、自らの手元に落ちる。ため息を飲み込んでそれに手を伸ばし、口を開いた。

「厄介ごとか?」

答えはない。自分で読めということらしい。

肩をすくめ、手元の紙に目を落とす。どうやら、次回の視察先いる一族の分家からのぜひ挨拶をとの申し出に対し、顔を出してこいとのことのようだ。

「誰、この分家って」

純潔ではない女性を妻に迎えたことで、ほぼ一族とは関わることがなくなった傍流の中でも傍流の家。

幼いころに記憶した家系図を呼び起こし、ルパートは短く答えた。

「会ったことは?」

「ない」

やっぱり本宅からの手紙にはロクなことがない。ジョーカーは、今度こそ盛大にため息をついて天を仰いだ。

その手紙を受け取って2週間後、本家の嫡子としての責務を果たしたルパートはこの上なく不機嫌だった。

彼はそれを周囲に気取らせ隙を作るような教育をされていないため、望み通りの初対面を終えた幸せな一家は気づいていないだろう。だが、物心ついた頃から一緒に育てられた気安さからか、ジョーカーの前では欠片も隠す気はないらしく、その不快さだけが伝わってくる。

分家の家族に落ち度があったわけではない。むしろその反対に、一家4人は礼を尽くして2人を歓待してくれた。

問題は、それが眩しすぎたのだ。

その「家族」からあふれ出る幸福が。

今日と明日の境界線を越え、車は加速する。夜明けの太陽が、胸を焼くあの凶暴なまでの光を中和してくれるだろう。

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