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記念日②

華やかな声と同時に、閉じた瞼に強烈な光。思わず目を開けると、そこは光にあふれたダイニングだった。

中央に設けられた大きなテーブルに、ものすごい量の料理が並んでいる。昨日マルクトで買った果物が綺麗にカットされ、色彩豊かに盛り付けられた皿もある。テーブルの中央にあるのは段重ねの大きなケーキだ。

「え…何これ」

訳が分からない、という顔で振り返る視線を正面から受け止めたジョーカーは、先ほどとは違う溶けるような笑顔でマクシミリアンの肩に手を置き、口を開いた。
「今日でお前がここに来てちょうど1年だろ?そのお祝いだ。正式にお前の後見をするって、今あいつが手続き…っていうか報告に行ってる」
「……」

1年。頭を混乱させたまま、ダイニングに広がる光景に再び目を向ける。キラキラと輝く照明に照らされたグラスに食器、その上の色とりどりの料理やデザート。そのテーブルを囲む人々の笑顔。
そこにあるのは確かに愛情で、それはここで過ごすうちに知らず知らず、しかししっかり身に馴染んだものだ。

「どうぞこちらへ、坊ちゃま。伯爵もルパート様も、記念日を大切になさるんです。このお祝いも楽しみにしておいででしたよ。もちろん私たちも」
「マリー、言うなって」
「いいじゃありませんか、伯爵。本当のことなんですから」
「そりゃそうだけど…」

さらに言い募ろうとしたところへ、マリーがさらに追い打ちをかけた。

「ルパート様」

瞬間、肩に置かれていた手は隣にあった気配ごと離れた。

代わりに手を握ってくれるのはマリーだ。フェリカが手を取ってくれることもあるが、体温のある手は温かい。マリーが引いてくれる手に従い、テーブルに着いた。

「今日から正式にマクシミリアンを後見する」

グラスを合わせる澄んだ音に先駆け、従兄が口にしたのはそれだけだった。

でも、それで十分だ。

普段ダイニングで食事をすることはないルパートが、ジョーカーが、そしてここにいるすべての人が、「今日」を喜んでくれている。

「今日はあなたの特別な日。記録しておきます」

隣に座るフェリカの声でさえ、心なしか弾んでいるように聞こえた。

口に入れたケーキは、すぐに溶けて消えてしまった。

それでもこの胸に灯った温もりは、きっといつまでも残るだろう。

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