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【小説】始まり①

夢を見ていた。とても温かく、幸福な夢だ。
そこから離れがたく、何度も振り返りながら、でも意識は覚醒してくる。
目を開けたくない。
その思いを裏切るように、目は勝手に開いた。

そこにあったのは、見覚えのない景色。

いつも目に映る天井は、こんなに高くはなかったし、シーツの肌触りだって違う。

「―あぁ」

少年の口からため息のように声が漏れた。

そうだった。
ここは、本家の一人息子である従兄の家だ。

「お目覚めですか?」

夢に戻りたい。もう一度目を閉じてしまおうとしたとき、どこかで見ていたかのようなタイミングでー実際見ていたのだろうー朗らかな声と共にドアが開いた。

入ってきたのは、その声の陽気さを体現しているような女性だ。恰幅の良い身体で、テキパキと朝食の準備をしていく。

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ロットヴァイル公爵家の当主は、その名を広く知られているのに対し、実際に面識のある人間はそう多くない。いや、ほとんどいない。

メディア嫌いとしても有名で、実像を知る機会は非常に限られている、ある意味国王一家よりも好奇心を刺激する存在だった。

そのロットヴァイル公爵家に後見される身となることが自分にどのような影響をもたらすのか、マクシミリアンには想像できずにいた。

「よし、着いた」

遠路はるばる迎えに来てくれた公爵の名代を務める男は軽やかに言い、自動運転を停止する。

「ルパートはもう寝てるだろうから、会うのは明日だ。今日はマリーが世話してくれる。まぁ…色々大変だろうけど、ちゃんと休めよ」

屈託のない口調のままそう告げると、ジョーカーは少年を促して車を降り、公爵邸へと足を向けた。

車中での説明によると、ここはルパートが普段使っているいわば別宅で、本邸は別にあるという。合理性とシンプルさを好む当主の意向を反映した建物は、王国貴族の筆頭とも称される公爵家のものとしてはコンパクトな造りをしていた。

ゆったりと取られたエントランスホールからは左右に廊下が伸び、ホールの奥には広い階段があり、階上へと続いている。

その手前でテーブルに着いていた女性が立ち上がり、笑顔で歩み寄ってきた。

「マリー、後は頼むよ」

その女性に親しく呼びかけ、肩に軽く触れるとジョーカーは階上へ足を向けた。

「…ルパート」

案内されるままに邸内の左廊下へと足を向けかけていたマクシミリアンが振り仰いだ先に、一族を束ねる従兄が姿を見せていた。


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