劇団四季『アナと雪の女王』－深読み

久しぶりのコラム投稿になりました。
少し前のことですが、『アナと雪の女王』を観劇しました。
映画版との違いなどを踏まえ、まとめてみます。

「アナ雪」の概要

2013年ディズニー映画『アナと雪の女王』が公開されます。
アカデミー賞長編アニメーション賞と歌曲賞のダブル受賞を果たし、続編も2019年に公開され、日本でも多くのファンを獲得しました。
そのアニメーション映画を舞台化したのが、こちらのミュージカルです。

2017年にデンバーでトライアウトを行い、2018年3月からブロードウェイで上演開始。
日本では2021年6月から新生・四季劇場春の初のロングラン作品として開幕しました。

作詞作曲 : クリステン・アンダーソン＝ロペスとロバート・ロペス夫妻
台本 : ジェニファー・リー
プロデューサー : トーマス・シューマーカー

舞台化に向けて

台本のシューマーカーさんのインタビューに、

『この舞台では映画よりも登場人物の感情をさらに多く解放することができた。感情を解放し台詞よりも歌を多くすると舞台が高揚する。まさに〈アナと雪の女王〉はミュージカルにうってつけの作品だ。』

とありました。
映画公開前から舞台化が決定していたことからも、舞台に本作品が適していることが伺える。
しかし、映画版そのままを舞台化したわけではなく、より大人向けのミュージカルにすべく、いくつかの工夫がされている。

・12曲もの新曲を加え、二幕のミュージカルとしてのボリュームを出した。
・より大人が楽しめる作品にするために、ゴツゴツとした岩で表現されたたトロールを〈隠れ人〉という神秘的な人間にした。
・映画では歌うシーンの少なかったクリストフは、舞台版ではかなり歌唱シーンが増えている。

舞台化に向けて新曲が加わったことで、各キャラクターの心情が深掘りされるという効果が現れた。
ミュージカルでは、感情が高まり溢れて歌になるため、これは当然のことかもしれない。しかし、映画版をより発展させて、エルサの心境の変化を表したことは、この舞台を女性の成長物語としての印象を強めた。
では、以下に詳しく解説してみよう。

エルサの感情の変化

〈ありのままで〉
1幕最後にエルサが歌う〈let it go〉は、映画版でも有名な名曲だ。
この〈it〉 は魔法を指している。魔法が出てしまうなら、我慢しないで解放させよう。今まで抑圧していた感情を解き放とうという自己解放の歌。
何かしら抑圧された感情を抱いている我々は、この曲を聞いてスカッとし、エルサを応援したくなるのだ。

〈モンスター〉
自由になったはずのエルサであったが、2幕になると、エルサの魔法でアレンデールが凍りつき、またしてもアナを傷つけたことで、エルサは自分の存在意義を見失う。　　　
自分がいない方が良いのでは？と葛藤し苦しむ。
しかし女王としての責任と愛する者たちを救いたい思いから、自らアレンデールの城に戻り、囚われの身になる覚悟をする。
〈モンスター〉の一曲の中で、絶望、葛藤から覚悟を決めるまでの感情の変化と、エルサの成長を表現するのだから、〈ありのままで〉に勝るとも劣らない名曲と言えよう。
実際、新曲〈モンスター〉が加わったことで、観客はエルサの感情の変化を知り、彼女に寄り添うことができた。

恐怖vs愛

さて、女性の成長物語だけではなく、もう一つ大切なメッセージが隠されていたことをお話ししたい。
1幕始めにエルサは〈隠れ人〉から
【恐怖が敵になるだろう】というお告げを言い渡されている。
振り返ってみると、エルサはアナを傷つけることを恐れるあまり、彼女の行動の出発点は『恐怖・恐れ』であった。
それに反してアナの行動の原動力になっていたのは、エルサと楽しく過ごしたいという『楽しさ』を求める『純粋な愛』であった。
もちろん両者ともに『愛』がその基盤になってはいるが、エルサは恐怖に支配され心を閉ざしてしまう。
最後の最後に、アナの自己犠牲をも厭わない『真の愛』に触れ、エルサの閉ざされていた心も、ようやく解放される。
愛を基盤にした『純粋な愛』こそ、姉妹の絆を取り戻し、家族再構築の鍵となっていた。

人生は、選択と行動の繰り返しだ。
さあ、あなたのその選択は、恐怖に支配された選択なのか？純粋な愛からくるものか？
『アナと雪の女王』は、そんなことを考えさせる、大人にこそ観てもらいたいミュージカルだった。

長い文章をお読みいただきありがとうございます🥰

劇団四季の役者さんの演技力・歌唱力・舞踏力と、それを支えるスタッフの方々の技術があってこそ成り立つ舞台だと思います。
素晴らしいステージをありがとうございました❗