思い出話その6・たまごサンド

単純にすきなたべもの、というのとはちょっと違う温度で、あぁ今これが無性に食べたい!というのが時々ある。

その率がずば抜けて高いのがたまごサンドで、ツナサンドでもハムレタスサンドでもカツサンドでもだめで、卵サラダでもオムレツでも、目玉焼きのトーストでもだめ。
たまごサンドのときは、もう、完全にたまごサンドだ。

中学生のころ、職業体験というやつで、小さなパン工場にお世話になった。
地元のスーパーに卸し、工場には近所の人たちがすこし買いに来るような、古く小さなそこで、ほんの三日間だったけれど、将来料理の仕事をしたい、と思っていたわたしは、体験とはいえ結構本気、真剣だった。

朝、先ずやったことが、大量のゆで卵を剥くこと。
家でせいぜい5、6個を剥くのとは違う、100個以上の卵の山が鍋の中にあり、水を流しながらどんどん剥いていく。
剥いた卵はボウルのなかで大量のマヨネーズと和えられて、サンドイッチになる。

それから、パンや甘食を袋に入れて重さをはかり(すこし多めになるように)、
赤いテープをがちゃんとやって(あの煎餅とか留めてあるようなちょっと開けづらいあれ)。
包んだものを箱にいれたり。掃除も洗い物もした。

それまで苦手で食べられなかったあんこを好きになったのも、あそこで、蒸し立てのお饅頭をいただいてから。
うわー、こんな風にできるのね!と、大きな蒸し器、そして蒸し立てほかほかのお饅頭には、本当に感動した。

あれから十年以上が経ち、カフェのバイトでも、家でも、何百回と卵を剥いて潰して、サンドイッチにした。
でも、何度重ねても特別なものという思いは消えず、あれは本当にいい体験、だったのだと思い出す。
こつんと割って、水に濡らし、つるりと剥きながら。

ハムとレタスのサンドイッチ、とか、ツナのサンドイッチ、とか。他のものたちはみんな、サンドイッチ作ろう、中身何にしよう、の中のひとつなのだけど。

たまごサンドだけは、まったく固有の、もう、完全にたまごサンドだ。

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