マガジンのカバー画像

短いおはなし7

1,035
運営しているクリエイター

2023年12月の記事一覧

瞬きは、意地らしく。

瞬きは、意地らしく。

神様が地下室に降りっていきながらぼやいた。
何度やっても人間はうまくいかないな。。
地下室では人間たちの魂が瞬いていた。
瞬きは、祈りとときめきで
意地らしく燃え続けていた。
神様はホットワインを飲み
眠ってしまった。
外は酷いほどの嵐だった。
瞬きは、意地らしく燃え続けていた。

好きは優劣ではない。

好きは優劣ではない。

詩の学校で北原白秋先生が言った。あなたがあなたの作品を好きにはなるでしょうね。あなたのつくるお味噌汁の味をあなたが好きなように。好きは優劣でもなければ、傲慢でもありません。むしろしかたのないもの。あなたの好きを他の人の好きに左右されないようにね。大事に好きになってあげてください。

チーム男の子。

チーム男の子。

男の子は、仕事に行く前に、今朝も〝チーム男の子〟に声をかけた。鞄に、今日も頑張ろう。コートに、昨日少し汚してしまってごめんね。そして、あたりにいる身近なひとの精霊や、好きな物語の精霊に言った。出会ってくれてありがとう。いつも近くにいてくれてありがとう。

こころなんて切り取ってしまいたい。

こころなんて切り取ってしまいたい。

こころなんて切り取ってしまいたい。
きつねは思った。
さみしがりで、妬み深くて。。
そして、ある日、切り取った。
子猫くらいのこころは、
雨の夜道をついてきた。
きつねは言った。
付いてくるなよ、
もう関係ないんだから。
しばらくして、きつねは
ずぶ濡れのこころを
コートの内ポケットに入れた。

また、ゼロからか。

昔、仲間も作品の権利も失くした男がいた。ニューヨークの安アパートの地下室で、またゼロからか、と、夜な夜な作品をつくっていた。毎晩あらわれるねずみがいた。男は彼に話しかけた。なあ、僕たち、一緒に頑張ろうぜ。僕のモデルになっておくれよ。いつか君が主役の夢の国をつくりたいんだ。

奥底の庭。

奥底の庭。

詩の学校で、エリックサティ先生が言った。あなたが失い、非難され、独りの時、あなたの奥底の庭まで降りてゆきましょう。庭では、澄んだ水が流れ、花が咲き、樹々がそよいでいます。それは、運命や他のひととは別に。あなたは、あなたの庭のあなたの音楽に従って生きてください。

結果は一過性のもので、続けることは人生だった。

結果は一過性のもので、続けることは人生だった。

世界の果てのある街で暮らす男は、歩み続けた。いちどだめでも、酷い目にあっても、みじめでも、孤独でも、疲れ果てても、雨降りでも、嵐でも、歩み続けた。結果は一過性のもので、続けることは人生だった。男は、なにかある度、部屋のコットンとティーカップに言った。でも、おれは、続けるよ。

便箋と封筒。

便箋と封筒。

きつねは、なにかの拍子に
泣きそうになる気持ちに
なるべく知らぬふりをして
便箋と封筒を買った。
送る人のことを考えながら。
そうすることで、自分が
すこし浄化され、
すこし潤う気がした。
きつねはにぎわう雑踏のなかを
聖書をかかえるように
便箋と封筒を大事にかかえて
歩いた。

無駄をしなければ、出会えなかった。

無駄をしなければ、出会えなかった。

男が薔薇に言った。やっと見つけた。やっとわかった。遠回りした。人生だいぶ無駄にした。薔薇が言った。ちがうわ。遠回りしなければ、無駄をしなければ、出会えなかった。お料理のようにコトコトと時間がかかった。そして、そもそもあなたが探さなければ、出会えなかった。