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2023年2月の記事一覧

未だ寒い春を往く旅人

未だ寒い春を往く旅人

未だ寒い春を往く旅人

旅人は未だ寒い朝、出かける支度をした。足元には暖炉付きの靴下、両手にはできたてのスープ付きの手袋。首元にはふさふさの生きた幻想動物のマフラー。こころには無限の宇宙を育む詩集。悲しみには薔薇のうた。

30点で生き生きと生きる。

30点で生き生きと生きる。

30点で生きるきつねがいた。全部うまくいかなくても、認められなくても、負けても、生き生きと生きるきつねがいた。きつねには大事なものがあったし、魂が近しく感じるひとがいた。そして自分の中の自然のような無闇な生命力を信じていた。だから、30点でも生き生きと生きていた。

きれいなものを好きになる資格がない。

きれいなものを好きになる資格がない。

子ぐまが言った。ぼくはきれいじゃないからきれいなものを好きになる資格がないよ。クマが言った。誰もきれいじゃない。作家さんも教会のひとも。みんな繰り返しきれいになろうとしてるだけ。きれいなものはそうゆう世界や日常があるのではなく、そうやり直そう、とするときの祈り。だからきみのもの。

想定の上で。

想定の上で。

詩の学校で、チェゲバラ先生が言った。サッカー選手は敵のファールも想定の上で攻めます。登山家は崖や急斜面を考慮して登ります。サーファーは変化する波目を読みます。わたしたちは、特性の違う他者や自分の欠落や不調も想定の上で日々のゲリラ戦を闘います。いちごのケーキをつくりながら。

どうしても見つからないものはどこへ行ったの?

どうしても見つからないものはどこへ行ったの?

どうしても見つからないものはどこへ行ったの?子ぐまが訊いた。クマが答えた。ペルセウス座流星群の遺失物扱い所さ。長い列ができてる。みんなもっと大きな失くしものを探しに来ている。自分さ。たいてい見つからない。係の人はこう言う。はじめから無かったんです。今日からのあなたがあなたです。