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SS04

 おはようございます。ゴミ捨てと散歩が終わり、筋トレと朝食、そして食後の一服まで済ませたところです。この後、今日は先輩がお泊りに来てくれるので和室を掃除器、洋室と廊下はクイックルをかけるつもりですが、休憩がてら一筆書こうかと。今回のテーマは、ある意味自分と真逆のワードが出てきて、完全に僕の中のイメージしかありません。さて、どうしようか…。

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SS04「敗戦」

 放課後、太陽の光が化学室を包む。十七歳を迎えた誕生日。今日もいつも通り六時間授業があったが、何も頭に入ってこなかった。今日の、この時間のことで頭がいっぱいだったからだ。緊張が全身を包み、自然と手に汗が滲む。
 「先生、七月一日の放課後、化学室に来てくれませんか?」
 三日前、化学の先生に堪え切れずに話してしまった。その先生は大学を卒業してすぐ教師になったらしい。「三年目(去年は二年目、と言ってたっけ。)だからまだまだ若造で分からないことだらけだけど、よろしくね」が毎年恒例の挨拶だった。今、私はその先生に、いわゆる「恋心」というものを抱いてしまったのだ。
 異性と交際経験は中学生から高校一年の初期にかけて何度かある。先輩と一度、同級生と二度。いずれも私が相手に求めるものが多過ぎて、フラれて終わってしまったけれど。
 同級生や先輩・後輩に魅力を感じないわけではない。普通に運動部の男子を見ていると、「あの人かっこいいな」と思うことも多い。しかし、今の気持ちとは明らかに違う目でその男子を見ていたことはこうなってしまうと確かであったとしか言いようがない。
 一年生の後期中間テストで化学の成績がガタ落ちしてしまい、先生に相談に乗ってもらったことがあった。恐らく、意識し始めたのはそこからだった。若い先生だからこそ、自分と目線がベテランの先生より近いこともあったのかもしれない。的確なアドバイスを貰えて、その通りに勉強し、何とか点数を持ち直し、二年生になってからは化学が得意と言えるまでになった。その頃には、その先生しか見えなくなっていた。点数上がったら意識してくれるかな、なんて考えながら勉強したのは記憶に新しい。
 その先生は他の生徒からも人気があった。普段は軽いノリで、授業になると目つきが変わり、時には厳しいことも平気で言う。でも、それが自分達のためになるということは大体の生徒が分かっていたので、休み時間は男女関係なく生徒に囲まれて大変そうだ。
 私は俗に言うぼっちでもなく、男女ともに友人は多い方なので、学校生活に不満があるわけではない。でも、恋心というものには逆らいきれなかった。きっと迷惑だろう、教師と生徒の禁断の恋なんてドラマの中でしかないと、自分の中では分かっているつもりだった。しかし、どうしても自分の気持ちには逆らえない。沢山の友人の中でも、付き合いが長い数名には相談した。返ってくる答えは決まって「厳しいと思うよ」といった類だった。分かっている。教師の不祥事のニュースは絶え間ない。例え互いに合意していても、私とくっついてしまったらどちらかが苦しい思いをすることは明白だ。
 だから、今日は諦めるためにここへ来て、先生を呼んだ。何度か携帯の通知が鳴ったが、それを開いたら何故か後悔しそうで、見たい気持ちをずっと我慢していた。その先生は運動部の副顧問で、いつ来るかは分からない。きっと主顧問の先生なら、練習を最後まで見ていくから相当遅くなるのだろう。帰宅部の私にはよく分からないけど。
 窓の外をぼーっと見ながら、増幅する緊張感と戦い続けていた。日が傾き、白い光はやがてオレンジ色の光に変わっていった。夏で日は大分伸びていたが、果たして何時間待ったのだろう。化学室特有の薬品のような匂いが時折鼻を突く。いっそ逃げて帰ろうかな、と思った時、突然扉が開いた。その先生が来たのだ。扉の外に主顧問の先生が一瞬だけ見えた。(何でいるの?)と思ったが、異性の生徒に呼び出されて誰もいない教室に二人のみ、という形は避けざるを得なかったのだろう。主顧問の先生に見られていることが更に緊張を高めたが、ここまで来たら言うしかない。
 「お忙しい中、お時間もらっちゃってすみません。」と最初に前置きの挨拶をした。「ごめんね、大分待ったでしょ。部員が一人怪我しちゃってさ、慌ただしくなっちゃって」と汗だくの顔で先生は言った。きっと、誤魔化しではなく事実で、呼び出されたことも他の先生と相談した上で来てくれたのだろう。主顧問の先生の存在がそれを確信に変えた。高校受験の時も、これほど緊張はしなかった。でも、言うしかない。
 私は一つの箱を取り出した、市内でも有名な洋菓子店の箱だ。保冷材は大量に入れたので大丈夫だろう。
 「先生、今日私誕生日なんです。」「おぉ、そうだったのか!おめでとう!」他意のない純粋な祝いの言葉が、私の胸を締め付ける。嬉しい。
 「この箱の中に、ケーキ二つ入ってるんです。先生と食べたくて、今日持ってきちゃいました。」箱を開く。甘い匂いが、薬品の匂いと混ざり合って独特な香りが部屋に満ちる。もう止まれない。
 「一年の時に相談に乗ってもらってから、ずっと先生のこと意識してたんです。先生のこと、好きなんです。」
 その先生は、嬉しさと寂しさが混ざったような表情で、私の目をしっかりと見て、箱を閉じてこう返した。
 「ありがとう、その気持ちはすごく嬉しい。でも、その気持ちには今は答えてあげられない。立場ってものもあるけど、今の君は私の教え子だ。君のためにも、このケーキはこの二人で食べるべきじゃない。一番仲良しな友達と一緒に食べなよ。長い時間が経っても気持ちが変わらなかったら、また同じ言葉を聞きたいな。」
 そして、一礼して先生は化学室を出て行った。外で、「もうちょいうまくやれよ」「すんません」なんて声がか細く聞こえてきた。
 泣くだろうなぁ、と思っていたが、不思議と涙は出なかった。携帯を見ると、ちょうど一番仲の良い友人からメッセージと不在着信の履歴が沢山入っていた。「この後会える?」とメッセージを送ると、すぐ既読がつき、「OK」のスタンプが送られてきた。沢山励ましてもらおう。きっと大泣きするだろうなぁ。
 私の青春はまだ折り返し。残り一年半、高校生活を楽しめるといいなぁ。化学また苦手になっちゃうかなぁ。緊張から解放され、不思議とすっきりした心で荷物をまとめ、夕焼けの差し込む化学室から出て行った。
 明日は、どんな一日になるかな。そんなことより、友達に沢山話したいことがある。そっちの方が楽しみかもな。次の恋は、誰に投げつけるんだろう。     【完】

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 以上、珍しく青春モノ。立場上、こんな作品書いていいのか分からんけど、浮かんできたのがこんなんだったから仕方ないですよね。完全に昨日の記事のせいですね。笑
 最初は、先生側の目線で書くつもりでしたが、途中で女子生徒側にして書き直しました。やっぱり、元々書くことが好きで、特に作文で物語を考える授業は小学生の頃から大好きだったから、こういうのめっちゃ楽しいです。キーワードは何だと思いますか?笑
 LINE知ってる人がもし読んできださったのなら、LINEで「これだろ!」と思ったワードを送ってくれてもいいですよ。私は今時間を持て余しまくりなので、構ってもらえるだけで嬉しいですから。
ちなみに前回のキーワードは、


「午後一時」「浴室」「襟足」

でした。分かりましたか?
 最後に、今回は珍しく有名どころの一曲で〆。サウダージ、こっちのバージョンのがイントロ長くて好きなんですよね。

想いを紡いだ言葉まで 影を背負わすのならば
海の底で物言わぬ貝になりたい


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