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SS10

 二十一時半からゲームの約束が入り、時間を持て余したので一作挑戦。果たして、一時間足らずで足りるのか。単語を見た瞬間から、ストーリーが出来上がった。後は、読み手に「面白いなこれ」と思わせる技量があるか、ですな。笑


SS10「寒日」

 「今までお疲れ様。元気でね。」
 その言葉が、社長からの最後の言葉だった。近年会社の経営が厳しくなり、人件費を削減する為に極一部のベテランを除いた五十代くらいの社員が早期退職という形で会社を去ることになり始めた。そして、自分の番が来た。
 特別仕事ができるわけでもなく、営業成績も中の上から中の下を彷徨っていた。寧ろ、ここまで使ってくれて有難かったくらいだが、明日からの食い扶持はどうしようか。平均以上の退職金を貰ったが、老後のことを考えると心許ない。数年は働かなくてもなんとかなるだろうが、年老いて身体が思うように動かなくなったり、どこかの施設に世話になることになったりしたら…。体温が下がっていく気がするのは、果たして二月の季節柄だからだろうか。
 六階建ての最上階にある社長室を後にし、五階へと重たい足を歩ませる。この話は以前から出ていたので、自分の席にはもう何も残っていない。意外と、最終日は鞄一つの軽装だった。
 エレベーターで一階まで一度に下りなかったのは、会社での思い出を踏み締めるとともに、勝手に「リフレッシュルーム」と名付けた五階の喫煙所を目指す為だった。入社してから三十数年、営業から帰ってきたら、ここで缶珈琲を買って一服し、次の営業先へと出向いたものだった。仄かな懐かしさを思い出しながら、自動販売機でブラックの温かい缶珈琲を買い、鞄を壁際に置いて外に出た。
 二月の寒空が肌を突き刺し、今後の人生をますます不安にさせた。それを紛らすように、紙煙草を吸う。普段は営業先を意識してスーツでは加熱式煙草で我慢していたが、もう意識する必要も無い。五階から下を見下ろすと、か細い光がちらほらと、街を照らしていた。枯れ木を街灯が照らす。自分を見ているような気持ちになってくる。。喫煙所の電灯は、古くて時折ちかちかと点いたり消えたりする。自分のような古臭くてヤニ臭いオジサンは、こうしてどんどん隅に追いやられ、最終的には居場所は無くなってしまう。枯れ果てたなれの果てが、今の自分なのだ。
 突然、手元から「ジュッ」と音がした。見ると、煙草の火種に大きな雨粒が直撃し、半分ほど吸っていた煙草が濡れて火が消えてしまった。ますます憂鬱になり、深い溜息を吐きながら灰皿にそれを捨てる。
 煙草を最後まで吸うことも許されないのか…。悲壮感が雪崩のように押し寄せる。それを少しでも薙ぎ払う為、トタンの屋根の下にあるおんぼろのベンチに腰掛け、缶珈琲を啜り、もう一本の煙草に火を点けた。
 雨はやがて霙と変わっていった。ゆっくりと最後の一服を嗜む。煙を吸い込み、吐き出す時だけ、膨大な不安が微かに一緒に出て行ってくれる気がした。
 煙草を吸い終え、ふと思い立って階段を使って二階へ降りて自分の席に着いた。机の中も周りにも、身辺整理を終えているのでモノは何もない。鞄から一枚の白紙を出し、長年使い続けた万年筆で大きく「お世話になりました」と書いた。そして紙を裏返し、

氷雨降る 哀愁背負い さようなら

と柄にもなく思い浮かんだ一句を残し、長年世話をしてくれた会社を後にした。傘を差し、明日以降のことを考えるのは一度やめにして、薄明るい街灯の歩道を歩き、家に向かってゆっくりと歩いて行った。


 意外と書けたね。今日は疲れてて、病院行って買い物して郵便局行って郵便物貰ってと動き回ってたけれど、どうにも気分が上がらなかった。純粋に疲れてたせいだろうけどね。朝昼は食欲無くて食べなかったけど、昼寝して夜はちゃんと料理して食べられたし、相当疲れが溜まってたみたいだね。
 今回のテーマは、「哀愁」。この二文字、何か好きなんですよね。好きなバンドのジャンルの影響が大きいのでしょうけれど、こういう感じの話好きだから自分でも書いてみたくてやってみました。読者には、この何とも言い難い、心が少し重くなる切なさが伝わったのかなぁ。

 さて、前回のキーワードは、


「十五夜」「温泉」「煙」

でした。自分なりに心温まる話を作れたかなぁ、と思ったので敢えて今回は逆に心が冷めるお話を。私ももうすぐ復職トレーニングが始まるけれど、いつまでこの仕事できるかなぁ。できることなら笑ってできるとこまでやっていきたいな。

 今回の一曲は、ムックの「我、在ルベキ場所」。高校の時に出会って、ムックというバンドにどハマりするきっかけとなった曲。こんな重苦しい曲を歌うバンドがあるのか、と衝撃を受けたのはよく覚えている。私の在るべき場所は、一体何処なんだろうね。笑

僕は雨の中で涙流し 雨は僕の中の泥を流す

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