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SS15

 SS書くのも久しぶりな気がする。表題の写真は、蜘蛛の巣払いの十手。親父がどこかで手に入れたらしく、なんか格好良いからやるよ、と言われて押しつけられるように貰ったものだが、今年は蜘蛛が多いらしく、結構役立っている。

 さて、お題を見て一服する時間。iQOS3 duoの弾も残り六発。 iQOS ILUMAが手に入ったので、この六発が終わったらまたしばらくお休み。長いことありがとう。さて、吸い終えたので書こう。


SS15「惜別」

 大学四年の夏、彼女と二人で海に来た。十年以上も前になるが、家族でよく海水浴に来た場所だ。ほんのりと懐かしい。昔はドがつく程穴場で他に人なんて数人だったが、時の流れと共に穴場の名は無くなり、メジャーな場所になりつつあった。それでも有名な海水浴場と比べると人はまばらで、二人で過ごすには絶好の場所だった。
 更衣室で着替えを済ませながら、首元にぶら下げたネックレスに目をやる。付き合って五年目、去年の誕生日に彼女から貰ったものだ。よく見かけるシルバーなものではなく、ミサンガに近い紐によく分からない木のオブジェが付いた不思議なネックレスだった。どこで買ったかは分からなかったが、これを見つけた時、「貴方らしい」と思って買ったらしい。何となく、自分でも分かる気がした。俺らしいな、と思って紐を少しきつめにして肌身離さず常に付けている。風呂に入る時も離さない。というかきつく締めたせいで外せなくなってしまったこともある。就活の時はワイシャツで隠せるのでいいかな、と思ってつけっぱなしにしている。
 海パンに着替え、場所を確保してテントとベンチを設置し終えた頃、着替えを終えた彼女が戻ってきた。彼女は日焼け予防にラッシュガードを着ていたが、それでもボディラインがとても美しく見えた。自分には勿体無いと思うくらい、素敵な彼女だ。
 出会いは高校の時だった。馴れ初めは、よくある部活の選手とマネージャーの関係から発展していった感じ。たまたま第一志望の大学と学部も同じで、そのまま交際を続けている。高校生の時は些細なことでよく喧嘩もしたものだが、二十歳を超える頃にはお互いをよく知るようになり、平和に、幸せに付き合い続けている。
 彼女は泳げないので、浮き輪を膨らませて海に入った。それに続く形で、俺も海に入った。炎天下だったので浅瀬は少し温いように感じたが、浮き輪に浮かぶ彼女を押していく形で少し深い所に行くと、火照った身体が海水で少しずつ冷えていく。そして、愛する人が目の前で楽しそうにしている。これ以上の幸福があるだろうか。細やかな波が、就活や卒業後の不安を少しずつ流していく。
 一時間程のんびりと過ごしただろうか。一度浜に上がって休憩した。俺は加熱式煙草を吸いながら、二人でノンアルコールビールで一杯。どちらが運転でも良いように、アルコールは用意しなかった。クーラーボックスの中でキンキンに冷えたノンアルコールビールでも、幸せと共に酔ってくる気がした。
「なんか、ノンアルなのに酔った気分。」
 彼女もそう言った。同じことを考えていて、更に幸せが押し寄せる。テントの日陰部分で、近くに人がいないことをさり気なく確認し、軽いキスをした。
「俺も、酔っ払ったかも。」
 言い訳のように一言添えると、より熱いキスが返ってきた。もう誰に見られてもいいや、幸せだもの。
 午前十一時を知らせる放送を聞いて、もう一度海に入った。俺は泳ぎに自信があるので、浮き輪から離れて海水浴場の端を合図するロープまで泳いでくる、と言ってバタフライを披露した。少し、格好つけたくなってしまった。ロープに辿り着き、彼女の方に目を向けた時、今日一番の大きな波が押し寄せた。まずい、と思った頃には遅かった。彼女の浮き輪は波で転覆し、彼女は沈んでいった。
 必死で海中に潜り、彼女の手を引いて水面に戻り、そのまま浅瀬へと戻った。彼女は溺れかけた恐怖で震えていたが、スポーツドリンクを渡してそれを飲むと、落ち着いてきたようだった。
「ありがと、助かった。」
「生きてて一番泳げて良かったと思える瞬間だった。」
 そう言って、彼女を抱き締めた。まだ少し震えていたが、震えは徐々に治まっていった。
 二杯目のノンアルコールビールを開けて二人で作ってきたおにぎりを食べ、沖に目をやった。遥か彼方に、彼女が使っていた浮き輪が見える。流石にあれを回収するのはかなり難しいだろう。
「もう、帰ろっか。早めに帰って、シャワー浴びて飲み行こうよ。」
「そうすっか、うちの風呂使っていいから。」
「ありがと。」
 お互い少し照れ臭い。帰る準備をしている時に、首のネックレスが無いことに気付いた。さっき潜った時に無くしたのだろうか。思い出の一品を失ったことに、正直かなりショックだった。
 準備を済ませ、駐車場に向かう時に彼女に話した。
「ごめん、貰ったネックレス波に持ってかれた。」
「いいじゃん、私助かったんだから。また似合うやつ探して、お礼に買ってあげる。」
「そっか、楽しみにしてる。さんきゅ。」
 案外あっさりした反応だった。自分にとってはとても大切なものだったので、無くなってしまったことで首元に寂しさを感じる。しかし、絡めてきた指がその寂しさを埋めてくれた。大切なネックレスとの別れは切ないものだったが、それより大切な存在を守れたのだ。彼女の言葉に支えられて気付き、感傷の波から助けられた。
 帰りの車で、二人で進路と今後について話をした。お互い、近場の会社を探している。卒業したら同棲したいと思っているが、その話をまだ持ち出したことも持ち出されたことも無い。
「もしお互い第一志望通ったらさ、一緒に住もうよ。」
 赤信号を待っている時に、彼女からそう言われた。目の前で信号が黄色から赤に変わったらパーキングに入れる癖があってよかった。驚愕。本当、こういうところ読まれるんだよなぁ。
「何で考えてること毎回分かるのさ?」
「顔見れば大体分かるよ。私達上手くやってるしさ、もっと一緒に過ごして、まだ見えてないとこ見て、いずれは結婚もしたいなって。」
 何もかも先を越されてしまった。そういう彼女なのだ。察しが良くて、その先を考えてくれる。だから、上手くやっていけてるんだろうな。
「全く同じ考え。お互い、色々頑張るべ。」
 長距離ドライブの最中、赤信号で止まってパーキングに入れた。隣を見ると、可愛い寝顔がこちらを見ていた。スマホのスピーカーに指を当てて音を殺し、写真を撮った。波によるひと事故はあったが、幸せな海水浴だった。
 彼女の為の戦意を、この後の飲みで彼女に話したい。いつも後手後手なので、今度はこちらから、俺の強い想いを彼女に伝えたい。その為に頑張る宣誓を、誰よりもこの恋人にしたい。それが伝わって、生涯の伴侶になってくれたら最高だな。
 そんなことを考えながら、レバーをドライブに入れて青信号になると同時に家路を走る。西日が助手席から穏やかに差し込んで、色々な意味でとても綺麗だ。この景色を独り占めできるのは、運転手の特権だな。


 途中で通話して筆(キーボード、と言うべきか。)を止めたが、色々話ができたお陰で話が膨らんだ。病の負のエネルギーをぶつけて書き始めた、未完の長編もいつか完成させたいなぁ、と思いながら書いていた。

 さて、前回のキーワードは、

「針水晶」「中学校」「天王星」

でした。針水晶は分かりやすかったかな?どうしてもどこかに負の感情というか、ネガティブ的な場面を出してしまうのは私の人間性だろうね。今作はできるだけ日常の細やかな幸せを描こうと思って書いてみたけれど、上手く伝わるかな。

 今回の一曲は、ここを読んでくれているであろう人が知っていて嬉しかったBlasterjaxxの「forever」。今作の二人も、今の私の幸せも、永遠に続いてくれたら嬉しい。

Kiss the skies then I'll survive
Be the one who saves my life
Never let go
I will be close forever,forever,forever

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