歴史的快挙の "Shogun エミー賞受賞" を分析してみる
真田広之さんのドラマ部門主演男優賞受賞で一躍注目を浴びたアメリカテレビ業界最高峰のエミー賞。果たして何がどう凄いのか。
今回 Shogun は、作品単シーズンで18受賞と言う、前代未聞の記録を樹立した。前記録保持者 Game of Thrones をいわば dethrone し、同シリーズの持っていた12受賞を大きく上回る結果をたたき出したのだ。Game of Thronesを史上最高のドラマシリーズと思っているHBO信者の私にとっては、少々複雑な気持ちがしないこともないが、そんな気持ちを凌駕する喜びを感じるのもまた事実。その喜びはもちろん、Shogunが日本舞台の、日本人主演の作品であることによる。
日本舞台、日本人主演の作品であっても、Shogunは日本製ではない。完全にアメリカ製のアメリカのドラマである。この、アメリカ製のアメリカのドラマが日本語で作られたこと、その作品で日本人が俳優賞を獲ったことが、今回のエミー賞における何よりの偉業であると私は思う。
元来日本は、映画の歴史においてはかなり評価の高い国であり、早くより世界三大映画祭や、米国アカデミー賞でノミネートや受賞を果してきた。つまり、良質な日本映画が受賞をしたり、出演俳優が賞の候補になる、と言う可能性は今までにもありえた話である。しかしそれが、アメリカ作品で日本人が主演を張り、受賞をするとなると話は別で、更にテレビドラマとなると、状況は全く変わってくる。
テレビと言うメディアは、各国のお茶の間で楽しまれるものであり、より広い層に向けた、一般的なコンテンツが求められる。よって、親しみやすい母国語のドラマが製作されるのが常であり、外国語作品は吹き替えられて提供されるものであった。外国語のテレビドラマを字幕で鑑賞するなど、想定外だったアメリカテレビ界に変化を齎したのは配信の台頭である。オンデマンドで観たいものを観られる環境において、より多様化されたコンテンツが選択肢として必要になったことで、Netflixをはじめとする配信サービスは各国の言語でローカルコンテンツを制作するようになった。その環境下で、ブレイクスルーを成し遂げた「イカゲーム」が登場したのである。ほぼ全編韓国語で作られた同作は、エミー賞において「アジア作品初」をいくつも打ち立て、アジア人初のドラマ部門主演男優賞を獲得した。
「イカゲーム」が史上に残る快挙を成し遂げたのは言うまでもないことだが、同作はあくまで韓国産の韓国ドラマである。自国民向けに作られた自国語のドラマが素晴らしい出来になり、他国でも楽しまれるという例は今までにもあった。しかし、"Shogun" はアメリカにおいて他国言語70%で作られ、その作品にほぼ無名の日本人を配役して作られているのである。そんな作品が作られたことだけでも画期的であるのに、そこに登場する日本語や日本文化が正確なもので、しかもその作品がエミー賞を独占したというのは、 "Shogun" が本当の意味でのブレイクスルー作品であることを意味するのではないだろうか。
"Shogun" の製作にゴーサインを出したスタジオDisneyは、今回 "The Bear" "Jim Henson Idea Man" など、他にも複数受賞の作品を抱え、総計60個のエミーを受賞した。Fox 買収後の近年、配信サービスDisney+やマーベル作品の不調で業績が危ぶまれていたDisneyの、復活を象徴するような今回のエミー賞。来年は王者HBO、Netflixの巻き返しにも期待したい。
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