ふたりの間にお茶があれば
わたしの婚約指輪はドラム式洗濯機だ。
友人知人、誰に話しても笑われる。婚約する前にわたしからリクエストした。
仕事柄、婚約指輪は着けられない。いわゆる箱パカ( 男性が跪いて婚約指輪の箱をパカッとしてくれる、ロマンティックなアレである ) にも憧れは無かった。それよりこの先お金があるに越したことはないし、ふたりのためにお金を使うことのほうが良いと思った。だから「婚約指輪は要らないからドラム式洗濯機買って」とお願いしたのである。
だから結局、プロポーズのときは花束をいただいた。その後ふたりで暮らすにあたって家具家電を揃えていた頃、良いドラム式洗濯機を選んでもらったのだ。おかげで外出先からでも洗濯が始められて、帰宅する頃にはふんわふわのバスタオルが使えるままの状態で出来上がっている生活が手に入った。文明の利器に感謝。有り難すぎて、我が家では尊敬の念を込めて「おドラ」と呼んでいる。
結婚する前、「お金で買える家庭の平和は積極的に買おう」というのが二人の共通見解だった。
もちろんどこかで気持ちが変わることはあるかもしれないけれど、そのときはきちんと話し合おうねとは常々話しているけれど、親にならない人生を選ぶことにした。その上で各々、キャリアを選択していった節はある。
だからまとまった残業が確定しているときは連絡し合って夕食は別に食べるし、朝起きる時間も夜寝る時間も違う。そもそもシフト制とカレンダー通りのお休み・在宅で仕事ができない現場職とリモートワーク/出張/出社の混合スタイルと、働き方も異なるのだ。寝室を別にするのは一緒に暮らす前から当たり前のように決めていたことだった。
そんな生活の話をすると「仲良いの……?」とたまに心配されることがある。「旦那さんに対して直してほしいところとか、嫌なところとかないの?」と聞かれることも。
安心してほしい。我が家はわりと仲良くやっているし、わたしは夫に何ひとつ不満がない。
「夫が家事をしてくれない」或いは「夫が家事をしてくれるけど、マイルールと違ってモヤッとする」という話をたまに聞く。家事分担をどうしているのかという話は既婚/未婚を問わず出る話だ。
我が家はというと、明確なルールは無い。
けれどなんとなく生活は回っている。それはとても幸運なことに、お互い「苦にならない」家事が違うからだ。
もともとストレス発散方法として野菜のみじん切りをしていた( 片っ端から野菜を刻んで、トマト缶と煮詰めてスープにしていた ) わたしは料理の下ごしらえが好きだ。
ざっくりと感覚で味を整え、そう大したものではないけれど、冷蔵庫にあるものでなんとなく付け合わせの副菜やスープをこしらえることはできる。細々と調味料を測ったり火を扱ったりするのはそこまで興味が無いが、苦痛ではない。作りおきを準備したり、一緒にご飯が食べられる日に料理をするのは好きだ。
そして、掃除や皿洗いが嫌いだ。料理をしながら洗い物をする習慣こそあれど、一人暮らしのときは軽率に食後の食器を溜めてしまうのが常だった。
それに対して夫は真逆なのである。
一緒に料理をするとしたら、決められた量の調味料を測るのは得意だが、「適量」の表現には戸惑っている。一人暮らしを始めた頃「皿洗いマスターになろうと思う!」と言っていたことがあり、たしかに夫の食器洗いは迅速で綺麗だ。わたしがご飯を作り、料理を食卓に並べる頃には隣ですべての洗い物が済んでいる。
そして潔癖というほどの固執はないけれど、掃除が好きだ。気付いたらあちこちを綺麗にしてくれているし、夫と暮らし始めてからわたしも気にするようになった。
これまたよく話題になる「名も無き家事」( 排水溝の掃除とか、ゴミ捨てにおけるゴミの回収とか、ストックの補充とか ) は各自気付いたほうがやっている。都度「買い足す物あったっけ?」と確認しては各自リマインダーに入力し、購入したらLINEしている。
「わたしばっかり」という気持ちは微塵も無いが、「僕ばっかりって思ってない?!」と夫に確認することは多々ある。
「僕としては、あなたがそれ思ってないか心配だったんだけど」と言ってくれるので大丈夫みたい。もっとも、夫が知らぬうちに頑張ってくれている説はあるので積極的に家のことはしておきたいけれど。
「生活におけるバランスが良いねえ」と、夫とよく話をする。お互いなんとなくやれそうなことをやっていたら家が回っている、というのが我が家の現状だ。
「お互い気付いてないだけで、漏れてる家事があるのかもね〜!」という話は笑い話としてするが、まあなんとか生活できているのでこれでいいだろう。
あとはお互い相手がやってくれたことに対して「やってくれたの?ありがとう〜!」と言葉にすることは多い。言葉にして悪い気持ちにはならないし。
あくまで「我が家の」に過ぎないので、もちろん他の家庭がどうこうは全くない。というかそれは知ったことではない。人には人の数だけ事情があり、暮らしがある。
結婚する前も今も変わらず、この世で1番好きな他人なのだと思い続けている。それは突き放す意味ではなく、「自分ではない人」という意味で。「相手ならきっと○○してくれる」と思うのは傲慢だから、話さないと分からない。だからちゃんと言葉にする。
無理のない範囲で一緒に夜ごはんを食べ、食器を横並びで片付けて、お湯を沸かし、お茶を飲みながら話す時間が好きだ。
その日あったこと。最近気になったコンテンツ。誰かの意見を聞いてみたくなったこと。価値観の違いに驚いたり、笑ったり。とにかく1番話していて楽しい相手が同じ家に暮らしていることが嬉しい。「おやすみ」を交わす直前までゲラゲラ笑い合う生活が楽しい。
これからもこんな生活がずっと続けばいいと思っているし、そのための努力は惜しまずにいたい。いつだって「ふたり」の生活がより良くなることをお互いが考えていられる今がわたしは大好きだ。
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