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ハレもケもハレ3 : まだわたしは何者にもなれていない

お付き合いをしている彼と同棲を検討し始めたのをきっかけに、人生とは?結婚とは?家族とは?を考え始めた今の心境を書き綴ることにしました。

経緯はこちらから : ハレもケもハレ 0 : 人生の岐路に立っている気がするので、書き記すことにしました。  
∴ 過去エントリー
1: 家探しを始める前から、問い合わせをするまで
2: 「あなたの幸せを思って」と母から言われたけれど


今回は、母の反対と彼の言葉を受けて、ただ迷走するだけの話です。

🕊

「やはりうちの両親…というか母的に、籍入れずに同棲っていうのはナシみたいです。」ということはその日の夜にLINEで伝えていた。

「お母さんの気持ちもわかるし、また話し合いましょう〜!」とポジティブなお返事をすぐにくれたことを彼の隣で思い出す。考えれば考えるほど気が滅入ってきて、思わず彼に寄りかかった。

どうしたの、と上からやさしい声が降ってくる。
せっかく物件まで探してたのに振り出しに戻ってごめん…と弱々しい声で吐き出すと、ああ、それ。と彼が続ける。


「でも、LINEでも書いたけどさ。お母さんの気持ちも分かるよ。どんなヤツか知らない男と一緒に暮らしたいって言われてもそりゃ心配になるよね。
やっぱりご挨拶に伺ってからじゃない?」

「…同棲するわけじゃないのに、なにを挨拶してくれるの?」

「娘さんとお付き合いさせていただいております。いつかは結婚したいと思ってます、って。」


いま思い出しても、息が止まる。嬉しさと、驚きと、混ざり合って消える。甘やかな関係のカップルがよく言い合う「いつか結婚しようね」「だいすき」なんてふうに定期的に愛を囁かれるよりも個人的には、よっぽど効いた。ドのつくクリーンヒット。


結婚を前提に、というのは前にも話していたし、いつか一緒に住むべく動いていたのも( 頓挫したとはいえ )事実だ。それでも改めてそんなふうに、しかも彼のほうから何気ない口調で出てくるその2文字は、ずしりと重たかった。きっと本人はそんな気なんてまるで無いのだろうけれど。

知り合ってぐるりと季節が一周しかけて分かってきたけれど、彼の辞書に「ムード」とか「情緒」みたいな言葉はあまり無い。「その場凌ぎ」とか「駆け引き」みたいな言葉も。

だからこそ嬉しくて、だからこそ、悩む。


「ときめきなんてのは3日で飽きる」

「歪なところがあっても、しゃーないなあと許し合える人にしなさい」

「優しい人。これに尽きるね。」

人生の大先輩である患者さん方に「どんな人を選んだらいいですか?」と相談をすると、返ってくる答えはいつも決まっている。それぞれの人生の数だけ選ぶ言葉が違うだけだ。それを踏まえたら、これ以上にないほど良い相手なのはわかっている。

それでも、「もし今後決断した後にわたしにもっと惹かれる人が現れたら?」「今はとってもユニークでわたしに愛情を傾けてくれる人だけど、時の流れと共に別人みたくなってしまったら?」「実はわたしが知らないところでもっと魅力的な人と深い関係にあったら?」と頭のなかを巡る不安は尽きない。

彼のことはとっても好きだけど、どんどんレールが敷かれていくような気がした時にふと立ちすくんでしまう。まだわたし何者にもなれていないのに、苗字を変えてしまう覚悟は持てない。

でもそうやって、タイミングを伺い続けてタイミングを逃してしまうのはもっとこわい。バッターボックスに立ち続けながらいつか良い球が来ると思うばかりに、バットを振らずに見送り続けてしまうように。

それに、東京から行く福岡は、遠い。

それは学生時代に隙あらば成田空港へ飛んでいた過去のわたしがいちばん知っている。ちょっと顔を出しに〜の距離では決して、ない。日帰りできない距離ではないが、そんな売れっ子芸能人のようなことはするものではない。


「……博多か鳥栖でアウェー戦するとき、ついでに来るといいよ」

「いやいや、試合がついでだから」

川崎フロンターレを愛してやまない彼の家の壁に掛かっているユニフォームを眺めながら言う。わたしの頭を撫でながら笑ってまた彼は言う。

「いつか、もうすこし世の中が落ち着いたらだね」


わたしと、なんならわたしの両親も医療職なのだ。さあ今すぐに!というわけにもいかない。とはいえ、一緒に住む日はこれで無期限延期になった。
それがもどかしいやら、でもどこか考えずにいられることにホッとするやらで、これまた悩ましい。

父のことも母のことも彼のことも、そしてなにより自分自身のこともわからない。両親と血が繋がっているとはいえ、もう離れて暮らして6年経つのだ。逆に彼とはほぼ毎週末一緒にいるとはいえ、まだ知り合って1年しか経っていない。

数十年分の選択をしていくにはまだ、人生経験が足りていない。

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