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#14 午後はオックスフォード市内を独り歩く決意をした最初の金曜日 30代からの英国語学留学記 2018年2月16日 その1

睡眠薬の効果もあり1週間ぶりに熟睡できた。

薬の力については半信半疑であったが、ここまで効くとは思わなかった。

お陰で渡英依頼、未だ嘗てないほど心身ともに調子が良い。
特に心の調子が良いのは良い傾向である。睡眠をしっかりとることは重要である、という自明の理を身をもって思い知らされる。

だがその反面、薬に依存し過ぎやしないか、という恐怖も同時に感じる。

僕はアルコールやニコチンと言った依存性の強いものを、バカバカ摂取する堕落した人間である。依存症にならないよう、本当にどうしようもない時以外はsleeping pillsを服用しないことを固く誓う。

いつも通り朝食を取り、2階建てバスに乗って登校。
相変わらず謎のスマホゲームに夢中のシナンに、昨日オヌールにギリシア料理を食べて罵倒された話をする。

確かにギリシアは俺たちの敵だ。だが日本人のお前がギリシア料理食べても何の問題はないだろ。そもそもオヌールはケバブ食べすぎ。あいつはキッズだから気にすんな。お前30代だろ?
あとケバブ以外にもトルコには沢山の美味しい料理がある。オックスフォードにも良いトルコ料理レストランがあるから今度連れて行くよ」

シナンは本当に良い奴である

だがトルコ人である彼にとってギリシアは不俱戴天の仇というのは確かなようだ。公共の場で"Greece is our enemy"と平気で発言できるのは凄い、というか怖い。
民族性なのか、それともオヌールとシナンがただ単にヤバい奴なのか。

授業を受ける。
1時間目は実入りがあり、2時間目は敗北感に包まれる。
いつもと変わらない。

ただ2時間目に組まされた日本人と韓国人の女子大生は他の生徒と比べて僕にも友好的であり大変助かった。30代のオッサンで聞き取り辛いネガティブンな内容の英語をバカバカ喋るどうしようもない男にも関わらず、ちゃんと付き合ってくれる二人はまさに聖人である

特に今回グループワークをした韓国人女子大生、CINDYさんと名乗っていた彼女は、他の韓国人女子と比べてかなり異質な方であった。

この語学学校は韓国人が、特に女子が非常に多いのだが、皆30代の日本人のオッサンからすると、良く言えば異常に煌びやか、言葉を変えると極端にキッチュな風貌をしている。そして露骨なアーティフィカルというか、プラスチックサージュン感を否が応でも感じてしまう。

アジア圏で隆盛を極めているK-POPや韓流ドラマの登場人物がそのような感じなので、皆それに倣っていることは容易に想像つくが、同じ東アジア圏の似通った風貌である筈の人間が、母国日本では(2018年当時では)殆ど見受けられないタイプのファッション、メイクをしている所に妙な違和感を覚えてしまう。

だがCINDYさんは、その極北、彼岸に位置するような方であった。
無骨な無地のパーカーとジーンズを履き、メイクも薄い。NHS謹製のような機能性特化の分厚いレンズの丸眼鏡をした超ナチュナルな方であった。
2018年時点では巷間に広まっていなかった脱コル運動を彼女は先取りしていたのかもしれない。

しかも彼女は英語の発音は、東アジア人にも関わらず極めて綺麗であり、授業も他の若者と比べるとかなり真面目に受けている。

このように描写するとキツそうな印象を受けるが、僕のような30代オッサンジャップにも差別することなく、真摯に向かい合ってくれる程心もい広く優しい方である。全てにおいてナチュナルな方であった。

「発音がすごく綺麗で凄い」と褒めると「そんなことないわ!貴方も語彙力が豊富で尊敬できます」と気持ちの良いお世辞で返してくれる程、コミュニケーション能力も優れている。

他の若者もCINDYさんのような方ばかりであったら、と思わざるを得なかったが、他人に自分の運命を任せるのは愚かなことである。
だがカルロス以外仲間がいないと思っていた僕にとって、彼女のような存在がいた、という事実が分かっただけでも今日は収穫が大きかった。

ここまで2時間目の授業で前向きになれたのはやはり睡眠薬の力を借りて仮初の熟睡ができたからであろうか。

そしてお昼。
この語学学校は金曜は午前中だけで終了。特別料金を払っている英国大学進学希望組以外は授業がなく解放となるため、前日とは様子が異なる。

自由参加ではあるが30分程度のフリープログラムがあり、今回のテーマは英語学習に役立つスマホアプリの紹介。
オヌールはいつも通りランチに誘ってきたが、僕は昼食を後回しにしてこのプログラムを受けることにした。

それを受けてオヌールは「そんなん受けても無駄だからケバブ食おうぜ」といつもの調子。

すかさずカルロスは言い返す。

「俺らは自分でお金を払ってここに来ているのだからこのプログラムを受ける。そんなにケバブが食べたかったら独りで食べろ!」

といつもの強い口調でオヌールを撃退。

何やら捨て台詞を吐いてオヌールは何処かに消えた。僕らの知らぬ間にアテを見つけたのだろうか。彼は貴重な一緒にいてくれる存在ではあるのだが、ここ1週間で彼の無礼で自儘な振る舞いに辟易していたため、ここで関係が切れてしまうのも、それもまた一興という奴である。

件のプログラムは30分程度ではあったが、日本のアカウントによるGoogle Play、日本語のネット検索では恐らく見つからないであろう、英語学習に役立つ様々なユニークなアプリを教えて貰えてもらい非常に有意義であった。

特に自分はリスニング能力と発音が壊滅的であるとこの1週間で嫌と言うほど思い知ったので、アプリによる自主学習で少しでも改善しなくては、という思いがより強くなった。

渡英してまでアプリで独り勉強、というのも情けない話ではあるが、相手が振り向いてくれるレベルに達せなければ血の通った相手とのコミュニケーションを取れない。自分には相手に振り向いてくれるだけの魅力と能力が完全に欠けている。

単なるアグリーサーティーアジアンマンでは語学学校ではゴミそのものなのだ。

後ほど別エントリで英語学習に使ったアプリは紹介しようと思う。

14時頃、自由の身になる。心身ともに健康な状態でオックスフォードのシティーセンターに身を置くのはこれが初めての経験であった。運のよいことに英国では珍しいほど今日は快晴。天気に呼応したのか、何やら晴れやかな気持ちになる。

面倒な男、オヌールがいないため、カルロスに市内探索を誘う。

「申し訳ないが、まとまった時間がとれたから独りでこの町を探索したい。一人にしてくれ」とご尤もなことを言われ断られてしまった。

カルロスも自立した社会人であり、時として独りで行動することの尊さを十二分に知っている。そんな彼の気持ちは僕は凄く分かる。

そして自分も観光客丸出しでこの美しすぎるdreaming spiresと称される町を誰にも邪魔される思うがままに探索したくなってきた。

独りで気ままに異国を旅する。僕が一番好きな瞬間でもある。当然、このオックスフォードでもやって良いわけだ。誰も咎めない。

ますます気持ちが華やいできた。いざ、オックスフォード市内観光へ



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