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#4 嫌われもの同士で徒党を組む オックスフォード語学学校初日 30代からの英国語学留学記 2018年2月12日 その3

初日から走る羽目になったが語学学校へ無事到着。

遅刻して受けるガイダンスは気が重い


語学学校もオックスフォードの景観に合わせたネオゴシックの荘厳な造り。
こんな素晴らしい環境で英語を学べるのかと思うとテンションが上がる。
入口の前には留学生らしき集団が屯し、紫煙を燻らせている。

室内完全禁煙の英国では、意外なことに外であれば原則公道であればどこでも煙草が吸えるらしい。日本では路上喫煙はギルティだが英国ではギルティではない。不思議。

早く学校に入り入学手続きを進めたかったのだが、シナンが何人かの友人を僕に紹介してくれた。
シナンは1年近く学校におり、また人懐っこい人柄故にこの学校でも有名人らしい。中東系、アジア系、様々な人から自己紹介を受けたが気持ちが焦っており、遺憾ながら気が焦る今の僕にはあまり頭に入らず。

躊躇する余裕などなく学校へ入り、受付へ向かう。

新入生である旨を伝え、そして遅刻を謝罪。
受付の綺麗な白人のお姉さんは笑顔で何やら言っていたが、焦っていたせいか中々彼女の言葉を聞き取れない。
ただ向こうもこの手の外国人の扱いにはなれているようで、細かい手続きは後でも良いからまずはガイダンスが行われる反対側にある教会へ行くよう、促されていることが何となくわかった。
いきなりchurch,church云々言われたのでかなり焦った。
予期しない単語が飛び出すとパニックになってしまう。
まさかガイダンスがこの学校ではなく、異なる建物、それも教会で行われるなんて予想もしなかったよ。

教会へ向かう。教会とは言っても地方の公民館のような造りで拍子抜け。

文化財レベルの優美な歴史的建造物が並ぶオックスフォードの中では比較的最近造られたように思われるこの教会は却って浮いている。

件の教会

中に入るとコミュニティセンター感はより強く、全く威厳は感じられない。しばらく歩くとそれらしき張り紙がある扉があり、意を決して中にはいる。
想像以上に大きなホール、中央には20人程度の留学生が緊張の面持ちで座っている。矢のように刺さる視線。明らかに皆僕を待っていた様子であった。
気が重い。

改めて周囲を見渡すと時期的なものなのか若いアジア系が殆どで、あとは中東系の男性ばかり。皆同じ年齢、同じ人種で固まっており、30代のアジア男性の僕にとっては中々入って行き辛い雰囲気。
端っこの方に一人座っている40代くらいの白人男性の隣にとりあえず座る。

僕は席につくと早速ガイダンスが始まった。明らかに僕のせいで流れが止まっていたことが分かりショックを受ける。

僕のせいなのか、いやシナンのせいなのか

初っ端から罪悪感に包まれながらガイダンスを受ける。

説明をするのはパリッとしたスーツを完璧に着込んだ50代くらいの白人男性。如何にもな英国紳士。
そして英語が気持ち悪いくらい聞き取りやすく分かりやすい。

学校のルール、英国で守るべきルール等を淡々と述べる。異常なくらい理解できるので恰も自分が英語マスターになったかのような錯覚を覚える。
語学学校に留学する外国人の英語レベルは様々であり、彼ら皆が理解できるように話をするメソッドというのが確立されているのだろうか。
なお、半年英国に在住していたが、彼ほど理解できる英語を話す人間に出会えなかった。相当特殊な訓練を受けた英語教育のエキスパートなのだろう。

全英語話者が彼のように英語を使えればどれ程良いことであろうか。

本場の英語テストは一味違う

The Randolph Hotel オックスフォードで一番高級なホテルらしい?

ガイダンスの後はクラス分けのテスト。筆記テストと面接。

筆記テストは得意中の得意と思っていたのだが、途中で異常に難しくなる。
語彙力を問われる選択式の問題だが、どれを選んでも正解としか思えないものだったり、敢えて難解にしているとしか思えない極めて複雑な文法構造の文章など、日本での英語勉強では見たことがないタイプの問題が多く出てきて面食らった。

一方で異様に簡単な問題もあり、1枚のペーパーテストにも関わらず問題毎の難易度の落差が極めて大きい、極めて不思議なテストであった。

そして英語面接。
事前にどのようなことを聞かれるか何となく予測して準備していたが、たまに予測外の質問をされると言葉につまってしまう。

特に驚いたのは趣味を答える所で"Sauna" (サウナ)と発したのだが、全く伝わらない。

hot place in spa, famous in Finland等適当に言葉を紡ぎ伝える努力をする。

「Finland?! あー,ソーナね、ソーナ!」


まさかサウナを英語で"ソーナ”と言うとは知らなかった。

ちなみにフィンランド語ではちゃんと"サウナ"と発音するらしい。

ヴェニスとヴェネチア、フィレンツェとフローレンスのようなものか。

英語は外来語の発音に関して扱いが雑すぎやしないかい……

サウナ・ソーナ問題はあったが、面接自体は特にこれといって問題なく終了。面接官の白人中年女性が、ホームステイ先の家族と異なり英語の発音等が異常に分かりやすく、会話がかみ合ったのが安心した。
相手は非英語圏の人間を相手にするプロであるので当たり前っちゃ当たり前なのだが、前日の件で自信喪失状態だったので、ちょっとした救いになった。

皆、語学学校の先生のような英語を使ってくれれば、どれほど世界は幸せに包まれることか

オックスフォードウォーキングツアーで嫌われ者で徒党を組む

Radcliffe Camera オックスフォード大学を構成する図書館の一部

テスト終了。結果待ちとその後の諸手続きまで時間があるため、引率の職員が新入生達をオックスフォード観光へ連れて行ってくれることになった。


前述の通り新入生の多くは若いアジア人、春休み中の若い日本人大学生、韓国人学生なのだが、彼らは波長が合う自分と近しい人間を見つけて、早速複数のグループを作り、徒党を組み出している。

一方、第二勢力である中東系の人間も、ムスリムの強固な繋がりが為す業なのか、同じ人種同士で既にコミュニティを作っており、30代の日本人男性の僕には踏み入る隙が全く無い。

孤立するのは想定内ではあったが、そうは言ってもボッチで引率付き観光に繰り出すのは中々辛い。

自分のペースで気ままに歩める一人旅ではないのだ。
ここで地盤を作らなければ後ほど問題が生じる。それに英語力を鍛えるには実践が何より一番。一人では日本にいるのと何ら変わりがない。

若者は楽しそうにキャピキャピとテーマパークのような、いやそれ以上に煌びやかなオックスフォードの町中を悠然と観光している。
いっその事、割り切って引率職員の話を聞くに留め、英語修行に勤しもうと思ったのだが、風が強い屋外で引率職員の英語を聞き取るのが今の僕には極めて難しい。
加えて留学前から相当英語力がある陽気な韓国人女子3人組が率先して引率職員に話かけ、彼女らのペースで観光ツアーが進められていたため、居た堪れない気持ちになり、孤立感と敗北感ばかりが募ることとなってしまった。

折角のオックスフォードのウォーキングツアーも全く楽しめない。
気持ちが沈むと全てが灰色に見えてしまう。

このままではただ嫌な気持ちだけで終わってしまう。
だが幸か不幸か、僕と同様に孤立している人が一人いた。テストの際、僕の隣に座っていた40代の白人男性である。意を決して話しかける。

彼の名前はカルロス。アルゼンチンから来た48歳のHSBCの銀行員で監査部門で働いている。定例のグローバルテレビ会議での英語によるやり取りに苦手意識があり、克服するために有休をとって自費で渡英したとのこと。

僕の志とあっている!こういう人と僕は友達になりたかったんだよ!

またしても無人島だと思ったら仲間がいた喜びに包まれる。

カルロス自身も、この語学学校は学生ばかりでウンザリしていたらしく、僕のような社会人経験のある中年と知り合えてうれしい、とのこと。

リップサービスかもしれないが、僕と知り合えたことに価値を感じてくれる存在、というのは異国では貴重である。

カルロスと二人で引率ツアーの最後列でオッサン軍団を結成し、身の上話をしていると、中東勢力から離れた一人の男が我々に突如として加わってきた。

彼の名前はオヌール。トルコ人。22歳の大学生でcivil engineering(土木工事関係)を専攻しているらしい。大学院に進学するにあたり英語が必須であるため、英語力を鍛えるために語学留学をしたとのこと。

彼も大多数の他の生徒同様若い。だが見た目は髭面で丸々とした体形は丸々とした達磨のようであり、とても20代前半の若者には見えない。シナンと同じトルコ人だがで同年代だが、シナンの方がよっぽど若く見える。

他の中東集団(トルコは中東ではないのだが)の若者と比べても、彼は突出して老けて見える。日本では30代半ばのオッサンと見られてしまうのではないだろうか。

老け顔が影響で若者集団からハブかれたのかどうかは不明だが、断る理由も特にないため、彼を加えた3人でしばらくは一緒に行動することにした。

傍から見れば実に華の無い、単なる残りモノ多国籍軍団

だが何はともあれ仲間がいると心強い。
徒党を組まねば異国では生きていけぬ

とは言うものの、オヌールが加わってからは、僕以外の二人でフットボール(サッカー)の話題で一方的に盛り上がり、脇でただただアルカイックスマイルを浮かべて会話に入れない無様な典型的ルーザーの日本人として過ごすことになってしまった。

僕がフットボールに関して然程興味がない、ワールドカップがあれば見る程度の熱意と知識に対して、二人とも興味の幅が非常に大きく、母国や英国プレミアリーグ以外にも各国のフットボール事情について熟知しているようで、色々と熱く語り合っているようだった。

二人とも英会話自体にはかなり慣れているようで、言葉につまるようなことはなく、その英語が正しいか否かは別として口から音声を発してコミュニケーションを取ることに躊躇がない。

一度頭の中で考えて寝かしてから英語を発するしかない僕には到底ついていけない。
話題が興味と知識がないフットボールだからということを差し引いても、英語に対しての取り組み方、扱い方が僕とは根本的に異なっている。
スピード間が全然違う。コミュニケーションはスピード感が大事だと痛感。

最初の外食はケバブ

図書館の一部、だったと思う。聞き取れなかった、、、


そんなこんなで碌に引率職員の話を聞けずに観光ツアーは終了。
その後、各自昼食を取ってから例の教会のホールに集合することになった。

昼食も無論残りモノ3人組で取る。

学校の近くに大きな広場があり、そこで世界各国の料理が楽しめる屋台(food stands)がある、と学校から説明を受けていたため、3人でそこを訪れることにしたのだが、道中ケバブ屋を見かけたオヌールが強硬にケバブを食べるよう主張。

渡英2日目で早速母国の味が恋しくなったのと、トルコ人である俺が異国の人間に正しいケバブの注文の仕方と食べ方を教えたい、と熱く語るオヌール。

二日目でホームシックとはこれ如何に?

僕とカルロスの二人は聊か不満ではあったが、屋外の屋台で食べるには風が強く寒かったため、オヌールの意見に従いケバブ屋へ行く。
しかし渡英最初の外食がケバブ屋というのは趣がない。

持ち帰りだけでなく、店内でも食べるスペースがしっかり設けられたファストフードスタイルのケバブ屋。あまり日本では見かけないタイプ。
オープンスタイルのキッチンカウンターには様々な野菜や薬味があり、注文時にケバブに入れて欲しいもの、量を指定するのがトルコ式らしい。
特に嫌いなものがなく、そもそもシステムに慣れていない僕とカルロスは取り合えず全部入れてくれ、とt適当に注文したが、オヌールは好き嫌いがかなりあるようで、あれやこれやとトルコ語で店主に話をしてカスタマイズしていた。

店内で三人でケバブを食べながら談笑するも、また話はフットボール中心のためついて行けない。卑屈な笑いを浮かべてただただ悔しい。
ちなみに味は日本でトルコ人が売っているお店で買うものと大して変わりはなかった。それなりに美味しい。少なくとも昨晩と今朝食べたイギリスの硬いパンよりもケバブを挟んだパンの方が美味しかった。
ただ付け合わせのフライドポテトの量が日本のマックポテトLの1.5倍くらいあり、30代の僕には胃に堪えた。

定期購入、そして初日終了

昼食後、クラス分けの結果発表、学校の施設に関する細かい説明を受ける。クラスは7レベル中4レベル。

一応、大学まではそれなりに英語を勉強しており、仕事でも使っていた人間ではあるが、レベル的には全体の半分でしかなかった事実を思い知らされショックを受ける。

後でわかったのだが、レベル3とレベル4が最も人数が多く、特にレベル7は数人でオックスフォードのコレッジ入学準備レベルであり殆ど該当学生はいない、とのこと。

ちなみにカルロスもオヌールもレベル4。

カルロスとは同じクラスでオヌールはとは別クラス。カルロスは貴重な社会人組なので同じクラスで一安心。

結果発表後、オヌールから「お前俺より明らかに英語できないのに何で同じレベルなんだよ。まぁよかったな」と屈辱的な事を言われる。

出会って1,2時間しか経っていないが、オヌールは行動や言動の端々から面倒臭い感じがしたが、普通そんなこと言うか、コイツ。

何となく彼が他のムスリムグループから離れた理由が分かった気がした。

事務的な説明が終わった後は、ホームステイ先から学校までの定期券を購入するため、バス会社のオフィスへ連れていかれる。

行きのバス停名を把握していなかったためかなり焦ったが、オックスフォードのバスは(おそらくイギリス全土のバスは)料金体系がバス停からバス停という点と点で決まるのではなく、エリア制になっており、オックスフォードのシティーセンターから一般的な住宅街全てをカバーしている定期券を買えば事足りると説明を受け一安心。

それでも不安なのでバスの職員に住所を見せてこれで問題ないか、再確認をし、さらに引率の職員にも確認をしてもらたい、クレジットカードで定期券を購入。これでオックスフォードのバスは基本乗り放題。

このような手続きも学校側で斡旋してくれるのは助かる。バスの職員も外国人の定期購入手続きに慣れており流石の一言。
英語しか喋られない人間が、英語が不自由な人間に対して、英語だけで複雑な手続きを済ませるメソッドが確立してあることに驚く。

学生時代、駅員のアルバイトをしていたのだが、日本人であっても切符やICカードのチャージ、定期の購入の仕方が分からず問い合わせをしてくる人が少なからずおり、説明に苦慮した経験があったので、これには本当に驚いた。言葉が不自由な人間相手でも対処する方法が確立しているのは凄い。

定期購入後、長かった初日ガイダンスは終わり、解散となった。

カルロスとオヌールと3人で改めてオックスフォード観光という選択肢もあったのだが、インターネットに接続するために現地のSIMを入手する必要があったため、ここで二人と別れて一人で行動することにした。

二人の会話に積極的に加われず自信を喪失しており、一人になる時間が何よりも欲しかった、というのもある。

晴れて?完全自由の身になり、一人でオックスフォードの美しすぎるシティーセンターを闊歩できる身分になれた。だが直近の目標はインターネットにつなぐためのSIMカード入手。果たして異国の地で、SIMを問題なく入手しアクティベートできるのだろうか。

試練は続く。






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