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電車鼻水

昼過ぎそろそろ家を出ようかと支度を始めると、途端に鼻水が出だす。鼻炎の薬を飲んだが、電車に乗っている間も顔が痒かったりして、ずっとイライラしている。向こうに座っている若者の顔がなんだか腹が立つ、両隣に人がいて窮屈で腹が立つ。普段は、大人しくて人畜無害な人間です、知らない人にだって親切です、なんて顔をして暮らしているのに、花粉症ひとつでこんなにも情緒が乱れる。気分は頼りない。子どもの頃は鼻炎がもっと酷くて毎日かなり苦しんでいたから、相当機嫌の悪い子どもだったんじゃなかろうか。
マスクの下で鼻水が垂れだしたのに、ハンカチもティッシュも持ってこなかったから、なんの用もない駅で途中下車して、トイレで顔を洗う。自らの繁栄のために花粉を盛大にばら撒いて他の生物を苦しめるなんて、植物だって随分自分勝手じゃない?人間のこと言えないよ、などとぶつくさ頭の中で文句を言う。
コンビニに寄ってポケットティッシュを探したら、300円くらいを覚悟していたのに4袋入りで120円くらいで、得した気分になる。

帰る頃には症状もだいぶマシになっていて、電車に揺られながら『百鬼園随筆』を読む。声が出そうになる程可笑しくて、こんなに可笑しいのはさくらももこさんのエッセイ以来。「老狐会」という話の中に、こういう一文がある。

さて、翌日の晩の六時が近づくにつれて、私は少し不安になって来た。不安のよって来るところには、生理的変調が潜在することを承知しているから、まず他人の所為にする前に、一応自分の中にその原因をもとめて見たら、少少腹がへっていたのである。

なるほどなるほど。たしかに、漠然と不安になったり、なぜかイライラしている時、ごはんを食べたら解消された経験の、ひとつやふたつ自分にもあったような気がする。今度から気分が乱れてどうしようもない時は、ほかほかのごはんを食べてみることにしよう。体と心は切り離せない。やはり、気分は頼りない。

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