見出し画像

私と幼き私と私の可愛い子ども

作ることが好きで、考えることはもっと好きで小学生の頃から色んなことを考えて過ごしてきたので今の私が我が子を抱いてタイムマシンに乗って小さい頃の自分に会いに行ったら「作ることより面白いこと見つけたの?!」と驚かれるかもしれない。そんな幼き自分に私はこう言うだろう。

「いやいや、子供を生むということは非常にクリエイティブなことだよ」

腕の中の我が子はすやすやと眠り、幼き自分は興味津々でそーっとほっぺたを撫でホォーっと小さいため息をついた。このため息は感嘆のため息だろう。なんとも繊細でみっちりと愛が詰まった生き物に触れたのだから。愛というあんこのつまった薄皮大福。もっちり。

「じゃあ、名前はすごく変わったのにしたの?」と問う幼き自分。

「ううん、夫の名字と最大限にシナジーが生まれるような名前にしたよ。100歳になっても恥ずかしくない名前。」

「シナジー?」私の答えにちょっとしかめっ面をしてから幼き自分は尋ねる。

「旨味だよ。お鍋に鱈と白菜と大根を入れると美味しいでしょう。」私は小さい頃から鱈の鍋が大好きなのできっと通じるだろう。

「うーん。変わった名前がよかったな。」腕を組んで考え込んでしまった。今は鱈の鍋よりも将来の自分への不満でいっぱいのようだ。

「変わった名前はほら、あなたが今書いている小説のキャラクターにつけたらいいんじゃない?」

そう言うと幼き自分の顔がパァッと赤くなる。急にうつむいてもじもじとしている。そう私はかつて小説家になりたかったのだ。図書館に通いつめ、来る日も来る日も本棚の影で物語に埋もれて過ごしたものだった。

「将来の事を聞くのって反則かもしれないけれど…将来の私って小説家になってたりするの?」幼き自分は可能性に満ち溢れ、全身からピカピカとした光を放っているように見えた。

その問にニヤリと笑って私は出てきたツツジの木の影に戻ろうとする。そろそろ我が子に離乳食を食べさせる時間なのだ。

「それは未来でのお楽しみ。どんな人生を送ったとしてもこの子にまた会えると思うから安心して自分の好きなことをするといいよ。」

そう言い残すと私はもとの時代へと戻った。

***
隣の部屋で竜のタンギング音のような声が聞こえる。我が子によるギャン泣きの前奏。

(ああ、我ながら面白い夢だったなぁ)

ベビーベッドから我が子を抱き上げると安心したように眠ったのでそろりと腕を抜きながらベッドに寝かせる。

(久々に文章でも書いてみようかな)

こうして書き上がったのがこのお話でした。おやすみなさい。

機材や資料の購入費に当てさせていただきます。