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a la mode音遊び - クラリネットジャズ紹介6

6回目はDave BrubeckのBRUBECK a la mode

ピアニストDave Brubeckの名を冠したアルバムで、クラリネットはBill Smithが担当している。

Bill Smithは戦後すぐから演奏活動を開始したクラリネット奏者・作曲家である。Dave Brubeck Octetのメンバーでもあり、また音楽院や大学で作曲を修め、教鞭も取っていたことがあるそうだ。ジャズに加えてクラシックとの融合的な演奏・作曲の作品も数多く残している。

そんな彼が生涯、断続的に一緒に演奏していたのがジャズピアニストのDave Brubeck。その高彩度のピアノの音色と洗練されているけれどどこかキャッチーなメロディーで心を掴んでくるBrubeckのピアノに、また違う色合いを足したのがこのBRUBECK a la modeだ。Dave Brubeckが大ヒット作Time Outを発表した翌年の1960年に、全曲Bill Smithの作曲で発表された。フランス語のà la modeは、アイスを上に乗っけたスイーツの意味に転じてもいるけれど、本来は「流行の・現代風」を意味する言葉らしい。アメリカンな色み(?)が盛り盛りのおやつを前に、嬉しそうな顔を4つ並べたジャケットが可愛いのですでに満点である。

そしてこのアルバムは、可愛らしい耳ざわりとは裏腹に、ちょっと挑戦的なハーモニーが織り込まれたアルバムでもある。オーソドックスな編成と演奏スタイルで、モダンジャズの文法に則っていくように見えて、”そうではなさそうな”感じの音の重ね方がいろいろな曲から見える。クラリネットの音は、ピアノの単音の弦が叩かれる音ともベースの高音域が弾かれる音とも、思いのほか良くハモるのだ。Dorian Danceではのっけからクラリネットとピアノが半音差でぶつかり合う。明らかにウッ、となる感じを楽しんでいる、少なくともこれクラリネット吹いてる人は頭に直接これが響くの絶対楽しいよな、と思わせるような緊張感が生まれる。Lydian Lineではクラリネットの細い「ひとり」の雰囲気の音と、それに呼応するかのような「ひとり」の雰囲気のピアノが重なり合う。コード楽器とテーマを演奏する楽器という区別がなくなるときが一瞬うまれる。(気付いた時には、区別のある世界にサッと戻ってしまっているのが、このバンドの不思議なところである。)

そして私にとってのこのカルテットの魅力は、クラリネットがある程度オーソドックスなモダンジャズの編成のなかで自由に泳げることを示しているところだ。スウィング時代のビッグバンドのように圧倒的ソリストとしてでもなく、サックスやトランペットの代わりとしてでもなくクラリネットをやるにはどうしたらよいのか、というのは、コンボジャズの世界に片足突っ込もうとしたクラリネット吹きであれば多くの人が遭遇する悩みなのではないかと思う。このカルテットは、クラリネット特有の音の伸び方や跳ね方、高音の痩せ方や少し心がキリッとする音色、低音のちょっと戯けた感じ、そして透明にもざらざらにも変化する音をそのままにして音楽を組み立てていっている。最終曲であるBalladeは、4人の音の重なり方を存分に楽しめる1曲だ。クラリネットの軽い跳ね方にぴったり合わせにいき、時にはもっと軽やかに跳ねて前方から振り返ってくるかのようなJoe Morelloのドラム、音域は違えど単音同士の音の重なりを楽しんでいるEugene Wrightのベース。そしてそれらの音が遊んでいるのを、誰よりも遊ぶような雰囲気を出しながら組み立てているのがBrubeckのピアノだと思う。それぞれリラックスした4人の音を1つの曲にするためのバランスゲームのようなBrubeckの仕事が、このアルバム全体に挑戦的な雰囲気を与えているのかもしれない。


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