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たまに無重力になる - クラリネットジャズ紹介4

4回目はKen PeplowskiのEnrapture

Ken Peplowskiは現代のジャズクラリネット奏者の中で最も多彩な活動をしているうちのひとりである。ビッグバンドから少人数コンボまで、スウィングなどの伝統的なスタイルから自ら手掛けた曲やポップスアレンジなどの新しめのサウンドまで、そしてバンドリーダーとしてもサイドマンとしても、クラリネット奏者としてもテナーサックス奏者としても、あらゆる色のクラリネットを自在に操っているように見える。

このアルバムは、彼の新しめのリーダーアルバムであり、全編を通してピアノのEhud Asherie、ベースのMartin Wind、ドラムのMatt Wilsonとのシンプルなカルテットで演奏されている。Ken Peplowskiはフロントでクラリネットとテナーサックスを交互に演奏する。そして選曲も特徴的で、Duke Ellington OrchestraのナンバーのFraming Swordから始まり、ジョンレノンのカバー(Oh My Love)や歌ものではない映画音楽のカバー(Vertigo)など、ジャズだった曲もそうでない曲も広く取り上げている。

Ken Peplowskiのクラリネットは、不思議な軽さのあるクラリネットだ。息遣いがそのまま聞こえるというよりかは、どちらかというと安定感と明るさが造り込んであるような、クラリネットらしい(?)音色の持ち主である。しかし、それでいてカラッとしているというか、どこか飄々としている音色と音選びが、どんなスタイルやアレンジの演奏をしても「これはKen Peplowskiの音楽だな」というアルバム全体の響きを作り出しているように聞こえる。

Framing Swordのようなサンバのリズムのアップテンポの曲、静謐だけど暖かい雰囲気で演奏されるバラードのI'll Close My Heart、調を定められないようなフレーズとリズムのキメが特徴的なEnraptureなど様々な色の曲を演奏しているが、どのアレンジにも共通して、ふっと重力から解放されるような瞬間が織り込まれているような感じがする。アルバム全体を通して、ふと無重力になる感じを探してしまうので、それが多彩な選曲とアレンジに統一感を与えているのかもしれない。



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