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偽物のiPhoneCase

偽物のiPhoneケースを買った。もちろん偽物とは知らずに。

僕が使っているのは、今や型落ちも通り過ぎたiPhoneXだ。競争が激化しているスマートフォン業界の中でも、スクリーン上にある物理ボタンを完全に廃止した最初の"ノッチデザイン"として一世を風靡し、iPhoneが最初に発表されたとき以来、最も革新的なデザインを世に知らしめた名機だ。宗教上の理由(または一身上の都合)で純正ケースしか使えない僕は、今まで使ってきたレザーケースが劣化してきていたので、新品のレザーケースをずっと探していた。純正でもシリコンケースなら大量に出回っているが、生産数が少ないのか、比較的高額なためか、レザーケースはインターネットで検索をしても、色が選べるほど選択肢はなかった。

フリマアプリから家電量販店の通信販売を見漁り、果ては日本語圏ではなさそうなサイトまで手を伸ばし始め、探し続けていたある日、Googleに見たこともないサイトを紹介された。

ちゃんとApple-designedと書かれているし、値段は定価より安い。このウェブサイトの会社紹介を読んでみると「世界中に倉庫があるから安く販売することができる」とも書いてあった。実際、iPhoneXは型落ちだし、地元のパソコンショップではレザーケースが投げ売りされていた(まだ買うと決めていない頃。悩んでいるうちに他の誰かに買われてしまった)のを知っていたから、そんな可能性があるかもしれないと思い、この怪しいサイトで実際に買ってみた。ただし、リスクヘッジはした。中国のサイトでは個人情報が抜かれるのが当たり前だと書かれていたことがあるのを覚えていたから、新しく作ったクレジットカードを使った。こうしておくと、例えばカード番号が抜かれたとしても、すぐにカードそのものを止めれば被害を抑えることができると僕は考えた。

実際に届いた商品はこれだった。

何かが違う。そもそも、iPhoneX用のケースを注文したにも関わらず、実際に届いたのはXsのケースだった。それに、パッケージデザインにうるさいAppleなら付けるはずもないQRコード(あとになってこれを読み込んでみると、下に書かれているiX-Smart-MidBlueがGoogleで検索されているだけのページが表示されることが分かった。商品の詳細ページに飛ぶわけではなく)がデカデカと全面にある。さらに言えば、中国のウェブサイトを警戒していたため、発送元が香港のOfficeとなっていたところもにも猜疑心は働いた。疑念は少しずつ膨らんでいく。

長旅をしたパッケージは非常に精巧に作られていた。デザインは似せてあるし、アイコンまで独自で似たものが用意され、実に多くの言語で簡単な説明文が書かれているところまで、雰囲気は純正のものと酷似している。だが、何かが足りない。決定的に何かが欠けている。

実際にXsの純正レザーケースを定価で買って、並べてみると、すべてが違うことが分かった。パッケージの大きさも、デカデカと全面にあるQRコードも、印刷されているケース写真の色すら違う。疑念はどんどん確信に変わっていった。

明らかに違うと気が付いたポイントは、この写真がわかりやすい。1枚目の写真が偽物で、2枚目が本物。カメラ周辺の縁取りが雑すぎる。こんな一辺倒な凹ませ方は、我らが教祖Appleなら絶対にしない。つくりが甘い。サイズはほとんどぴったり(XにXsのケースをつけているせいでカメラの周りには少し幅があるけれども)であるにも関わらず、偽物はどこか安っぽい。しかも、パッケージを開け、触ったときの質感がさらさらし過ぎていた。指先でなぞると、シリコンのように不自然な滑り方をした。革であれば少しはざらつきがある。

色合いも違っていた。純正は紺色に近いのに対して、偽物は明るめの青だった。写真の撮り方で色合いが少し違うため、これらの写真だけで見比べることはできないが、あきらかに二つは違う色をしている。

上に乗っているものが純正品で、下が偽物。縁取りの丁寧さはここにも現れていた。純正品がなだらかな凹み方をしているのに対して、偽物は穴開きパンチであけられたように、図々しく角張った縁である。音量ボタンの色や質感も違う。金属っぽい光沢と、どう見てもプラスチックとわかるボタン。

最も違いがわかりやすいのはここかもしれない。純正品は包むようにふさふさのケース内部に対して、偽物はつるつるしている。本体を保護する気がない。ただし、刻印は偽物のほうが読みやすいようにも見える。

パッケージの中にまで違いはあった。純正品は留め具のような出っ張りがついていたのに対して、偽物には取っ掛かりすらない。これでは、中身が箱から飛び出してしまう。


偽物のパッケージの一部。よく見ると、"およびiPhone Xs と互換性があ リ ます"になっている。この"リ"はひらがなの"り"ではない。一体どこから取ってきた"リ"なのだろうか。ちなみに、日本で商品コードとして使われているJANコードも純正品と偽物では違っていた。よく考えてみると、偽物でもちゃんとJANコードを生成していることも徹底している。この偽物は素晴らしい。偽物であること以外は。


僕はすべてを確認し終わったあと、偽物に対する怒りや、お金を無駄にしたことへの喪失感よりも、「もし純正のケースを使ったことがなかったら、これが偽物であると気が付かなかったかもしれない」と思った。それほど、雰囲気は悪意を持って似せられていた。中国ではコピーが文化だと言ってもいいほどにコピー品が出回っている。街の露店で「純正品より高品質」と声高に偽物を売っている人たちがいるのを知っている。オリジナリティよりもブランドを上回る再現力、品質が求められている。日本では偽物を探すほうが難しいが、海を跨げば本物を本物だと見分けられる審美眼が必要になる。

そのことに恐怖を覚えるほど、この愉快な買い物に思い入れはないが、とりわけ大きな買い物をするときは、どこに住んでいても気をつけたいと思った。


追記1:買ったウェブサイトに書かれていたサポートに「偽物だとは知らずに買った。期待していたものとは違う物が送られてきたので、返品したい」と日本語で送ってみたところ、「保証の対象になるので返金します。商品の写真を送ってください」と英語で返ってきた。日本語が通じるのか通じないのか分からないが、とにかく返品はできそうだ。迅速で、素晴らしいサポートだと感じた。偽物を販売していること以外は。

追加2:返金しますと言いつつ、あれから音沙汰がない。通知を送るとメールされたので、返金とメールが同時に来るのかと待っているのだが、一切連絡が来ない。こちらからメールを送るのも面倒なので、そのままにする。

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