見出し画像

あれから1232日後 - オンライン料理教室の立ち上げと運営を通して学んだこと

料理家のSHIORIさんと一緒にコロナ禍に立ち上げたオンライン料理教室L'atelier de SHIORI Onlineラトゥリエ ドゥ シオリ オンライン(アトリエ)も、気がつけば始まって3年半の月日が経ちました。


初めてのレッスンの日から1,232日。
レッスン動画数は、合計144本。
紹介したレシピ数は、合計388品。
第1期生として参加してくださった生徒さんの数、5,814名。
これまでご一緒した生徒さんの総数は、なんと累計17,284名。


この3年半に起こったことは、私にとっても、SHIORIさんにとっても手探りのことばかり。その中で起こった軌跡(と奇跡)は、2023年3月に発売されたSHIORI著『おいしい仕事術』にもたっぷりと書かれていますが、このnoteでは、立ち上げから関わった1人として、運営側はどう考えどう動き、そして何を感じてきたのかの記録を書き残しておきたいなと思います。


この記録が、またこれから「誰かのために」と自分の人生を切り拓いていかんとする誰かの後押しになれば幸いです。



*長文になります。





母親として、愛する息子のためにした大きな選択


「実はね‥ 代官山のアトリエを手放そうかと思っているんだ。」


以前仕事で一緒になってから仲良くなっていたSHIORIさんから久しぶりのメッセージが届いたのは、2020年の6月3日のことでした。


世界を脅かしたコロナによる、初めての緊急事態宣言が日本に発令されたのが2020年4月7日。その後のステイホーム期間中、おうちごはんに苦しんでいた人たちに作る楽しみを届けたい!と、彼女がInstagramで無料のライブ配信を続けているのは知っていました。でもあんなに大切にしていた代官山の料理スタジオを手放すなんて、やっぱりコロナのせいかな…と思っていると、彼女はこう続けました。


「びっくりさせてしまうと思うけど、息子、先天性難聴で耳が聞こえないんだ。専門の先生からは3歳までのもっとも大事な時間を療育に専念した方がよいとも言われ、仕事をどうするのか、アトリエや店を手放さなくてはいけないのかなとか、考えると眠れない日々だった。


けど、やっぱり一番は私が元気で笑顔で息子に接することだよなと思って、仕事も完全に休むのではなく出来る範囲のペースで続けていこうかと


それでも、もう昔みたいな働き方はできないと思う。だから、アトリエは手放して、これからは極力家にいて息子と時間を過ごしながらも、好きな料理で人の役に立ちたい。力を貸してもらえないかな?」


SHIORIさんといえば、私の世代の女の子で彼女の出版した『作ってあげたい彼ごはん』を見たことはない人はいないんじゃないかというほど人気の料理家です。シリーズの累計は400万部。私がのらりくらりと大学生をやっていたような若い頃から料理業界で頑張ってきた人。初めて対面した12年前には、同い年にも関わらず自分の仕事を見つけ、実績と結果を積み重ねている彼女に引け目を感じたほど。まさか友人としてこうやって長く付き合いが続くとは、当時思ってもみませんでした。


そんな彼女が、愛する息子くんのために、自分のキャリアを諦めなければいけないかもしれないとまで悩んだと。それを聞いて、長く見守ってきた友人として、そして同じ母親として、彼女が家族を大切にしながらも自分らしく働くことを諦めずにいられるように全力でサポートしなければ、と思いました。


それは、コロナ禍という緊急事態の中で、絶対にたくさんの人に希望を与えてくれるに違いないという確信があったから。


同時に、コロナという大きな災害を前に、何もできない自分を無力に感じていた、そんな自分に少し光が射したような気持ちもあったと思います。


「それは絶対絶対やるべきだよ!手伝わせてよ!!」


もちろん、すぐにそう返事しました。
すると彼女がポツリと、とんでもないことを言い出しました。


「ありがとう!Instagramで料理教室を始めたいんだけど、コロナ禍真っ最中で、今まさに必要としてくれている人たちがいるの。だからもう7月には開始したいんだ。間に合うかな?


当時、前例のなかったInstagramの料理教室。それをなんと1ヶ月後には始めたいと言うのです。


待ってくれ!
検証しなければいけないことがたんまりある。
無茶を言いなさんな。


私はすぐに彼女にこう伝えました。


「わかった!!!間に合わせよう!!!やろう!!!」


そこから、私の怒涛の1ヶ月が始まりました。




Instagramで月額制の料理教室?!
準備期間たった1ヶ月の初挑戦

キッチンでレッスン動画を見ながらにお料理しているイメージ


私は当時、この手のプロジェクトの立ち上げに精通していたわけでは全くありません。コミュニティ運営などしたこともないし、料理教室もやったことがない。システムエンジニアをやっていた時のIT周りの知識と、とりあえずなんでもやってみる精神で飛び込んだ様々なプロジェクトでのこれまた雑多な経験を併せ持つだけの人間でした。


強いて言うならば、SHIORIさんを見守ってきた中で、彼女が大切にしたいであろう想いだけは、理解できていたかなと思います。ありがたいことに、彼女にとってそこが最も重要なポイントだったようです。


彼女からの要望は、大きく以下の3つでした。


① プラットフォームは、今ライブ配信をやっているInstagramから変えたくない
Instagramは一般の人の暮らしに馴染んでいるSNS。すでにライブ配信をやりながら、相手へ届けることやコミュニケーション面での手応えを感じていたため、そこから離脱者を出したくない。当時Zoomも普及しはじめてはいたものの、やはりどんな人の日常にも溶け込みやすいInstagramを使いたい。


② 単発レッスンではなく、月額制の継続レッスンをやりたい
せっかくやるならば、本当の料理の楽しさを存分に伝えたい。これまで書籍やテレビなどでは伝えきれなかった行間をしっかり伝えていきたい。そのためには単発の仕組みではなくて、継続して受講してもらえる仕組みにしたい。それによって暮らしにもっと寄り添えるんじゃないか。


③ とにかく今この瞬間に必要としている人がいるから、1ヶ月で立ち上げたい
今やるからこそ意味がある。今が一番必要としてもらえる瞬間。このタイミングを逃したくない。無料のインスタライブを経て体感している、画面の向こう側にいる人たちのつらさや苦しさを受け取っていたからこその強い要望。


彼女のやりたいことは非常に明快で、かつ「その他は任せる!!」というスタイルだったため、幸いあらかたの骨組みはすぐに決まりました。


  • プラットフォームはInstagram

  • 会員限定コンテンツ配信のため鍵アカウントを運用

  • Instagramの鍵アカウントへは手動で承認

  • 決済はBASEの定期便を使用

  • 決済時にInstagram IDを備考欄で入力してもらうことで連携

  • 毎月レッスンをライブ配信+アーカイブへ保存

  • 過去レッスンは全てアーカイブへ格納、いつでも見られるように

  • レシピはメールで配信

  • 毎月の決済のタイミングを鑑みて入退会は月に一度のみ(月末月初)


苦労したのは、やはりInstagramと決済情報の連携と、Instagramへの承認のプロセス。特にInstagram周りで必要になる操作は、徹底的に試してみる必要がありました。アカウントにフォロー申請が来た時、それを承認するのはなぜかパソコンからはできなかったし、さらにフォローリクエスト一覧からIDで探そうにも毎回検索するのは難儀です。抜け道のようなものを見つけ、どうにかこうにか、こう管理すれば無理なく同時に申し込みがあってもそれなりの作業量で抑えられるだろう!というあたりをつけていきました。


あの時のやり方が最善であったのかは、正直なところ今でもわかりません。何せあの時、とにかく時間がありませんでした。どうにもならないかもしれない…!というピンチに陥っては胃がきゅうっとなり、なんとか抜け出してほっと一息つく、の繰り返しです。


とにかくSHIORIさんにはコンテンツ作り(まずは年間レッスンのメニューを作ってもらうこと、初回レッスンの準備を進めてもらうこと)に集中してもらい、仕組みやサイトなどについては私が全て枠組みを作りました。


ほぼ2人で1ヶ月かけて、全て組み立てて、いけるかも…!となった時の安堵感は忘れられません。やっとコロナ禍で毎日のおうちごはんに苦しんでいる人たちのもとに、この料理教室を届けられる!1人でも多くの食卓に笑顔が戻ってほしい!


そしてその後、いざローンチ!となった後、忘れられない出来事が起こりました。




想定の10倍以上の申し込みが殺到し
初回申し込みを1時間で一時停止。そして…

急遽申し込みを停止する事態になり、SHIORIのInstagramで何度もアナウンスを流した


あの時私は、あらゆる見積もりが甘かったんです。


何をどう考えても、1人でどうにかしようだなんて、無謀でした。


まず、コロナ禍でどれほどの人たちがおうちごはんに苦しんでいるのか、助けを求めているのか、それを見誤っていました。


SHIORIさんがコロナ禍に開催していたインスタライブには当時数千人が集まってくださっていましたが、有料で開催する料理教室に入ってまで続けたい人は、ごく一部だろうと思っていたんです。念の為アンケートも取りました。有料でも入りたい、という意見は当時5000名ほど集まりましたが、初めての試みで、有料のコンテンツ。「アンケートでぽちっとは押せても、とはいえ実際に入ってくれるのはこの1/10ほどじゃないだろうか」と思っていました。


ところが実際に蓋を開けてみたところ、SHIORIさん渾身のインスタライブでのプレゼンが皆さんの心に響いたのか、用意していた1,000名の枠はほんの数十分で売り切れ。あわてて追加した1,000枠も、瞬時に売り切れてしまい、ほんの1時間で2000名ものお申し込みがありました。


私のスマホのBASEアプリは鳴りっぱなし。
問い合わせ用アドレスのGmailにはメールがあっというまに数百件、千件と溜まっていきます。
SHIORIさんのInstagramにも、
「再販はありますか?」「もう申し込めませんか?」
というコメントやメッセージが殺到。


正直、思考回路が一瞬止まりました。

心臓は、洋服の上からでもわかるほどにバクバクしていました。

でも私がパンクして倒れている場合じゃありません。

待ってくださっている人たちがいます。


私はこの時、1人でどうにかしなければという頭を手放し、運営チームを組むことを決め、生まれて初めて人に


「助けてください!!!」


と本気でメッセージを送りました。つてはそんなに多くありません。この方達が即日対応することが難しければ、もう1人でどうにかするしかない状況です。

その時に連絡したのが、当時住んでいた熊本で偶然別のプロジェクトでお世話になっていたエージェントこころさんという、コールセンターやオペレーション業務をサポートしている企業の社長の塚本さんでした。


塚本さんは、ぶしつけな私からのメッセージにも関わらず、すぐ翌金曜日の朝、ミーティングを組み、もちろん力になります、すぐチームを組みますよと言ってくださるではないですか。冗談抜きに「ああ、女神って存在したんだ」と思ったのを今でも覚えています。


信頼できる人たちがサポートに入ってくれることが決まり、私たちは申し込み再開を決めました。やはりコロナ禍で苦しんでいる人たちのためにと作ったサービスですから、入りたいと言ってくださる方は全員参加していただきたい。人数制限をなくし、土日の2日間だけ申し込みを解放。


最終的にはなんと5,814名もの方が、初めての試みでどうなるかもまだわからない中でアトリエの第1期生になってくれたんです。


どうなるだろうかというドキドキと、SHIORIさんの声がみなさんに届いた喜びに、私は1人で手を震わせていました。

そして、そこから初回レッスンまでの約10日間の間は、チームにとっての初めてで、かつ最大の戦いです。Instagramの鍵付きアカウントへのフォロー申請がわからなかったり、Instagram IDを伝え忘れたりと問題が多発。それでも


「絶対に初回レッスンにはお申し込みいただいた全員の方がInstagramに参加できている状態にする!」


と、チーム一丸となり、本当に1人1人にフォローアップをかけながら、初回レッスンの日までに鍵付きのアトリエのInstagramに無事全員参加してもらうことができました。


アトリエのInstagramに一番最初に投稿した、SHIORIから生徒さんへのウェルカムメッセージのコメント欄に溢れる大量の「入れました!」「これからが楽しみです!」というコメントに、これから始まるまだ見ぬ何かに向けて、私たちも胸が熱くなったのを今でも覚えています。


ちなみにもう一つ、私が見積もりを誤っていたもの。


それは、SHIORIさんが料理家として過ごしてきたこの14年という歳月の中で築き上げてきた、ファンのみなさんとの信頼関係、絆の強さです。


「SHIORI先生の料理教室なら間違いない!」
「SHIORIさんに人生何度も助けていただいてきました!」
「コロナ禍でのライブに救われました。これからもSHIORIさんに学びたいです!」
「SHIORIさんの発するメッセージが本当に大好きです!」


次々と届くメッセージに、正直はっとさせられました。


アトリエにこうやって集ってくださった方々は、これからの料理教室への期待で集まっているだけではなくて、これまでにすでにSHIORIさんに助けてもらったと感じてくれている人たちなんだ。たった一人の同い年の女の子が、こんなにもたくさんの方の人生に関わってきていたなんて。


それに改めて気付かされ、さらにこのアトリエという場所が、本当にSHIORIさんにとっても生徒さんにとっても居心地の良い、心が豊かであることができる場所であってほしいと強く願うようになりました。





なんでも完璧な料理家のイメージから、
ひとりの等身大のSHIORIへ

特に、パブリックイメージの改善は私が成し遂げていきたいと思っていたことの一つでした。


オンラインレッスン開始当初は、まだSHIORIのイメージは「ポジティブで、努力家で、家事もできて、すごい人!」という人が大半だったと思います。


こんなイメージ by『作ってあげたい彼ごはん 6』


でも実際は、結構ネガティブな部分もあるし、心配性だし、料理以外の家事は、私が言うのもなんですがなかなかのぽんこつぶりです。


(20代で圧倒的な結果を出した彼女に引け目を感じていた私が、私なんかでも彼女の役に立てるかもと感じることができた理由がそこにあったりします。)


ちょっとした言葉にも胸を痛めては、ダメージを全部受け止めた上で立ち上がるような、そんな女の子です。


実際のSHIORIさんと、イメージが離れてしまうと、その期待に応えようとして負荷がかかってしまうかもしれない。それをリアルな「SHIORIさん」に近づけていくことで、彼女にとってアトリエでの時間がよりかけがえのないものになり、さらに発信される情報の質も、より「ここにしかない」ものになれると思いました。

アトリエのコンセプトは、"まるでSHIORIのうちに来て料理を習っているような料理教室"です。そこで、アトリエの投稿では「手書き風フォント」や「手書き風イラスト」、「ロマチさんのイラスト」を使うことにしました。デザイン!というほど気張らず、シンプルにわかりやすく、生徒さんにも疲れさせないように。ほんの少し気を抜いて見られるくらいの空気感を目指しました。


なつかしのSHIORIの気まぐれコラム


特に目玉(!?)は、レシピを発表する際に使う「SHIORIの手書きのゆるイラスト」です。


「レシピ発表時には、仕上がりイメージの写真を見せず、想像力をかきたてたい」という彼女の想いもあり、既存のイラストではなく、SHIORI本人がメニューイラストとキャッチコピーを毎回描いています。


漢字は間違えても気にしない(SHIORI画)


こちらのイラストが、回を重ねるごとに上達して味と深みが増している…!と大好評。SHIORIさんのテキトーさと繊細さを見事に表したイラストで、ぐっと本来のSHIORIのイメージにも近づきました。


2023年3月に発売されたSHIORIの書籍『おいしい仕事術』発売時には、生徒さんたち向け限定のおまけとして、このイラストをモチーフにグッズを制作したほど、今では生徒さんたちに愛されているコンテンツのひとつです。


アトリエの生徒さん限定で作成したおまけフォルダ


さらに、偶然同時期に開始した、夫であり配信時にはカメラマンをしてくれているロマチさんのInstagramアカウントで、さらなるSHIORIのプライベートが明かされるようになり、さらにリアルな希少種「SHIORIさん」の生態が浸透していきました


今ではもう「さすがSHIORIさん!」で済みますが、当時は結構びっくりした方も多いはず。


↑とめどなく見ていられるので、よかったらぜひフォローしてみてください。


ロマチさんのアカウントが開始したのは偶然ではありましたが、旦那さまからの発信が、SHIORIさんという人柄をより多角的に深みを持って伝えてくれたのは事実です。


そのおかげで、「遠い存在のように感じていたSHIORIさんを近くに感じられるようになった!」という生徒さんからの声もたくさん届くようになりましたし、SHIORI自身も「アトリエでの配信の時には、より自分自身でいられて楽しい」と言っています。


「まあそもそも家からの長時間の家からの生配信だし、カメラマンもロマチ(旦那さま)だから、もう取り繕い続けるなんて無理だよね!笑」


自宅からのオンライン配信というこんな事情が一番の本音かもしれませんが、これらはSHIORIさんがよりSHIORIさんになれる場所にできた大きな一因かなと思います。




自分が時にブレーキになることで
アクセルを思い切り踏めるようにする

息子くんの先天性難聴を告白したSHIORIさんのnote「からあげくんの誓い」より


さらに私が考えたのは、いったいどうしたらこのアトリエという場を通して幸せや豊かさが広がっていけるのだろうか?ということでした。


生徒さんにとっては、アトリエという場が続いていくことが、きっと食卓に彩りを与え、料理の楽しみを深め、広げていくきっかけになれるはず。では、アトリエが長く続いていけること。つまりアトリエの運営がサスティナブル(持続可能)であることが重要ということです。


では、どうしたらアトリエの運営を長く続けていけるでしょうか?
それに対する私の答えが、


【SHIORIとその家族が幸せであること】


でした。


アトリエという場は、SHIORIなしには成り立たせることができません。SHIORIが続けられないと感じてしまったら、もう継続することができない。


オンライン料理教室を始めようと思ったきっかけは、コロナもそうですが、それ以前に息子くんの療育と仕事を両立しなければいけなかったという事情があります。アトリエを続けることが、息子くんとの時間を奪うことになったり、自分の仕事が終わってからさらに撮影に協力してくれる旦那さまの大きすぎる負担になってしまったら本末転倒。


それに、そんな家族がギリギリの状態になりながらもし継続したとして、その時発信するレッスンは、本当に生徒さんを想って100%エネルギーを割いたものにできるだろうか。いや、それは絶対に違うはずだ、と思いました。


生徒さんを想って、その食卓に笑顔を届けるレッスンを続けていくならば、SHIORIと、そしてその家族みんなが幸せで、そのエネルギーが循環してレッスンやレシピとして生徒さんの元に届く形にしたい。そこで私は、関わってくださっているすべての人たちにとって価値あるアトリエであるために、【SHIORIとその家族が幸せであること】に全コミットすることを決めました。


そうすることで、自分たちを追い込みすぎる心配をすることなく安心してSHIORIさんも、私以外のチームスタッフも、生徒さんへの寄り添うレッスンやサポートに徹底することができるようになります。


そしてそれは同時に「SHIORIさん無理してませんか?大丈夫ですか?」と心を寄せてくださる生徒さんにとっても、「スタッフの人たちがいるからきっと無理しないでいてくれてるだろう」と安心して参加してもらえることにもつながるというのは運営を始めてから気がついた発見でした。


意識していたことは、このようなことです。


  • SHIORIさんの役割をコンテンツ担当に絞り、その他すべての運営を自分たちで巻き取ること(SHIORIが苦手とする動きの一切を引き受けること)

  • SHIORIさんがこだわりたいところは、とにかくこだわれる環境を整えること

  • SHIORIさんが、パブリックイメージに縛られることなく、最もSHIORIさんらしくあることが許される、居心地の良い居場所にすること

  • SHIORIさんとロマチさん、息子くんが見えないところで疲れ切ってしまっていたりしないか常に気を配ること

  • 時に本人が無茶をしそうになったらストッパーにもなること

  • 期待をSHIORIというひとりの人に背負わせることのないよう、スタッフの存在もまたアトリエに居続けたいと思える理由のひとつになっていくこと


ブレーキの存在がなければ、安心してアクセルを全開にはできないはずです。彼女に対して、時に「NO」を言える存在だからこそできることがあるよなと。これまで彼女が背負ってきたものを、少しでも私やチームスタッフが引き取り、彼女が彼女にしかできないことで価値を提供し続けられる環境を作ることが、アトリエが走り始めた後の私の最初のミッションだと思ったんです。




2年目、レッスンの頻度を下げるという決断


実際、1年目が半分すぎて翌年どうしようかと考えていた頃、私は彼女にこんなことを尋ねました。


「今、月に2回通常レッスンをして、さらにおまけ配信を1回やって。そのたびに新しいレシピを研究しては準備をしてってやっているけど、もしかしてすごい負荷になってない?」


彼女は、新しいレッスンの度に1週間近く毎日のようにそのメニューを徹底的に研究しては新しいレシピを書き下ろしているのですが、それが月に2回(+おまけ1回)があると、ほぼ1ヶ月のほとんどをレシピ開発とレッスン準備に充てていることになります。さらに当時まだ1歳だった息子くんの療育、人工内耳の手術での親子での入院、事故での骨折など。当時熊本から見ていても、疲れの色が見えてきていました。


「正直ちょっとこのままのペースだと辛くなっちゃうかもしれない…気がついてくれてありがとう…」


そこで私たちは話し合い、2年目からはレッスンの配信頻度を落とし、長く続けられるプラットフォームを目指そうと決めました。初年度は過去のレッスンのストックがないこともありハイペースに配信していましたが、生徒さんにとっても2週間に1度(あるいはもっと)復習したいレシピが貯まってしまうより、じっくり1月に1つずつ学び、時々過去のレッスンを振り返れる余白がある方が続けられるんじゃないか、という思いもありました。


すでに始まっているサービスの提供頻度を落とすという決断は、簡単ではなかったです。とても慎重に、なんどもなんども試行錯誤しながら決めていきました。がっかりして去ってしまう方はいないだろうかという心配もありました。でも【SHIORIとその家族が幸せであること】という私の役割をもう一度思い出し、長くしっかり生徒さんたちに価値を届けるために、この判断は間違っていないはずだ、と言い聞かせました。


「2年目からを、2nd Seasonと呼んで新しくスタートしていこう。しっかり価値観をアップデートしながら、柔軟に変わっていけるコミュニティを目指そう。」


実際、2nd Seasonになり新しいシステムに移行した時に、残ってくださった生徒さんは全体の98%に及び、こんな声も届いたんです。


「ちょっと心配してました!よかった!」
「復習が溜まってきてるので、私たちにとってもいいペースです!」
「SHIORIさんたちご家族にとって良いペースにしてくださって安心しました!」


私たちはほっと胸を撫で下ろしました。こんなに運営側に思いやりを持ってくださる生徒さんたちが集まってくださっている奇跡に、本当に感謝の気持ちでいっぱいでした。


私たちが1年ごとに1st, 2nd, 3rd Season.. と呼び方を更新していくようになったのはこの時からです。




数百万人にコンテンツを届けてきた
SHIORIという人から学んだこと

デンマーク、nomaの玄関にてSHIORIさんと。予約は取れず、見学だけさせていただいた時


この時、彼女とやっていて「やっぱりこれが数百万人という人にコンテンツを届けられる人なんだな」と感じたのは、まずこだわり抜くところと柔軟に対応するところのバランス感覚がやはり絶妙だということ。


アトリエの運営において彼女がこだわり抜くところは、

・自分のプロフェッショナリズム(料理)の領域
・伝え方、メッセージの出し方
・社会がそれを必要としているのかどうか

という3つ。


料理に対しては、私は彼女を信頼して、口を出さないと今でも決めています。伝え方や、社会における必要性に関しては、お互いに納得がいくまで話し合います。でもそれ以外の部分は、かなりの点において彼女は柔軟に私の提案を受け入れてくれる。このエネルギーのかけかたのバランスが、彼女の価値を最大限引き出しているポイントの1つだと感じます。


そしてこのバランス感覚というのは、おそらく料理においても同じなんだろうなと。手を抜いていいところと、絶対最後まで丁寧にあきらめないところと。このバランス感覚があるから、見ている私たちも、気負わずでもおいしくおうちごはんを楽しむことができる。そしてこの感覚というのが、おそらく自分1人でやっていてはなかなか手に入れられないものでもあると思うんです。


彼女のレッスンは、おいしい!の探究と共に、肩の力のぬき方も教えてくれる心に、豊かさと、余白をくれるレッスンであると思います。


もう1つは、社会が必要としているタイミングを逃さず、社会で起きている課題に対し自分の価値を掛け算して提供するを徹底している、ということ。


課題起点の提案というのは、彼女がブレイクしたきっかけにもなった『作ってあげたい彼ごはん』の時から一貫しているからすごい。


「彼のためにごはんを作るのって楽しいということを伝えたい!」
という、自分が伝えたいことベースの企画ではなく、
「彼のためにごはんを作りたくて料理を始める女の子が多いはずなのに、若い女の子向けの料理本がないのはなんでだろう?」
という課題意識から始まっている企画

そこに、自分ならこういう本を作れます、と提案する。
その企画は、今この瞬間に世の中にないものだからこそ、生み出すことに価値がある


今回のオンライン料理教室もまた同じでした。


「毎日の料理に苦しんでいる人たちが増えているのに、世の中に溢れている情報は時短、手間なしなどばかり。料理の本質的な喜びを伝えることが、苦しんでいる人たちの力になれるんじゃないだろうか?」


その想いは、こちらのnoteにも書かれています。


徹底的に相手目線で物事を考えるSHIORIさんの『おいしい仕事術』では「想像力」という言葉が使われていますが、当たり前のようにこの視点で全ての物事を考えられる力が、やはり多くの人に彼女のコンテンツが届く、大きな要因のひとつなのだろうと感じています。




「おいしい」には、
本当に人生を好転させていく力がある

SHIORIさん、ロマチさん、息子くん、妹の萌ちゃんの食卓のイラスト


初めてのレッスンの日から1,232日。
レッスン動画数は、合計144本。
紹介したレシピ数は、合計388品。
第1期生として参加してくださった生徒さんの数、5,814名。
これまでご一緒した生徒さんの総数は、なんと累計17,284名。


振り返ってみると、この3年半に得た学びは、ここにまだまだ書ききれないほどあります。でも最後にひとつ、お伝えしたいのは、生徒さんたちに起こってきた変化についてです。


私たちのオンライン料理教室には、退会される方から、退会理由の他に、熱いメッセージが届くことがあります。例えばこんなメッセージです。


「アトリエで学んだ食事のおかげで、本当に食卓が豊かになり、家族の会話も増えました。でもそれ以上に、SHIORIさんのレッスンからは、自分の生き方や、仕事に対する姿勢すら学ばせていただき、やっぱり私もやりたいことにもっとチャレンジしたいと思えるようになりました。アトリエを一旦お休みして、新しい夢に向かってチャレンジしていきたいと思います!また戻って来られる日を楽しみにしています!」


私たちはいつもこういったお声が届くと、嬉しくなって「今回もまた飛躍退会の方からメッセージが!!」と喜んでいます。おいしい食事を通して、次のステップへと進んでいくエネルギーが十分たまっての卒業だなんて、こんなに嬉しいことはありません。


しかし正直なところ、私にとって、毎日の食事とはおいしいものを食べるのは好きだけど、それ以上に献立を考えるのがしんどいだけのものでした。だから、こういう料理教室やレシピサイトなどから得られるものは、その献立を考える苦しみからの解放のイメージがとても強かったんです。


でも生徒さんからのメッセージを見て、おや、どうやらそれだけではなさそうだぞ何やらもっとすごいパワーがありそうだぞ、と思うようになりました。


例えばそれは、芽吹いていく種と土や水の関係に似ています。


種は、ある土、水、温度など、ある一定の条件が整えば自然と芽が出るようになっているのと同じように、私は人も、ある一定の条件が整えば、自然と未来へ向かって前へ前へと成長していく生き物だと感じています。


その条件とは、例えば、


・心身が共に健康であること
・自分自身が枯渇した状態ではなく、満たされていること
・周囲にいる人との関係性が非常に良好になっていること


などがありますが、これらは「おいしい」によっていずれも満たされていくことができるんじゃないだろうか、と気がついたんです。


「おいしい」は、健康への第一歩。
「おいしい」は、こころと体が満たされていくサイン。
「おいしい」は、ありがとうを言いたくなる。
「おいしい」は、誰かにシェアしたくなる。
「おいしい」は、会話を生む。
「おいしい」は、同じ食卓を囲う人たちをつなぐ。
「おいしい」は、食卓から、暮らしを豊かに彩る。


そこで育まれた自分のこころや体、身近な人たちとの関係性が、自然とその人の内側に眠っている、チャレンジしたい、成長したいという気持ちを呼び起こしてくれる。


こころも体も周囲の人との関係性も、一朝一夕でどうにかなるものではありません。けれど、毎日の食事を楽しんでいるうちに、気がつく頃には小さくも大きな変化が生まれているのかも。


そんな、「おいしい」の持つ可能性に気がつかせてくれたアトリエに感謝しつつ、これからも縁の下で陰ながらSHIORIさんや、みなさんをサポートしていけたらと思っている今日この頃です。


関わってくださっているみなさまに感謝して。


最後までお読みいただいた皆様、ありがとうございました!
2023年、年内最後の生徒さんの募集は、11月30日(木) 17時までとなります。



よろしけば私たちと一緒に、年末年始にも「おいしい」を満喫してみませんか?



谷本 明夢 / スタッフめい



この記事が参加している募集

振り返りnote

仕事について話そう

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?