詰将棋フェスティバル 予習2
バーチャル詰将棋作家の駒井めいです。
2022年2月12日より「詰将棋フェスティバル」と題した詰将棋作品展を開催します。
下記の3つの部門に分けて行います。
(1) ビギナー部門
(2) オンライン作家部門
(3) 複数解・ツイン・変同解部門
「(1) ビギナー部門」「(2) オンライン作家部門」においては、17手以下の詰将棋が出題されます。
一方、「(3) 複数解・ツイン・変同解部門」においては、普通の詰将棋以外にフェアリー詰将棋も多数出題されます。
フェアリー詰将棋のことをよく知らないという方も多いと思います。
開催に先駆けて、フェアリールールやフェアリー駒について少し紹介しておきます。
前回はフェアリールールを取り上げたので、今回はフェアリー駒を取り上げます。
(1) Knight
【 Knight 】(騎)
チェスの Knight。八方桂。
![](https://assets.st-note.com/img/1643720761362-vopAOjwsri.png)
【 協力詰 】
先後協力して最短手数で受方の玉を詰める。
[ 正解手順 ] 24銀、同飛、41騎 迄3手。
11・55・63の地点そして攻方持駒にある「騎」と書かれた駒がフェアリー駒の Knight です。
いわゆるチェスの Knight で、チェスを知っている方には説明不要でしょう。
チェスを知らない方のためにも、Knight の利きを確認しておきます。
![](https://assets.st-note.com/img/1643798332194-fonZwErPu3.png)
55の地点にいるのが桂馬だったら43か63の地点の2方向にしか利きがありません。
しかし、Knight は上図に示す赤枠の8方向に利きがあります。
これを踏まえて問題を解いてみましょう。
![](https://assets.st-note.com/img/1643721894018-vWzWx1HHiG.png)
受方の玉は3枚の攻方の騎に囲まれているので、玉の逃げ道を確認してみます。
22の地点は受方の飛が退路を封鎖していて、23・32の地点は攻方11騎が利いています。
34・43の地点は攻方55騎が、42・44の地点は攻方63騎が利いています。
従って、玉は24の地点にのみ逃げることができます。
初手45騎と打てれば詰め上がりですが、あいにく45の地点は歩がいて打てません。
初手の正解は24銀で、これに同飛と応じます。
![](https://assets.st-note.com/img/1643722285008-h1hI6jLDM5.png)
24の地点への退路が封鎖されて、新たに22の地点への逃げ道ができてしまいました。
状況はあまり変わっていないようですが、実は3手目41騎と打てば詰め上がりです。
![](https://assets.st-note.com/img/1643722521565-Wr3YlBA39O.png)
攻方41騎が受方33玉に王手をかけながら、22の地点にも利いているのを確認してください。
(2) Orphan
【 Orphan 】(谺)
フェアリーチェスの Orphan。本来は利きを持たないが、敵駒に取りを掛けられると、その駒の利きを持つ。
[ 補足 ]
・複数の駒から取りを掛けられると、それらを合成した利きになる。
・敵 Orphan から利きを写すこともできる。利きの転写は再帰的で、利きが増えた結果、更に多くの Orphan を巻き込み、相互に利きを増幅させることも可能。
・中立駒は中立駒を取れるので、中立谺はそれに取りを掛けている中立駒の利きを持つことが可能。更に現手番側の駒でも取れるので、味方の駒で取れる場合は、その利きを持つことも可能。
![](https://assets.st-note.com/img/1643723057786-RHy9jTT3wA.png)
[ 正解手順 ] 22銀不成、同谺、31飛不成 迄3手。
33の地点にいる「谺」と書かれた駒がフェアリー駒の Orphan です。
駒の説明に補足が沢山書かれていてややこしいですが、
・本来は利きを持たない
・敵駒に取りを掛けられると、その駒の利きを持つ
という2点をまずは理解してください。
問題図では初手31飛成とすれば1手で詰みそうです。
しかし、33の地点にいる Orphan は龍の利きに入って取りを掛けられているために、Orphan が龍の利きになっています。
![](https://assets.st-note.com/img/1643723122462-eBdcuFi7Ft.png)
従って、31飛成には同谺と王手を解除する手段あって、詰め上がりにはなっていません。
そこで、初手は22銀不成とするのが正解です。
![](https://assets.st-note.com/img/1643723364437-SVxuhLd2oF.png)
銀を成らないで33にいる Orphan に取りを掛けることで、Orphan は飛車の利きに加えて銀の利きを持つようになります。
これで2手目同谺が可能になります。
代えて1手目22銀成とすると、33にいる Orphan には飛車からの取りしか掛かっていないために、Orphan は22に動くことができません。
王手を解除するには2手目同金とするしかありません。
![](https://assets.st-note.com/img/1643723852700-eZaJm03aJl.png)
![](https://assets.st-note.com/img/1643723998192-t5S4lJ7Ydx.png)
ここから22飛不成、11玉、12金(or21金)で詰め上がりになりますが、詰ますのに5手かかってしまい不正解です。
正解手順に話を戻します。
初手から22銀不成、同谺と進めた局面で、3手目31飛不成とすれば詰め上がりです。
![](https://assets.st-note.com/img/1643724172288-wBqufhZbNE.png)
![](https://assets.st-note.com/img/1643724282312-TDz82Zh8mK.png)
代えて3手目31飛成とすると、22の地点にいる Orphan に取りが掛かってしまいます。
これでは4手目同谺と王手を解除する手段があって、詰め上がりになりません。
(3) Lion
【 Lion 】(鬣)
フェアリーチェスの Lion。 クィーンの利きの方向にある駒を1つ跳び越えその先の任意のマスに着地する。着地点に敵駒があれば取れる。
![](https://assets.st-note.com/img/1643783828556-W91A4To0Om.png)
【 受先 】
受方から指し始める。
[ 補足 ]
・手数の偶奇やルールから判別できる場合は省略されることもある。
[ 正解手順 ]
a) 66銀、98Q 迄2手。
b) 56銀、93Q 迄2手。
46・48の地点にある「Q」と書かれた駒がフェアリー駒の Queen です。
いわゆるチェスのQueenです。
フェアリー駒の Lion の話をする前に、Queen の利きを確認しておきます。
Queen は飛車と角を合わせた利きを持ちます。
![](https://assets.st-note.com/img/1643798840773-0YixWBSUON.png)
つまり、問題図で攻方48Qを動かそうと思ったら、93Qや98Qなどと動かせます。
問題図では受方の持駒がなく、手番は受方です。
もし手番が攻方だったら1手で詰みます。
手番が攻方の場合、正解は初手93Qです。
![](https://assets.st-note.com/img/1643785081913-LeGcThQeqR.png)
合駒をして王手を解除しようにも受方には持駒がなく、玉を逃げることもできないのでこの局面で詰め上がりです。
受方46Qの利きが受方55銀によって遮られていることにも注目してください。
もし受方46Qの利きが遮られていなければ、2手目73Qと移動合で受ける余地があって詰め上がりになっていません。
実際には受方の手番なので、受方が初手で上手くパスのような手を指せれば、2手目93Qで詰め上がります。
あいにく上手くパスする手はないので、別の手を模索します。
初手の正解は66銀で、受方46Qの横利きを遮ります。
これで2手目98Qと移動先を変えれば詰め上がりです。
![](https://assets.st-note.com/img/1643785553809-xsbR07jpKN.png)
次に、問題図に書いてある「b)46Q→鬣」について説明します。
![](https://assets.st-note.com/img/1643785815526-IyKBDVuq4t.png)
「鬣」と書かれた駒がフェアリー駒の Lion です。
「b)46Q→鬣」はかなり省略された記述なのでもっと丁寧に書くと、
a) 本図
b) 受方46Qを受方46鬣に置き換えた図
となります。
「a 図と b 図の両方について協力詰2手を解いてください」という意味です。
このような問題設定のことをツイン(Twin)と呼びます。
今 a 図を解いたので、次は b 図を解いてみます。
![](https://assets.st-note.com/img/1643786159134-rAwcj2GGZo.png)
Lion が利きを持つには、Queen の利きの方向にある駒を1つ跳び越える必要があります。
![](https://assets.st-note.com/img/1643791542049-7mRuOZLUry.png)
55の地点にいる Lion から91の方向を見てみたとき、73の地点に敵あるいは味方の駒があったとします。
このとき Lion は73の地点を跳び越えた先である82や91の地点に利きを持ちます。
また、55の地点にいる Lion から15の方向を見てみたとき、45と35の地点に敵あるいは味方の駒があったとします。
Lion は2枚の駒を跳び越えることができないので、25や15には利きを持ちません。
但し、45の地点にいる駒を跳び越えることはできるので、35の地点には利きがある状態です。
35の地点にいるのが敵駒なら、その地点に移動して駒を取れるということです。
さて、a 図と同様に b 図でも手番が攻方だと仮定して考えてみます。
初手93Qとするとどうなるでしょうか。
![](https://assets.st-note.com/img/1643799507399-rAlJ24WnA6.png)
a 図と異なり46の地点にいるのは Lion なので、受方55銀を跳び越えて2手目73鬣と移動合で王手を解除することができ、詰め上がりになっていません。
b 図において手番が攻方の場合、正解は初手98Qとなります。
![](https://assets.st-note.com/img/1643799438104-hGiGwzkdJ8.png)
跳び越える駒がないので、2手目76鬣と移動合をすることはできません。
実際には受方の手番なので、受方が初手で上手くパスのような手を指せれば、2手目98Qで詰め上がります。
a 図と同様に上手くパスする手はないので、別の手を模索します。
初手の正解は56銀です。
![](https://assets.st-note.com/img/1643799873752-H3th75ptTN.png)
2手目98Qとすると、受方56銀を跳び越えて3手目76鬣と移動合をされて王手を解除されるので、詰め上がりにはなっていません。
そこで2手目93Qと移動先を変えて詰め上がりです。
![](https://assets.st-note.com/img/1643800097015-UWbu1S3W4b.png)
受方の銀が動いて跳び越える駒がなくなったので、3手目73鬣と移動合をすることはできません。
(4) Equihopper
【 Equihopper 】(E)
フェアリーチェスの Equihopper。任意の方向に駒を1枚跳び越して、その線上で等距離の地点に着地する。線上に余計な駒が挟まっている場合、跳ぶことはできない。
Equihopper は標準駒と比べるとかなり特殊な駒です。
私が例題を作るのに悩んでいたところ、あつお氏とウマノコ氏が易しい例題を提供してくださいました。
両氏の例題を見ながら Equihopper の性質を理解していきましょう。
例題1 あつお 作
![](https://assets.st-note.com/img/1643769879103-39Qp2d1Mud.png)
[ 正解手順 ] 23金 迄1手。
25・35の地点にいる「E」と書かれた駒がフェアリー駒の Equihopper です。
敵味方問わず任意の駒を介して利きを持ちます。
35の地点にいる Equihopper で王手をかけるためには、どこに金を打てばよいでしょうか。
正解は23金です。
![](https://assets.st-note.com/img/1643770514160-4tcjPwgVO3.png)
これで詰め上がりなのですが、分かるでしょうか。
受方11玉と攻方35Eを結ぶ線分の真ん中である23の地点に金が置かれることで、攻方35Eから受方11玉に対して王手がかかります。
2手目12玉や22玉と逃げようとしても、攻方23金が利いていてできません。
2手目21玉と逃げるのはどうでしょう。
攻方25Eが攻方23金を介して21の地点に利いているのが分かるでしょうか。
従って、2手目21玉では王手が解除できていないので、1手目23金迄で詰め上がりとなるわけです。
例題2 ウマノコ 作
![](https://assets.st-note.com/img/1643811761723-ZKVAhJiWA0.png)
[ 正解手順 ] 97E 迄1手。
次の例題です。
どこに Equihopper を打てば1手で詰むでしょうか。
12玉・21玉・22玉は二枚の馬が利いていてできず、玉は動けない状態です。
Equihopper を打って受方11玉に王手をかけるには、1手目15Eと97Eの2通りがあります。
1手目15Eは攻方13馬を介して、1手目97Eは攻方54馬を介して王手がかかります。
![](https://assets.st-note.com/img/1643773459063-5PROre2Oym.png)
![](https://assets.st-note.com/img/1643773477149-FdzrzSYmZG.png)
どちらかが不正解なのですが、分かるでしょうか。
実は1手目15Eは詰め上がりになっていません。
「線上に余計な余計な駒が挟まっている場合、跳ぶことはできない」
という説明文を思い出してください。
1手目15Eは12や14の地点に駒を打てば王手を解除できるのです。
![](https://assets.st-note.com/img/1643773801795-fwvsb8RBAk.png)
1手目97Eが詰め上がりになるわけですが、1手目15Eとの違いは何でしょうか。
![](https://assets.st-note.com/img/1643773948852-Ok498TMJdp.png)
受方11玉と攻方97Eを結ぶ線分上には54の地点を除いて駒を打てません。
例えば、2手目87歩は受方11玉と攻方97Eの間に置いたように見えますが、よく見てみると線分上にはありません。
![](https://assets.st-note.com/img/1643774279542-JXEQOie22h.png)
受方11玉と攻方97Eを結ぶ線分上で合法的に駒を打てる地点は54だけですが、そこには攻方馬が既にいます。
よく分からない方は、11と97のマスの中心を結ぶ線分を実際に引いてみるとよいでしょう。
線分は87や65などのマスを通りはしますが、マスの中心を通るのは54の地点だけだというのが分かるでしょう。
従って、1手目97Eに対しては王手が解除できず、詰め上がりとなります。
例題3
![](https://assets.st-note.com/img/1643775210120-qxvsMEft4P.png)
[ 正解手順 ] 35E、21飛、23銀 迄3手。
Equihopper の性質が理解できたところで、協力詰3手を解いてみましょう。
初手の正解は35Eです。
![](https://assets.st-note.com/img/1643781194226-YauiwMrTVU.png)
受方35飛を介して王手がかかりました。
王手を解除するのに2手目12玉・21玉・22玉と逃げる手はありますが、どれも3手で詰みそうにありません。
王手を解除する別の手段があり、正解は2手目21飛です。
![](https://assets.st-note.com/img/1643781476739-rr8tuPg4fy.png)
攻方35Eは受方11玉に対して、受方23飛を介して王手をかけていました。
その飛車が別の地点に移動すれば、王手を解除できます。
これで3手目23銀と打てば、再度王手がかかり詰め上がりです。
![](https://assets.st-note.com/img/1643781815101-rkr25tZexx.png)
攻方35Eが攻方23銀を介して王手をかけています。
玉を逃げようにも12・22の地点には攻方23銀が利いていて、21の地点には受方の飛がいて逃げれません。
4手目23同飛としても王手を解除できていません。
![](https://assets.st-note.com/img/1643782040406-x8zR2pOrh6.png)
攻方23銀は取られたものの、23の地点には代わりに受方の飛がいる状態になります。
つまり、攻方35Eは受方23飛を介して王手をかけている状態で、王手を解除できていないのです。
従って、3手目23銀迄で詰め上がりです。