めいのぼやき38 Pin
バーチャル詰将棋作家の駒井めいです。
今回は「Pin(ピン)」と呼ばれる詰将棋用語を取り上げたいと思います。
1.Pinとは?
「Pin(ピン)」は元々チェス用語です。
【 第1図 】
e8に黒のキング、e5に黒のルーク、e1に白のルークが配置されています。
このとき黒のルークはf5やd5には動くことができません。
黒のルークがf5やd5に動けば、白のルークでチェックがかかってしまいます。
黒のルークは動きが制限されている状態だということです。
このように駒が釘付けにされた状態のことを「Pin」といいます。
※本記事で扱っているPinは、正確には「Absolute pin(絶対ピン)」です。「Relative pin(相対ピン)」など他のタイプも存在します。詰将棋やチェス・プロブレムでPinといえば、基本的にAbsolute pinを指します。
将棋の局面でPinを再現してみましょう。
【 第2図 】
51に後手の玉、55に後手の飛車、59に先手の飛車が配置されています。
第1図と同じ原理で、55飛は45や65に動くことができません。
55飛はPinされているということです。
2.Pinの成立条件
Pinの仕組みについて詳しく考えていきます。
Pinの状態を成立させるためには下記の3つの駒が必要です。
① 玉
② 線駒(龍・馬・飛・角・香)
③ Pinされる駒
第2図でいうと、①は51玉、②は59飛、③は55飛です。
この3駒が直線かつ連続的に並んでいるときにPinが成立します。
どういうことなのか解説していきます。
第2図から51玉が41に動いた局面を考えます。
【 第3図 】
55飛はPinされているでしょうか?
55飛はどう動いても後手の玉に王手がかかりません。
この局面はPinになっていないのです。
第2図から59飛が49に動いた局面を考えます。
【 第4図 】
55飛はPinされているでしょうか?
やはり55飛はどう動いても後手の玉に王手がかかりません。
この局面もPinになっていないのです。
「①玉」「②線駒」「③Pinされる駒」の三駒が直線的に並んでいなければPinは成立しません。
第2図から後手に53歩を追加で配置した局面を考えます。
【 第5図 】
先程の三駒は直線的に並んでいます。
55にいる後手の飛車はPinされているでしょうか?
55飛はどう動いても後手の玉に王手がかかりません。
53歩が59飛の利きを遮っていて、これもPinになっていないのです。
「①玉」「②線駒」「③Pinされる駒」の三駒の間に別の駒(先手駒or後手駒)が挟まっているとPinは成立しません。
3.Pinの生成過程
次に詰将棋の手順中にPinを成立させることを考えていきます。
先に述べたPinの成立条件を踏まえると、下記の2パターンに分類されます。
(1) Pinを成立させる三駒のうち最後の一つが直線上に入る。
(2) Pinの成立を邪魔している駒を直線上から外す。
3.1 Pinを成立させる三駒のうち最後の一つが直線上に入る
「Pinを成立させる三駒のうち最後の一つが直線上に入る」というパターンから見ていきましょう。
【 第6図 1手詰 】
< 正解手順 >
31飛成 迄1手。
出典:田中至作 ハウツウ詰将棋第3集 1984年12月
11玉に対して21金がPinされる予定の駒です。
あとは31~91のどこかに飛車あるいは龍が設置されればPinが成立します。
正解は『 31飛成 』です。
これで21金はPinされるので合利かずの詰みになります。
【 第7図 3手詰 】
< 正解手順 >
11桂成、同玉、22香成 迄3手。
31龍があって21飛がPinされる予定の駒です。
あとは12玉を11まで呼べればPinが成立します。
正解は『 11桂成、同玉、22香成 』です。
ここまで見て気付いた方も多いと思いますが、いわゆる「一間龍」はPinを利用した手筋です。
Pinに相当する用語が将棋にはなかったので、チェス用語を拝借しているという経緯です。
3.2 Pinの成立を邪魔している駒を直線上から外す
「Pinの成立を邪魔している駒を直線上から外す」というパターンも見ていきます。
【 第8図 3手詰 】
< 正解手順 >
23桂、同桂、22銀 迄3手。
31桂がいなければ21銀がPinされます。
31桂を直線上から外す手が必要です。
正解は『 23桂、同桂、22銀 』です。
【 第9図 1手詰 】
< 正解手順 >
31龍 迄1手。
先程は玉方の駒がPinの成立を邪魔していました。
今度は攻方の駒がPinの成立を邪魔しています。
33龍がいなければ22銀がPinされます。
33龍を直線上から外す手が必要です。
正解は『 31龍 』です。
【 第10図 3手詰 】
< 正解手順 >
1) 36桂、同馬、44龍 迄3手。
2) 36桂、同龍、44龍 迄3手。
最後はPinの発展形です。
24玉と57角の間に玉方の駒が二枚(35馬・46龍)挟まっています。
初手は『 36桂 』です。
『 同馬 』なら46龍がPinされ、『 同龍 』なら35馬がPinされ、最後は『 44龍 』で詰め上がりです。
一方の駒が直線上から外れれば、もう一方の駒がPinされる構造のことを「Half-pin」といいます。
これはチェス・プロブレムの用語で、詰将棋ではそれほど浸透していません。
これまでPinを扱った詰将棋作品は数多く作られてきました。
しかし、Pinはまだまだ発展性のあるテーマです。
今後どのような作品が生まれるか楽しみです。