見出し画像

新人発掘作品展 解答発表

バーチャル詰将棋作家の駒井めいです。

詰将棋の創作初級者による作品展を開催しています。
出題を2021年9月11日に行いまして、今回は解答発表と解説です。

詰将棋作家・上谷直希さんより各作品に対するコメントをいただきましたので、併せて掲載いたします。
上谷さんは伝統ルールとフェアリールールの両方で実績のある方なので、とても勉強になると思います。

また、9月24日に将棋系VTuber・電子れいずさんによる出題作品の鑑賞配信がYouTubeで行われましたので、そちらのアーカイブも併せてご覧ください。

1.伝統ルール部門

① アクシス

アクシス_5手詰

81桂成、同玉、73桂、91玉、81金 迄5手。

【 作者コメント 】
 数字の0の詰将棋です。

【 解説 】
 初形で数字の「0」を表した曲詰。新人を対象にした作品展で曲詰とは洒落ている。初形で玉方81桂がいなければ初手81金迄で詰む。そこで初手81桂成と桂で桂を取り、2手目同玉に3手目73桂と再び桂を設置する。4手目91玉に5手目81金とすれば、詰め上がりも「0」になっている。本作は立体曲詰なのだ。
 シンプルな構造で狙いを上手く表現している。玉方92銀・攻方93香は代えて玉方93歩などとすれば駒が一枚減って作意と同手順が成立することからも、無理矢理に曲詰にしようとした感は否めない。しかし、飾り駒なく配置を行っている点や、曲詰に挑戦した点を高く評価したい。

【 上谷コメント 】
 口→口の立体曲詰ですね。役割を持たない配置(飾り駒)が無いように気を配るのは当然なのかもしれませんが、大切なことです。

② antilles

antilles_7手詰

73飛成、同玉、85桂、72玉、82桂成、(イ)同金、71金 迄7手。
(イ) 同玉は73金迄。61玉は52金迄。

【 作者コメント 】
 最終手に3通りの変化を入れてみました。

【 解説 】
 初手は85金や95金と打つ手が見えるが、93玉と逃げられて詰まない。初手は73飛成といきなり大駒を捨てるのが正解。2手目93玉なら85桂、92玉、82桂成迄。82成桂に龍で紐が付くおかげだ。従って、初手73飛成には2手目同玉と取るしかない。3手目85桂と盤上の桂を活用する。盤上の飛車を捨ててしまったので、4手目74玉や84玉と上部に逃げる手は気になるが、跳ねた桂が上手く利いていて75金迄。4手目は72玉が最善で、5手目82桂成と香の利きを通しながら焦点に桂を成捨てる。6手目は同金・同玉・61玉と応手は3通りあるが、7手目はいずれも金打ち迄。
 6手目の変同が作者の狙いの一つだが、最終手はそれぞれ尻金(6手目同金~7手目71金)・肩金(6手目同玉~7手目73金)・肩金(6手目61玉~7手目52金)と金の打ち場所の意味付けがダブっている。これをもっと切り分けられれば、より狙いが際立っただろう。紛れ・変化の処理も含めてしっかりと考えられた作りになっているところに感心する。大駒捨てや焦点捨てを取り入れて基本に忠実に作りつつも、高い完成度で仕上げている。

【 上谷コメント 】
 手の組み合わせが見えにくくて結構苦戦しました。桂跳ねが印象的。

③ 楓

楓_7手詰

25金、同玉、37桂、35玉、24角、同玉、25金 迄7手。

【 作者コメント 】
 ❇︎ もっとも ラクな つめしょうぎ。
 ❇︎ 1ダメージしか あたえられない。

【 解説 】
 実戦局面のような初形だ。玉の逃げ道を広げてしまうので、玉方14歩や34歩には触りにくい。初手は25金と捨てて、同玉に37桂と跳ねる。これで25の地点に利きができた。4手目16玉は26金迄、4手目24玉は25金迄。4手目の最善は35玉だ。攻方46歩が取られそうだが、5手目24角と歩頭に角を捨てるのが好手。6手目同歩・同玉・44玉のどれで応じても、7手目は金打ち迄で詰め上がり。
 実戦的な配置から5手目の歩頭への角捨てが光った作品。

【 上谷コメント 】
 実戦からの取材のような初形。敵の逃げたいところに先着する5手目は、習いある手筋ながら好手です。

④ のぷりん

7手詰_のぷりん

93金、91玉、92香、同銀、71龍、81歩、82金 迄7手。

【 作者コメント 】
 人が作ったものを解くから入りましたが、自分でもやってみようと思い7月後半から創作を始めました。自力で余詰を見つけるのを難しく感じています。3~7手を中心にゆっくりのびのびやっていきます。

【 解説 】
 駒数が少ない解図欲をそそる初形。金は止めに残しておきたいところだが、初手は93金と捨てる。2手目同玉なら84龍、92玉、93香迄なので、2手目は91玉が最善。この金捨ては取れない。3手目92香に4手目同銀と進めば、玉の腹が開いたので5手目71龍から一間龍で詰め上がり。6手目の合駒は非限定で、何を合駒しても作意と同様に詰む。
 合駒が非限定なのは気になるが、意表の捨て駒に加え、初手で形式的に捨てた金が詰め上がりで活躍するところに十分な面白さがある。

【 上谷コメント 】
 屈指の美形ですね。初形からの順算でしょうか。駒捨ての手を入れつつ及第点ではありますが収束はもう1枚ぐらい捌くかあるいは合駒を限定させたいですね。次作にも期待です。

⑤ NZ

NZ_7手詰

22角、同龍、23桂、同龍、22銀成、同玉、11角 迄7手。

【 作者コメント 】
 取れる場所に呼んだ駒を取らず手筋で逃がすのが狙いです。

【 解説 】
 4×4のコンパクトな初形。初手23桂は同龍なら22銀成以下、作意と同様の手順で詰む。しかし、初手23桂に同香、22銀成、同玉、11角、21玉と進むと、かつて香がいた空間に逃げられて詰まない。玉方21香に動かれるのが厄介だが、この対処として初手22角と焦点へ捨て駒するのが有効だ。2手目同銀や同香は龍の利きが遮られるので12銀成迄。2手目は同龍が最善。これで3手目23桂を実行すれば4手目同龍とするしかなくなる。5手目22銀成に6手目同玉と両王手で玉を呼びながら、攻方14香の利きを通せば、7手目11角で詰め上がり。
 2手目同龍迄の局面では3手目22銀成と龍を取ることができるが、4手目同玉に5手目11角とすると6手目23玉と上部に逃げられて詰まない。初形の玉方32龍は退路封鎖のために23の地点に呼びたいが、玉方21香の利きを遮るために22の地点を経由させるという回りくどさが本作の面白いところ。このロジックにより、取れる龍を取らずにあえて龍を移動させてから空いた地点に銀を移動させる(4手目23同龍~5手目22銀成)、いわゆる「取らず手筋」が成立している。作意手順を並べただけでは分からない不思議な手順だ。取らず手筋をコンパクトな初形かつ少ない駒数で表現しているところも見事。

【 上谷コメント 】
 焦点の捨て駒。無駄のない詰め上がりも好印象です。

⑥ 菜々河れい

菜々河れい_9手詰

41角、33玉、24銀成、同玉、14角成、33玉、
32金、43玉、42角成 迄9手。

【 作者コメント 】
 駒を捨ててみたくて作りました!銀成か銀不成かが限定出来なかったのは心残りですが、今後精進してもっと綺麗な作品を作れるようになりたいです。

【 解説 】
 「玉は下段に落とせ」と言わんばかりに初手は41角。2手目同玉なら42金迄だが、2手目33玉と上部にかわすのが最善。3手目24銀成と捨てるのは、玉を更に上部へと誘導するだけにやりにくいが、攻方15歩を拠点として5手目14角成を実現するための手。6手目33玉と2手目と同じ地点に逃げられるが、7手目32金が実行できる。以下、8手目43玉に9手目42角成で詰め上がり。3手目24銀成に代えて32金とするのは、打った金が角の利きを遮ってしまって23玉とかわされて詰まない。
 最初の5手がスリリングで面白く、打った角が後に活用されているところも良い。狙いが引き立つように表現の仕方が追求されているところに光るものを感じる。変化もしっかりと作られており、十分に読みの入った作品だ。

【 上谷コメント 】
 3手目が好手ですね。あとは大駒のリーチで玉を仕留めることになります。この構図で収束に大駒を捨てるのは難しいかもしれませんね。

⑦ MJS

MJS_9手詰

71飛、52玉、42銀成、同玉、33角成、52玉、
51飛成、63玉、53龍 迄9手。

【 作者コメント 】
 昔初めて詰将棋を作った時はあくまでそれっぽいものどまりでしたが、今回は改めて詰将棋作成のルールを理解すると共に添削を受けて、なんとか「詰将棋」として仕上げることができました。

【 解説 】
 初手は71飛の限定打で、近付けて打たなければならない理由は後に判明する。2手目52玉の一手に、3手目42銀成と捨てる。4手目63玉なら74飛成迄。初手で飛車を近付けて打ったのは、この変化に備えたものだ。4手目は同玉が最善で、5手目33角成に6手目52玉と進めば、2手目52玉迄の局面と比較して33の駒が銀から馬に変わった。これで7手目51飛成と実行すれば、馬の利きで龍は取れず、43の地点にも逃げられなくなっている。8手目63玉に9手目53龍と、初手で打った飛車を存分に活用して詰め上がり。攻方75歩の配置は変化だけでなく作意にも役立っていて効率が良い。
 明快な意味付けで飛車の打ち場所を限定していて、その意味が変化手順に隠れているのが上手い。

【 上谷コメント 】
 ぬるぬると逃げられそうな玉を仕留める浮遊感のある手順。ただ詰め上がりで特に大駒が遊ぶのは何となく気持ち悪いので、次作では清涼詰を目指してみるのもいいかもしれません。

⑧ ケムティ

ケムティ_9手詰

55飛、35金、25金、同金、同飛、14玉、
15飛、同玉、25金 迄9手。

【 作者コメント 】
 合駒を動かすことを目標に創作しました。シンプルな手順ですが、楽しんでいただけたなら幸いです。

【 解説 】
 初手は55飛といきなり歩頭に捨てる目の覚めるような一手。2手目同歩は25金迄なので、この飛車は取れない。2手目はどこかに合駒をするしかない。2手目25歩と平凡に受けると、同飛以下7手駒余り。他に有効な受けが無さそうだが、35に中合をする手がある。2手目35歩に同飛なら、攻方44角の利きが遮断されて26玉から逃げることができる。しかし、よく見てみると2手目35歩迄の局面は25金迄で詰んでいる。2手目は35金や35飛といった25の地点に利かす中合が候補に浮かんでくる。2手目35飛は同飛以下詰むので、2手目は35金が最善。3手目は26に玉を逃がさない25金。4手目同金に5手目同飛と進むと、先程は取れなかった中合を25に移動させて取ることができた。35金合はピンされた状態だが、飛車の利きに沿った方向への自由度がまだ残っている。ピンされた駒が線駒(龍・馬・飛・角・香)の利きに沿って動くことを詰将棋では「ペレ」と呼び、チェス・プロブレムの「Pelle move」に由来している。6手目14玉に7手目15飛とここまで活躍してきた飛車を捨てれば、8手目同玉迄の局面は初形から攻方58飛を消去しただけの局面になっている。初形の攻方58飛は邪魔駒だったのだ。
 いわゆる「中合動かし」に分類されるものだが、難易度の高い狙いをシンプルな構造で実現している。それが邪魔駒の原形消去で表現されているところが面白い。

【 上谷コメント 】
 高級手筋をシンプルにまとめており好印象です。しっかり詰将棋を勉強してくださっているのでしょう。だからこそ少しレベル高めの話をすると、この筋はどうしても前例と比較してしまいます。一番有名なのは明石六郎氏作でしょうか。

明石六郎作 近代将棋 1980年6月 塚田賞新人賞受賞

画像16

21金、同飛、12歩成、同玉、14香、13角、同香成、同玉、
24角、14玉、35角、34金、24金、同金、同飛、13玉、
14飛、22玉、12飛成、同玉、13金 迄21手。

中合の意味付けが異なっておりますが収束の仕方はほぼ一緒です。
 詰将棋を発表するたびに前例を指摘されることは決して面白いものではありません。でも、自作を未来の人に大切にしてもらうためには、今の我々が昔の作品を大切にしないといけません。完全に新しいものをつくるのは非常に難しいですがいつかきっとできるはずですよ。

⑨ きのうさぎ

きのうさぎ_9手詰

23金、11玉、22銀、同角、同金、同玉、
23銀、31玉、22角 迄9手。

【 作者コメント 】
 初めての詰将棋作成でした。今回の問題は偶然できたもので狙ってできたものではないです。ポイントは初手で23に何を打つかということです。普通は金を残したくなりそうですがそれでは詰まないということです。

【 解説 】
 金は詰ますのに使い勝手の良い駒なので、止めに残しておきたいところ。初手23銀は11玉なら22銀打以下作意と似た手順で詰むが、初手23銀に13玉とかわされると玉方31角の利きで案外詰まない。13玉に44銀不成は43角以下逃れで、13玉に32銀不成は14玉以下逃れ。初手の正解は23金で、3手目22銀で清算すれば、22の地点に利いていた玉方31角を盤上から消すことができた。これで7手目23銀とすれば、8手目13玉には9手目22角迄で詰む。作意は8手目31玉だが、やはり9手目22角と打って詰め上がり。
 初手23銀を紛れに23金を先に実行し、22への利きを無くしてから遅れて23銀を実行するというのが本作の手順構成。金が一枚しかない状況で、先に金を消費してしまうのはやりにくさがある。駒の清算で狙いを成立させているところはやや荒削りではあるが、明快な論理で実現しているとも言える。今後の作品にも期待したい。

【 上谷コメント 】
 清算順に踏み込みにくく非常に苦労しました。狙いは金銀の使い分けでしょうか。

⑩ かいりゅーになりたい

かいりゅーになりたい_9手詰

23飛成、同桂、11角、12玉、21銀不成、11玉、
12銀打、22玉、32金 迄9手。

【 作者コメント 】
 創作テーマは、3×3、角捨ての退路封鎖の筋を入れる、逆算式です。紛れや変化をもっと増やせたらよかったのですが、今の実力では難しかったです。それら技術を身に付けていけるように、今後も訓練をがんばりたいと思います!

【 解説 】
 初形は3×3の範囲にぎっしり駒が詰まった石垣図式。攻方33飛が浮き駒で、これを玉に取られて上部に脱出されては詰まない。初手23銀成は同桂、11角、12玉、32飛成、同銀以下逃れ。初手の正解は23飛成で、浮き駒の飛車を思い切って捨てる。2手目は同桂の一手だが、やはり33玉と上部に脱出される問題は残っている。そこで3手目11角と桂が跳ねてできた空間に角を打つ。4手目12玉に5手目21銀不成とすれば、2手目で跳ねた桂が退路を封鎖していて、5手目11玉とするしかなく銀打以下詰む。
 詰め上がりを見てみると還元玉、つまり玉が初形と同じ22の地点に戻っている。また、4手目12玉迄の局面で配置されている攻方11角はすぐに取られてしまうのだが、これが無いと5手目21銀不成に6手目22玉以下が同手数駒余らずになるので、変同を消すのにさりげなく役立っている。逆算で作ったとのことだが、丁寧に作られている印象を受ける。初形3×3で手順も3×3の範囲でコンパクトに収まっているところも注目すべき点。

【 上谷コメント 】
 初形からの創作でしょうか。収束はそつなくまとまっています。駒取りが多くなってしまうのは仕方ないか。

⑪ 奏井もか

奏井もか_9手詰

25桂、12玉、32飛成、同馬、13角成、21玉、
33桂不成、同馬、31桂成 迄9手。

【 作者コメント 】
 本当はもう少し工夫したかったのですが、色々いじってるうちにこの図に落ち着きました。

【 解説 】
 初形は攻方35飛を動かして開き王手ができる形。例えば、初手32飛成は24香と受けてくれれば25桂迄だが、初手32飛成には46銀と角を取られて詰まない。開き王手がダメなら初手は持ち駒の桂で王手するしかない。初手の正解は25桂。2手目24玉は33飛成以下、2手目22玉は31飛成以下詰む。2手目の最善は12玉で、3手目は32飛成と馬が利いているところに飛車を捨てる。2手目の応手によって飛車の成る地点が異なっているところが面白い。4手目22香は13角成迄なので、4手目は同馬とするしかない。飛車を移動させたことで角の利きが通ったのを活かして5手目は13角成。6手目21玉の一手に、7手目33桂不成と初手で打った桂を跳ねて更に馬に働きかける。8手目同馬に9手目31桂成と控えていた桂を成って詰め上がり。
 飛車を豪快に捨てて、打った桂も捌ける爽快な手順。二枚の桂が不成から成と連続で跳ねるのもちょっとしたアクセントになっている。

【 上谷コメント 】
 華麗な捨て駒が登場してgoodです。この初手はたしかに入るのであれば入れたいところ、ただやはり紛れが強力かつ変化処理も必要なので大変です。初手を省けば45銀、17金を省けるとなると3手目からの出題もアリでしょうか(初手の紛れが狙いであればすみません)。

⑫ くりそら

9手詰_くりそら

32銀、12玉、34角成、11玉、23桂、12玉、
31桂成、11玉、21銀成 迄9手。

【 作者コメント 】
 栗空団団長は、反省して詰将棋を作ったようです。

【 解説 】
 盤上の攻方駒は43角のみなので、初手は持ち駒の銀か桂で王手をするしかない。初手35桂は14玉なら23銀迄だが、初手35桂に12玉と逃げられると飛車が利いていて詰まない。初手の正解は32銀。2手目14玉は26桂迄なので、2手目は12玉が最善。3手目34角成に4手目23香は、同馬、11玉、12香迄。角・桂は盤上に出払っているし、2筋には既に歩が配置されているので、何を合駒しても同様の手順で詰む。従って、4手目は11玉が最善で、5手目23桂は馬の利きを遮断する手。6手目12玉に7手目11桂成は、同玉とされて単に持ち駒の桂を消費しただけになってしまう。7手目31桂成と玉から遠ざかるように成ってみると、21の地点に成桂の利きができるため、8手目11玉に9手目21銀成として詰め上がり。
 4手目23桂の逃れ筋を消すために桂を品切れにしている点は気になるが、桂合のときの変化処理は簡単ではなさそうだ。初形に配置されている玉方41飛は最終手余詰を消すと共に、初手35桂以下の余詰も消していて、配置はよく練られているのが分かる。ポイントは5手目23桂~7手目31桂成で、桂を打って馬の利きを一旦遮断してから玉から遠ざかるように桂を成る手順が面白い。初手で打った銀も最後に活躍して、攻方駒がよく機能する気持ちの良い作品。
 ちなみに、9月24日に行われたYouTube配信を機に作者が改良した図がある。それも併せて紹介しよう。

11手詰_くりそら_改良図

32銀、12玉、34馬、23桂、同馬、11玉、12馬、同玉、
24桂、11玉、23桂 迄11手。

桂合を作意にした手順で、とても上手い改良だ。

【 上谷コメント 】
 頭が丸い駒が多く不思議な感覚。捨駒はありませんがこれはこれで全体の雰囲気とマッチしておりそれほど悪い印象は受けませんでした。ところで桂捨合はどうだろう?と思ったら品切れでした。

2.フェアリールール部門

⑬ keima82

協力詰 7手 題名「飛角の換金」

keima82_協力詰7手

【 協力詰のルール 】
 先後協力して最短手数で、受方の玉を詰める。透かし詰は詰みとは認められない。
※ 協力詰を初めて解く方は、下記の入門記事をご覧ください。
https://note.com/meikomai_tsume/m/m53fb7de32286

49飛、同角不成、47角、38金、同角、同角不成、39金 迄7手。

【 作者コメント 】
 狙いは、攻めの飛角が消え、持ち駒の金に変わることです。△18飛は歩などにすると2手目飛合いが詰むので、逃げ道制限と合駒制限の配置を兼ねています。2手目金合は7手では詰まないようです。欲を言えば一路右で作りたかったですが、余詰が消せませんでした。通常の詰将棋は何百と作っていますが、フェアリー創作は生まれて初めての新人です。どういった作品が評価を受けるのか全く知らないので、なんとなく形が面白そうな順にしてみました。

【 解説 】
 初形で金を持っていれば39金迄。飛あるいは角の王手で金を合駒させて入手する方針になる。初手は49飛しかない。2手目28玉と攻方の銀を取りながら逃げてしまっては、残り5手で玉は捕まらない。受方は自分の玉が詰まないように抵抗するのではなく、詰むように協力するのがこのルールの特徴。2手目39金と合駒をするのは、同飛、28玉、38飛、29玉、28飛、19玉、29金迄が一例で、詰ますのに計9手かかってしまう。2手目は同角と取ることになるが、成か不成かの選択を迫られる。正解は2手目同角”不成”だが、その理由は最後に判明する。受方の角を退かすことができたので、3手目47角と今度こそ金を入手しに行く。4手目38金に5手目同角と進んで、待望の金が入手できた。6手目28玉は39金、19玉、29金迄で計9手かかってしまうし、6手目同玉はもっと手数がかかる。6手目も同角”不成”と応じるのが正解で、これで7手目39金と打って詰め上がり。2手目あるいは6手目で同角”成”として馬を作ってしまうと、7手目39金に同馬として王手を解除できてしまう。
 本作は攻方の飛角を持ち駒の金に変換する手順。受方の角が不成で往復(スイッチバック)する手も入って、シンプルかつ面白い手順に仕上がっている。

【 上谷コメント 】
 タイトルが大きなヒント。盤上の飛角を犠牲に金1枚を入手します。無駄のない仕上がりで申し分ないですね。

⑭ 鷺宮ローラン

協力自玉詰 8手

鷺宮ローラン_協力自玉詰8手

【 協力自玉詰のルール 】
 先後協力して最短手数で、攻方の玉を詰める。
※ 協力自玉詰を初めて解く方は、下記の入門記事をご覧ください。https://note.com/meikomai_tsume/m/mc97e8905f5a1

37角、28飛、18金、同玉、29銀、27玉、38銀、同飛成 迄8手。

【 作者コメント 】
 初めて自玉詰を作りました。長さの割に平易という感じかと思いますが大目に見て頂ければ…。余詰や被り作などあったらゴメンナサイ。ちなみに初期配置の歩は余詰消しで置いてますが、読みを散らすアクセントになっていれば幸いです。フェアリーむずっ!

【 解説 】
 合駒させた飛車を動かして攻方玉を詰める手順。駒数が少なく、解図欲をそそる初形だ。初手37角に28金と合駒をすると攻方玉に王手がかかる。攻方玉の王手を外しながら受方玉に王手をかけるとなると28同角とするしかなく、これでは受方玉が詰んでしまう。初手37角には攻方玉に王手がかからない28飛と応じるが、最後に38に飛車を成って攻方玉を詰ます手を見ている。攻方玉を詰ますために攻方玉に王手がかからないように進めるのがポイント。3手目18金~5手目29銀と玉を誘導すると、7手目38銀に8手目同飛成迄で攻方玉が詰む。龍に紐を付けるために受方玉を都合の良い地点に移動させるということだ。
 角の打ち場所を限定するための玉方46歩は気になるが、手順の限定の仕方は伝統ルールと勝手がやや違うため、作者が苦心した点だと思われる。7手目38銀と8手目同飛成は、いずれも打った駒が活用される手で気持ちがいい。

【 上谷コメント 】
 協力自玉詰に興味を持っていただいてありがとうございます。詰め上がりを予想しながら解答しました。協力系の詰将棋は一切の非限定を許さないので46歩みたいな駒を置かなければならなくなるのですが、逆にこの歩配置のせいで初手が暗示されてしまうのが残念でしょうか。いっそのことこの角打ちを限定にできないでしょうか。このままの構図では難しいですが、下の図のように構図を回してみます。

協力自玉詰 6手

画像17

27角、36飛、34銀不成、同玉、16角、同飛 迄6手。

⑮ kisy

協力自玉詰 8手

kisy_協力自玉詰8手

【 協力自玉詰のルール 】
 先後協力して最短手数で、攻方の玉を詰める。

22飛、23香、同飛成、24飛、29香、26香、14龍、同飛 迄8手。

【 作者コメント 】
 以前詰将棋展示会にて投稿した普通詰将棋の狙いを協力自玉詰に置き換えて創ってみました。29香が狙いである相手の線駒の利きを通すための最遠打です。本当は双裸玉で創りたかったのですが、21桂を無くすと初手の非限定が、21桂を無くして25玉→24玉だと6手目香合の位置が非限定、24玉17玉だと主眼の5手目の位置が非限定になるので、どうしても一枚配置せざるを得ません。この一枚を置いたことで価値が大きく下がってしまいましたが、何も投稿しないよりはいいので投稿することにしました。

【 解説 】
 盤面3枚に持ち駒1枚と簡素な初形。攻方の駒は持ち駒の飛車だけなので、初手は飛車を打つしかない。打ち場所はいくつもあるが、初手の正解は22飛。2手目は23Xと23の地点に何かを合駒して、3手目23同飛成と龍を作る。4手目24飛と連続で合駒をすれば、次に14龍、同飛で攻方玉に飛車の王手がかかる形が出来上がる。しかし、5手目14龍とすぐに実行しても、攻方玉は2筋に逃げられるために詰んでいない。攻方玉が2筋に逃げるのを防ぐ工夫が必要だ。受方に26香と打たせることができれば、一気に詰み形になる。そのためには5手目27~29香と線駒で王手して、合駒として26香を打たせればいい。5手目の香打を実行するために、2手目は23”香”と合駒の種類が決まる。この辺りの連続した合駒の成立ロジックは見事だ。さて、問題は5手目の香の打ち場所だ。選択肢は27・28・29と三箇所だが、もちろん正解は一つ。5手目の正解は”29”香。これで7手目14龍に8手目同飛と進めれば攻方玉が詰め上がる。8手目同飛迄の局面は攻方に持ち駒が無く、攻方に王手を解除する手段がない。5手目28香としてしまうと、8手目14同飛のときに29玉と逃げる余地ができてしまう。攻方28香が受方26香の利きを遮ってしまっている。
 作者コメントにある通り、「相手の線駒の利きを通すための最遠打」という狙いは、伝統ルールで過去に作者が発表している(VTuber創作詰将棋展示会, 2021年3月13日)。それを協力自玉詰で表現したのが本作。飛車の打ち場所を限定するための玉方21桂は確かに気になるが、狙いと直接関係する部分ではないので、本作の価値は十分にあると思う。仕組みを理解した上でもう一度鑑賞してほしい作品。

【 上谷コメント 】
 kisy手筋のfairy版の表現。狙いの表現としては不純物なく素晴らしいですね。ただ本作もそうなのですが21の配置が22飛を暗示しているのが辛いところ。ツイートを拝見する限り作者も悩まれていたようです。自分もちょっと考えてみたのですが、たしかにこの構図のままでは完全限定の手順は難しそうなのでこんな図にしてみました。

協力自玉詰 10手

画像18

15香、23玉、29香、28飛、25香、24飛、13香成、同玉、
14歩、同飛 迄10手。

この手順はやや左真樹氏作を意識しています。

左真樹作 詰将棋パラダイス 1979年11月
ばか自殺詰 8手

画像19

12歩、21玉、29香、27飛、11歩成、同玉、17香、同飛成 迄8手。

※ 駒井めいの補足:「ばか自殺詰」は「協力自玉詰」と同じ意味です。

3.総評

【 上谷直希 】
 まず最初に世にたくさんある趣味のなかで詰将棋を選んでいただいただけでなく創作までしてくださったことに感謝です。楽しい解答の時間でした。なかなか短評で褒められず、時にはいちゃもんまでつけてしまって申し訳無い限りです。ただ作品というものは「もっと良くなるんじゃないか」と思って試行錯誤しないと良くなってくれません。なにより、良い作品のほうが人々の記憶に長く残ります。そんなことを考えて、短評では「こうすればいいんじゃないか」というコメントを多めにしてみました。お節介だったらごめんなさい。最初から上手い人なんていません。これからどんどんつくって、どんどん上手くなってくれる作家さんがいらっしゃったら嬉しいです。

【 駒井めい 】
 投稿いただいた作者を始め、記事を閲覧してくださった方々、宣伝にご協力いただいた方々に、この場を借りてお礼申し上げます。また、YouTube配信に協力してくださった電子れいずさん、作品に対する丁寧なコメントをくださった上谷直希さんにも心より感謝申し上げます。多くの方の多大なご協力があり、無事に終えることができました。詰将棋を発表できる場はネットも含めると多様化してきていますが、いずれにせよ「自分の作品を発表する」という最初の一歩はとても勇気の要ることです。当作品展が小さなきっかけになったならば、主催者の私としては大変嬉しく思います。

4.展示作の引用・転載

展示作を引用する場合の許可は不要ですが、全日本詰将棋連盟の指針を守っていただくようお願いします。

転載に該当する場合は、事前に作者から許可を得てください。
但し、YouTubeのライブ配信・動画に使用する場合に限っては、主催者(駒井めい @MeiKomai_Tsume)の許可を得ればよいこととします。