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【漫画原作アイデア】『土御門見聞録』シナリオ・設定まとめ

1タイトル
『土御門見聞録』

2ジャンル
日常コメディ

3ターゲット読者層
10〜20代男女

4あらすじ
世界中を旅しているブロガー兼フォトグラファーの女性・土御門光月は、ある時長年付き合ってきた男性に突然別れを告げられる。その後居酒屋で友人に愚痴をこぼしていた光月は、謎の人物からあるメッセージを受け取る。それは、疎遠になっていた光月の両親からの伝言だった。両親に指定された場所に行くことになった光月。そこで彼女を待っていたのは、アンダーソンと名乗る謎の青年だった。アンダーソンは、かつて土御門家の陰陽師たちが世界中に隠した宝物を探してくれと光月に依頼する。アンダーソンによれば、その宝物を全て集めると、土御門家がかつて日本列島に施した最強の結界を復活させることができるという。こうして、陰陽師の血を引く両親に代わり、土御門家が隠した宝物を集める旅に出ることになった光月。しかし彼女は、行く先々でさまざまなトラブルに巻き込まれていくことになる。

5登場人物
■土御門光月(つちみかど みつき)
陰陽師の血を引く土御門家の出身。家督を継ぐのが嫌で、学生時代に家出をし、両親とは疎遠になる。ある時、土御門家の使いである謎の青年アンダーソンとの出会いをきっかけに、かつて陰陽師が隠した宝物を求めて、世界中を旅することになる。海外旅行と写真を撮ることが大好き。政治と世界情勢の話が苦手。見た目は美形だが男運が悪く、失恋経験が人より多いことが唯一の自慢。

■アンダーソン
土御門家の使いと名乗る謎の青年。年齢不詳で国籍も不明。中性的で銀髪でオッドアイ。常に愛犬マイケルを連れ歩いている。真面目で礼儀正しいが、少しマヌケ。光月と旅する中でトラブルの原因になることが多い。

■マイケル
アンダーソンがいつも連れ歩いている柴犬。アンダーソンにとっては相棒的存在。頭が良く、行く先々でアンダーソンや光月をサポートする。ささみが大好物で、サーフィンが得意。人間に慣れすぎているため、逆に犬以外の動物を極度に怖がる。

6脚本
第一話

・平安時代の頃、安倍晴明という名の実在した最強の陰陽師がいた・晴明と彼の子孫である土御門家は、かつて日本を守護するための最強の結界をいくつも張り巡らせていた・その結界は、現在でもレイラインや五芒星といった、目に見える形で確認することができる・しかし現代の日本において、その結界の力が徐々に弱まりつつあった・日本を海外勢力から守るために再び結界の力を取り戻すことができるのは、安倍晴明の血を引いた土御門家の人間だけだった・2024年6月、フランスのパリにあるとあるホテルの一室で、一人の日本人女性がノートパソコンの画面と睨み合っていた・彼女の名前は土御門光月(つちみかど みつき)・彼女はブロガー兼フォトグラファーだった・その日は、今年の夏に開催されるパリオリンピックの取材のために来ていた・ホテルの窓からはセーヌ川を一望できた・オリンピックの開会式はこの川で行われるらしい・最近フランスでは議会総選挙が行われたようだが、光月は政治についてはちっとも興味がなかった・光月が本当に知りたいのは、この世界にいくつもある美しい景色や、人類の叡智が詰まった歴史や文化を感じることができる場所についてだけだった・(腐りきった政治家どもの政治ゲームなんて興味ないわ。戦争でも汚職でも勝手にやってろ!)・光月はそう思いながら記事の執筆に集中していた・ホテルの自室で夜中まで仕事に集中していた光月は、スマホのLINEにいくつも通知がきていることにようやく気づいた・相手は光月のボーイフレンドだった・彼とはかれこれ5年以上の付き合いになる・スペインのマドリードにある日本人コミュニティで出会ったのがきっかけだった・彼がこんな夜中に連絡してくるのは結構珍しい・しかし光月は、今は時差の影響で日本では朝の8時になっていることにすぐ気づいた・メッセージは、光月が日本に帰ってきたら二人で会いたいという内容だった・何でも「大事な話」があるらしい・光月は何だか嫌な予感がした・少なくともここでいう大事な話とは、ポジティブな意味では絶対ないだろう・その翌日に光月は日本に帰国した・空港からそのままタクシーで彼との約束場所に向かった・そこには見慣れた気弱そうな男が一人で立っていた・「光月、もう限界だ……別れよう」・(あぁ、やっぱりな)・光月は心の中でそう呟いた・こいつが前から私のことを鬱陶しく思っていたことは知っていた・光月はブロガー兼フォトグラファーとして、一年中世界各国を飛び回って生活している・日本に半年以上留まることは滅多になかった・そんな光月の生活スタイルが、彼にとってはずっと不満だったのだ・実際、付き合い始めてから二人でデートした回数なんて数回程度しかなかった・光月は今の仕事が好きだったし、彼氏に束縛されて日本から出られない窮屈な生活を強いられるくらいなら別れた方がマシだった・「あっそう……じゃあそうしましょ。こっちもあんたがいたせいで動きづらかったから」・光月のその予想外の発言に、彼は一瞬驚いた顔をしたが、すぐに怒った様子で街の喧騒の中に消えていった・その夜、光月は大学時代の友人を誘って、居酒屋で愚痴をこぼしていた・「ハッ、こっちだって好きであんな貧弱男と付き合ってたわけじゃねぇっつーの!」・大学時代の友人は狐目で黒髪の女性で、光月が一緒にいるだけで安心すると思える唯一の存在だった・彼女は光月の性格もよく理解していた・「あんた、昔から男運ないもんねー。っていうか、さっきから呑みすぎじゃない?」・光月は普段はドライな性格だが、今回ばかりは内心ショックだったようだ・「まぁ、確かに5年も付き合ってたんでしょ?そりゃショックよね」・すると光月はジョッキを持ち上げて叫んだ・「ショックなわけらいでしょ!あんなやつと別れてむしろスッキリしたわ!」・そのとき、光月の友人が突然時計を見て言った・「ねぇ、今日はそろそろお開きにしない?私明日実家に帰らなくちゃいけなくて。朝早いからもう家に帰りたいんだよね」・「ふーん、別にいいけど」・そう言いながら、光月の頭に昔の思い出が蘇ってきた・光月の実家は土御門家という由緒正しい家系だった・しかし家の歴史などは光月は全く知らなかった・光月は幼少期から両親と仲が悪かった・光月が大学を卒業した後、病気の父から家督を継ぐように言われた光月は、窮屈な実家から逃れるため東京に出て今の仕事を始めた・光月にとって実家にいた頃の記憶はなるべく思い出したくなかった・そんなことを考えていたら、急に吐き気がしてきた光月・友人に断って急いでトイレに駆け込む・(もうあそこには戻らない……絶対に!)・そう思いながら光月は胃の中身を全て便器に吐き出した・その後、友人に抱えられながら歩いて家に向かう光月・途中で友人と別れ、一人で家に向かう・すると目線の先に、ライトがチカチカ点滅する一本の電柱が立っていた・そのライトの下に謎の人影が立っているのが見えて身震いする光月・光月は関わらないように下を向いて早足でその人影の前を通り過ぎようとした・その時、その人影が一言発した・「6月18日午前6時00分、茨城県の大洗ビーチに一人で来い」・恐怖で目を見開く光月・6月18日は光月の誕生日だった・謎の人影はもう一つ付け加えた・「これは君の父親からのメッセージだ。来るか来ないかは全て君次第だ」・その言葉を聞いて急いで振り返る光月・しかし、そこにいた人影はもうすでに姿を消していた・父親との思い出が再び蘇り、思わず顔をしかめる光月・家に帰った後、光月は先ほどの言葉を思い返していた・6月18日午前6時、茨城県大洗ビーチ・(行くわけないじゃん、そんなところ)・その夜眠りに落ちた光月は、妙な夢を見た・夢の中で光月は、京都の実家で暮らしていた子どもの頃に戻っていた・そこには懐かしき父と母がいた・光月の父はこう言った・「彼は信頼できる。宝物を見つけられるのはお前だけだ。頼んだぞ」・その瞬間に目が覚める光月・「宝物……何のこと?」・夢の中で父が言った言葉の意味が理解できなかった光月・それからしばらく、誕生日に茨城に行くかどうか悩んだが、結局自分の中の好奇心の方が勝っていた・そして6月18日の午前6時・光月は茨城県の大洗ビーチにやって来ていた・まだ朝早いためビーチに人影は誰もいなかった・海に目を向けると、遠くの方に小さなサーファーの影が見えた・しばらくそいつを見ていると、相当な上級者であることが分かった・しかし光月のいる場所からはそいつが男か女かすら分からなかった・すると光月に突然声をかける謎の男が現れた・「上手いでしょ?あいつ、僕の相棒なんですよ」・光月はその男の方を見た・そこには結構若くて中性的な見た目の青年が立っていた・髪は短くて銀髪だった・よく見ると目がオッドアイだった・左目は赤で右目は青・(日本人……じゃない?)・光月はだんだん不安になってきた・もしかしたらこの前自分に父からのメッセージを伝えてきた謎の人影は、実は父とは全く関係がなく、自分は騙されたのではないか?・「疑っているみたいですね」・「!?」・心を読まれたのかと思いさらに警戒心が高まる光月・青年は続けてこう言った・「安心してください。僕はあなたのお父上から直々に依頼されてあなたと会っているのですから」・光月の中で疑問が次々に溢れかえっていた・「父はなぜ私をあなたと会わせたの?あなたは一体何者なの?まさか…ここでお見合いをしようってわけじゃないでしょうね?」」・青年は少し笑ってこう説明した・「えぇ、もちろん違います。私の名前はアンダーソン。あなた方土御門家に代々仕えてきた家系の人間です」・光月はますます疑問に思った・(土御門家に代々仕えてきた?何のこと?)・「あなたも知っての通り、土御門家の祖は平安時代に実在した最強の陰陽師、安倍晴明です」・話の核心に迫りつつあることを感じた光月・「光月さん、お父上があなたに頼みたいことはただ一つです。安倍晴明とその子孫たちが世界中に隠した7つの宝物を集めてください。これは日本の安全保障に関わる重大な仕事です」・7つの宝物……・その時、光月は全て思い出した・幼少期に父に教えられた土御門家の伝承を・(私たちのご先祖さまは、この国のあちこちに結界を張り巡らせた。その結界が破れると日本は滅亡する。結界の力を取り戻すには、ご先祖さまが世界各地に隠した宝物を集めて儀式を行う必要がある。その宝物を見つけられるのは、土御門家の血を引く者だけだ)・「そんな……。私が……」・アンダーソンと名乗る謎の男は最後にこうつけ加えた・「光月さん、あなたがご両親と疎遠になっていることは私も知っています。ですが、あなたのご両親はご病気で国外に出ることができません。あなたは普段から海外に旅に出ることに慣れています。これはあなたにしかできない仕事です。どうか、この国を守るために力を貸してください!」

第二話
・アンダーソンが告げた依頼に衝撃を受ける光月・「ち……ちょっと待って。質問したいことが山程あるんだけど!」・アンダーソンは笑顔で答えた・「分かっています。私が知っていることは全て話しましょう」・光月は、アンダーソンの屈託のない笑顔を見て、自分は過去にこの青年とどこかで会ったことがあるような気がした・その時、それまで一人でサーフィンをしていた人物がビーチに戻ってきた・アンダーソンはそのサーファーを見て一言言った・「あぁ…私の相棒が戻って来ました」・(相棒?)・不思議に思った光月がそのサーファーに目を向けると、それは人間ではなかった・そこには、器用にサーフボードを咥えた一匹の柴犬がこちらに向かってトコトコ歩いてくるのが見えた・「い……犬ぅ〜〜〜〜〜!!!?????」・思わずそう叫んだ光月・「彼の名前はマイケル。僕の相棒であり唯一の家族です。とても賢いんですよ!」・アンダーソンの言葉に納得できないでいる光月・「柴犬なのに『マイケル』?日本犬なのに……?で、何で犬がこんなにサーフィン上手いの?」・アンダーソンはマイケルと共に歩き始めた・「立ち話も何ですから、歩きながら話しましょう」・その日は快晴で、雲一つ見当たらなかった・朝日が街を照らし出し、セミの鳴き声が響き出した・ビーチにはジョギングをしたり愛犬と散歩をしている人の姿がちらほら見え始めた・光月はマイケルを観察していると、リードをつけていないことに気づいた・(は…放し飼い……)・マイケルは決して逃げようとせず、アンダーソンの隣にピタリとついて歩いていた・とりあえず光月は、気になっていることを全てアンダーソンに質問した・「私のご先祖さまが陰陽師であることは何となくは知ってたわ。でも、その陰陽師たちがなぜ世界中に宝物を隠したの?そんな話、学校の歴史の授業では一度も習っていないわ」・アンダーソンは質問に答えた・「学校の教科書に真実の歴史は書かれていないですよ。土御門家がこの国に施した結界のことが世間に知れ渡れば、それを悪い奴らに破られる恐れもありますから」・光月は質問を続けた・「悪い奴らは結界を破って何をしようとしてるの?」・アンダーソンは答えた・「この国の破壊です。日本国内には、金に目がくらんで海外勢力のいいなりになっているバカな政治家が大勢います。そいつらが自分たちの保身のためだけに国と国民の権利を敵に売っているんです」・光月は政治にはあまり詳しくなかったが、アンダーソンの言いたいことはよく理解できた・ここ数年で特にそうだが、これまで政府が隠してきた悪事が最近になって少しずつ表に出始めている・それを陰謀論や都市伝説と呼ぶ者もいるが、光月は世間で一般的に言われている陰謀論や都市伝説が真実であることを知っていた・光月は、仕事でこれまでに30カ国以上を旅してきた・その中には、ヨーロッパのような一見華やかな文化が発展した先進国だけでなく、中東やアフリカにある発展途上国や新興国も含まれている・そこでは、自分たち日本人が普段は決して経験しないような、地獄のような殺し合いや搾取や闇のビジネスが平然と行われていた・できれば光月は世界を旅する中で、美しい地球の景色や荘厳な歴史的建造物だけを見ていたいと思っていた・だが、海外に行くとどうしてもその国の闇の部分が嫌でも目についた・親を失い行き場を無くしたストリートチルドレンや、戦争に巻き込まれて手足を失った若者、貧しい生活に耐えきれなくなって自分の子供を人身売買業者に売ってしまった母親など・光月自身は海外で危険な目に遭った経験はなかったが、世界では今でも争いが絶えず、小さな子供が金目当ての権力者たちに殺され続けるということが実際に起きている・光月は今まで、無意識にそういった世界の闇の部分に目を向けないようにしてきた・しかし心の奥では知っていた・この世界は地獄そのものであることを・「ねぇ、私は何をすればいいの?」・光月の心の中には、いまだにアンダーソンに対する疑いの気持ちが残っていた・本当にこの青年は土御門家と関係があるのだろうか?・だがその一方で、こいつは悪い奴じゃないと、光月の直感が告げていた・世界中を旅する中で、光月には自然に危険を回避する能力が身についていた・目の前にいる人間がどんな境遇を持っててどんな価値観や性格をしているかまでは分からない・しかし少なくとも、人を平気で殺すような人間かどうかくらいは、そいつの目を見れば一発で分かる・(こいつは違う。人を平気で殺すようなクソ野郎ではない)・光月はアンダーソンに対してそう感じていた・アンダーソンは先程の光月の質問に答えた・「さっきも触れた通り、あなたのご先祖さまたちは世界中に7つの宝物を隠しました。それは簡単に言えば、日本に張られた結界の力をアップデートするための鍵のようなものです。最後に陰陽師たちによって結界のアップデートが行われたのが江戸時代末期の頃です。それからすでに150年以上が経っています。現在の世界情勢的に見ても、そろそろ結界を強化しないと、この国は海外勢力からの侵略で滅んでしまうでしょう」・光月は黙って話を聞き続けた・「7つの宝物がどこに隠されたかを記録した文書は、全て第二次世界大戦の際に焼失しました。ですが、あなたのお父上が口伝で宝物の隠し場所について子どもの頃に教わっていたのです」・「え?」・その言葉に反応する光月・アンダーソンは続けて言った・「あなたのお父上は、その口伝を光月さんにも受け継いでほしかったのです。口伝を伝えていいのは土御門家の跡取りだけですし、あなたのお父上には他に子どもがいなかった」・その話を聞いて、急に罪悪感が湧いてくる光月・だが、光月はなかなかその気持ちを認めることができなかった・(政治がどうとか国を守るとか、あの頃の私にとってはそんなことどうでも良かった。何よ、今更……!ろくに親子らしいことしてこなかったくせに、メッセージを送ってきたと思ったら国を救えですって……ふざけるな!)・アンダーソンは再び話し続けた・「私はあなたのお父上から、口伝の内容をメモしたノートを預かっています。その内容を知ることが許されているのは、土御門家の血を引くあなただけです。私はあくまであなたのボディガードです。あなたの仕事は、そのノートの内容をもとに宝物まで辿り着き、それらを全て日本に持ち帰ることです。結界を強化するための儀式は私たちが行います」・光月は質問した・「私たちって……あなたは一体何者なの?そもそも何人なの?日本人には見えないけど」・アンダーソンは再び笑顔になってこう言った・「私の正体については、今は教えることはできません。ですが、いずれあなたにも全てを伝えようと思っています」・光月はアンダーソンの美しいオッドアイの瞳を観察した・嘘をついているようには見えなかった・しかし、光月はアンダーソンの顔を見つめれば見つめるほど、過去にどこかで会ったことがあるという思いが強くなった・光月は最後の質問をした・「だいたい仕事の概要は分かったわ。最後に聞かせて。何で父は私とあなたをここで会わせたの?別に東京でも良かったんじゃない?」・アンダーソンは答えた・「特に深い理由はないですよ。私が今日たまたま、ここから40キロ先にある鹿島神宮の神主に用があったから、待ち合わせ場所をここにしてもらったんです」・光月はようやく納得した・「そう……」・それから光月は、アンダーソンから今後の予定についての説明を受け、東京に帰還した・後日、光月の住んでいるアパートの郵便ポストにボロボロのノートが投げ込まれていた・おそらくこれが、アンダーソンが父から預かっていたという口伝をまとめたノートだろう・光月がそのノートの内容を解読し、最初の目的地が分かり次第、アンダーソンと共に宝物の回収に向かうという手筈だった・光月はしばらくブログの記事を書くことをやめ、ノートの解読に専念した・ノートを開くと、そこには見たことない文字でびっしり文章が書かれていた・その文字は英語でもフランス語でも中国語でもなかった・しかし、光月はその文字に何となく見覚えがあった・光月はその謎の文字をインターネットで画像検索にかけてみた・すると衝撃的なことが分かった・その文字はなんと、シュメールで使われていた楔形文字だった・人類が最初に発明した古代文字が、なぜ父のノートに書かれているのだろうか?・その理由が全く分からなかった光月・陰陽師とシュメールが関係しているという話は聞いたことがなかった・しかし光月は先日のアンダーソンの言葉を思い出した・(学校の教科書に真実の歴史は書かれていないですよ)・彼の言葉が正しいとしたら、政府は国民に嘘をついていることになる・(そりゃそうか。政府が隠し事をしているなんて今に始まったことじゃない)・そう考えを改めた光月は、海外の企業が開発した楔形文字翻訳アプリで、ノートの内容の解読を始めた・そしてそれから数日後、光月はアンダーソンに最初の目的地を告げた・父のノートに記されていた最初の目的地はオーストリアだった・オーストリア行きの航空券はアンダーソンが予約してくれた・空港でアンダーソンと合流した光月は、アンダーソンの持ち物を見て驚いた・「え……?まさか、犬も連れてくつもり?」・アンダーソンの手には、彼の相棒である柴犬マイケルが入ったキャリーケースが握られていた・「その、なんて言うか……邪魔じゃない?」・光月のその言葉に憤慨するアンダーソン・「何てことを言うんですか!?彼は私の家族であり相棒であり、私と一心同体なんですよ?家に置いていくわけないでしょ!!?」・アンダーソンが感情的になったところを初めて見た光月は、少し体から緊張感が抜けた気がした・それから1時間後、光月とアンダーソンが乗った飛行機が大空に飛び立った・アンダーソンの相棒マイケルは機内に連れてこれないため、手荷物として貨物室に一旦預け入れした・空の旅には慣れていた光月だったが、珍しく心の中には不安が広がっていた・父のノートを解読したはいいものの、それが本当に正しいかどうかは行ってみないと分からない・もし目的地が間違っていたら、この旅はただの無駄足で終わってしまう・その時、隣の席からアンダーソンが話しかけてきた・「心配しないでください、光月さん。たとえ目的地が間違っていたとしても、誰もあなたを責めたりはしません。結界の力が失われるまでまだ時間は十分にあります。気長に行きましょう。」・その言葉を聞いて気休め程度にはなった光月だった・「ありがとう…」・成田空港を飛び立って38時間後、ようやくオーストリアの首都ウィーンに到着した・アンダーソンが金をケチったせいで、乗り継ぎ便で行くことになったため、余計時間がかかっていた・空港に着いてから、預けた荷物を受け取るためベルトコンベアの前で待っていた光月とアンダーソン・数十分後、アンダーソンが悲痛な叫び声を上げた・「ロスバゲだぁ〜〜〜〜〜!!!??」(※ロスバゲ→空港での乗り継ぎの際に何らかのトラブルで自分が預けた荷物が空港に置き去りにされること)・その様子を見て思わず失笑する光月・「ハハッ……」(大丈夫なの?この旅…)・「無事でいてくれ、マイケル〜〜!!!」・アンダーソンの慟哭が空港内に響き渡った

第三話
・オーストリアに着く数時間前、機内にて・「ところで光月さん、私が聞くのもなんですが、お父上のノートには何が書かれていたんですか?」・アンダーソンの質問に光月が答える・「シュメール語で文章がびっしり書かれていたわ。予言のような気味の悪い文章がね」・驚くアンダーソン・「し…シュメール語!?どういうことですか?何で土御門家の口伝をシュメール語で記録したんですか?」・光月は呆れ顔で反応した・「あなたに分からないのに私がそんなこと知ってるわけないじゃない」・アンダーソンはさらに疑問を口にした・「ですが…そもそもシュメールの時代にオーストリアなんて国は存在しない。シュメール語でオーストリアという単語を表現するのは無理じゃないんですか?」・光月は説明した・「だから言ったでしょ?予言って。直接オーストリアって言葉が書いてあったわけじゃない。遠回しにオーストリアを示す文章が書かれていたのを見つけたのよ。おそらく他の目的地も同じような感じで書かれていると思うけど…」・アンダーソンは好奇心が勝ってさらに質問した・「それで、そのオーストリアを示す予言って、具体的に何が書いてあったんですか?」・すると急に光月の顔色が悪くなった・「それが……こう書いてあったのよ。『北の大地に広がりし王の血脈。その源泉を辿れ』って」・アンダーソンはその言葉を聞いてすぐにピンときた・「まさかそれって……ハプスブルク家のことですか?」・頷く光月・「えぇ、おそらく」・かつてハプスブルク家は、ヨーロッパ各地の王族や貴族と婚姻関係を結び勢力を拡大した・現在でもハンガリーやチェコ、スロバキアなど、ヨーロッパの多くの国はハプスブルク家の影響を強く受けている・そのハプスブルク家の本拠地がオーストリアだった・しかし、土御門家の陰陽師たちはなぜ宝物をオーストリアに隠したのだろうか?・そもそも日本の陰陽師とヨーロッパのハプスブルク家が歴史的にどう関係しているのだろうか?・光月の脳内には疑問が溢れ返っていた・オーストリアに入国した二人は、荷物を置くためアンダーソンが予約したホテルに向かった・一通り手続きを終えた頃、ホテルのスタッフがアンダーソンに電話がきたと教えてくれた・電話の相手は空港の職員からだった・どうやら乗り継ぎの際に離れ離れになった愛犬マイケルの行方が分かったようだ・アンダーソンが電話に出ている間、光月は父のノートを見返していた・そのノートには宝物が隠された国について以外にも、具体的にその国のどこに隠されているかという詳細な情報もシュメール語で書かれていた・しかしそれは、例によって予言という形で書かれていた・『第一の鍵は、帰るべき場所にあり』・(は?ヒントそれだけ?国を救ってほしいんならもっと分かりやすく書けっつーの!)・その時、アンダーソンが微妙な顔つきで光月に近づいてきた・「マイケルがどこにいるか分かったの?」・するとアンダーソンが開き直ったような笑顔で答えた・「インド!」・目が点になる光月・「インド??」・「3日後くらいにはホテルに帰ってくるみたいですよ」・光月は疑問を口にした・「え?それってヤバくない?3日も飲まず食わずってことでしょ?」・しかしアンダーソンは平然と答えた・「大丈夫ですよ。マイケルは特別な訓練を受けた犬ですから。3日間くらい飲まず食わずでも余裕で生きていけます!」・ますます目の前の男のことが分からなくなる光月・「あ…あんたら本当に何者なの?」・その後二人は、予言の意味が分からなかったため、とりあえずハプスブルク家にまつわる場所を順番に周ることにした・まず二人は地下鉄に乗り、ウィーン市内にあるホーフブルクに向かった・そこは歴史的にハプスブルク家の居城として使われていた場所だった・予言にあった『帰るべき場所』という言葉が、そのままハプスブルク家の家を示していると考えたからだった・光月は以前に一度だけ仕事でオーストリアを訪れたことがあったが、ホーフブルクには行ったことがなかった・いつの間にか光月の気持ちは、不安よりも好奇心やワクワクが上回っていた・やはり知らない土地を旅するのは楽しい・ホーフブルクに着いたらスマホで目一杯写真を撮ろう・一人でそう妄想していた光月に突然アンダーソンが小声で話しかけてきた・「光月さん、絶対に私の側から離れないでください」・「え?何で?」・アンダーソンは鋭い目つきで光月の背後にいるフードを被った黒人の男を睨んでいた・「あの男、さっきからずっと光月さんのリュックを見つめています。おそらくスリでもしようとしてるんでしょう」・光月は平気な様子で答えた・「大丈夫よ。貴重品はリュックの一番底にしまってあるし、お金はちゃんといくつかの財布に分散して入れてるし」・しかしアンダーソンは警戒心を緩めなかった・「いえ、それでも油断はできません。ああいった輩は大抵、声をかけるとかして相手の気が逸れている間にもう一人の仲間がこっそり背後から…」・その時、アンダーソンの背後でフードを被った黒人とは全く別の男が財布を盗んでいた・振り返るアンダーソン・「あっ」・男はアンダーソンの財布を持って駅に降りて行った・「いや、あんたが盗まれてどうすんのーーー!!!??思いっきりスリの手口に引っかかってんじゃん!!」・思わず大声で突っ込む光月・二人は電車を降りて犯人を追った・オーストリアの駅には改札口がないため、二人が駅の外に出た頃には犯人はもうすでに遠くに逃げた後だった・「見失ったか……!」・アンダーソンに再び突っ込む光月・「『見失ったか』じゃねーよ!!アンタの金が無くなったらどうしようもないじゃん!旅の費用全部負担するって言ったのあんたでしょ!?一応私もクレジットカードくらいは持ってきたけど!」・アンダーソンはいつもの爽やかな笑顔で言った・「大丈夫ですよ!こんな時のために、財布に発信機をつけておきましたから」・「本当に大丈夫か?こいつ……」・再び不安になってきた光月・「私のスマホは無事なんで、これを使って犯人を追います。光月さんは先にホーフブルクに向かっていてください」・そう言ってアンダーソンは走り去って行った・「いや、そうは言っても……ここがどこだかもよく分かんないんだけど」・光月はとりあえずスマホで現在地を調べてそこがどこかを理解した・Googleマップを頼りに駅から5分ほど歩くと、目の前にはとてつもなく広い広場の奥に、美しいハプスブルク家の王宮がそびえ立っていた・「私たち、いつの間にか目的地に辿り着いてたのね」・そう呟いた光月は、急にテンションが上がって王宮観光を始めた・もちろん一番重要な目的は、陰陽師たちが隠した宝物を見つけることだった・それから昼過ぎまで王宮内を見て回ったが、宝物どころかハプスブルク家と陰陽師の関係も全く分からないままだった・正午を過ぎてそろそろ腹ごしらえがしたいと思った頃、アンダーソンがようやく財布を取り戻して帰ってきた・「何か見つかりましたか?」・「なーんにも」・それを聞いたアンダーソンは少し残念そうだった・すると突然光月がニンマリと笑った・「でもその代わり、父のノートに書かれていた暗号を解読できたかもしれない」・驚くアンダーソン・「本当ですか!?」・ドヤ顔で解説する光月・「いい?暗号にはシュメール語で『第一の鍵は、帰るべき場所にあり』と書いてあったでしょ?普通『帰るべき場所』って言ったらその人の家とかを思い浮かぶわよね。だから私たちはハプスブルク家の居城であるここに来た。でも、この『帰るべき場所』ってのが生きている肉体ではなく、魂が帰るべき場所のことを言っているとしたら?」・アンダーソンは目を見開いた・「もしかしてそれって……」・光月も目を輝かせた・「そう……お墓よ!」・その頃、ホーフブルクから少し離れた場所では、ある一人の白人男性の死体が観光客によって発見されていた・その男の眉間には、拳銃で撃ち抜かれた跡が残っていた・その男は、先程アンダーソンの財布を盗んだスリと同じ人物だった

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