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ジェニー・オデル(2021)『何もしない』の読書感想文

ジェニー・オデルの『何もしない』を読んだ。翻訳は竹内要江さんで、2021年10月に早川書房より出版された本である。

本書の詳細は、早川書房のnoteにもあるので、わたしは簡単に感想を述べたい。

この本はエッセイではなくて、思想書のようなものだ。スーザン・ソンタグの本をちゃんと読めたことはないのだが、似ているような気がする。

第2章の紀元前四世紀のエピクロスの庭園学派と1960年代のアメリカのコミューン運動をつなげて、世俗から離れることについての考察が興味深かった。コミューンが崩壊していく過程はちょっと怖いぐらいだ。結局、彼らは資本主義や市場と手を切ることができない。そして、ある人たちは労働生産性を高めるために管理体制を敷き、ある人たちは男女平等にはほど遠い性別役割分業が徹底されていくなどディストピア小説のようであった。

そして、行動分析学者で有名なスキナーが『ウォールデン2』という小説を書いていたことを初めて知った。オデルの引用を読むと、ディストピア小説なのだが、1960年代に爆発的に売れたというから驚きだ。

facebookをやめられる人は、もともと社会資本のある人だ、という指摘にも納得である。そういえば、以前読んだ本に「マイケル・ルイスは、facebookをやっていない」と書かれていたが、そりゃそうだ。彼は有名人で、いろんな人が彼と連絡を取りたがるベストセラー作家なのだから、ちまちまとした人脈作りなどする必要がない。日本は、そもそもfacebookのユーザーが少ないので、それほどパワーはないのだが、アメリカでは違うのだ。

本書の最後には日本の福岡正信の「何もしない農法(自然農法)」が紹介されている。

オデルの「何もしない」は、本当に何もしていないわけではない。彼女はローズガーデンを散歩し、バードウォッチングをする。写真を撮ってインスタにあげたり、「いいね」を集めるために奔走したりはしない、というだけである。

日常生活にまで、生産性や効率性が重視され、改善しろ、と自己啓発書は言う。しかし、迫ってくる山火事、気候変動はそれらによってもたらされたのではないか、という問いは見当違いだとは思えない。

この本は速読ではなく、ゆっくり読めばいいのだと思う。著者の思考の過程をたどっていくことを楽しむのだ。そして、このような圧倒的な教養に憧れてしまった。アメリカのアカデミアというのは、やっぱりすごいなと思う。


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