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#読書感想文 岸本聡子(2022)『私がつかんだコモンと民主主義 日本人女性移民、ヨーロッパのNGOで働く』

東京都の杉並区長である岸本聡子の『私がつかんだコモンと民主主義 日本人女性移民、ヨーロッパのNGOで働く』 を読んだ。

2022年7月に晶文社から出された単行本である。

本書では、岸本聡子が政治家になる前の活動家時代のことを知ることができる。彼女は1974年生まれの、いわゆるロスジェネ。彼女の5人きょうだいはみなロスジェネで、正社員になれたのは弟さん一人だけだと言う(p.72)。何とも過酷だが、今の売り手市場で複数の内定をもらって会社を選べるZ世代が、パワハラモラハラの中、非正規で働いてきたロスジェネをSNSで嘲笑しているのを見ると、冗談ではなく殴りたい気持ちになる。わたしはロスジェネ当事者ではないが、その直後の世代なので、努力不足とかそのような次元ではなかったことぐらいはわかっている。久々に「勝ち組」と「負け組」(p.73)という言葉も目にしたが、日本という国自体が負けているような気配すらあるので、言葉自体が陳腐化してしまった感がある。

20代の頃は子どもを持つことは自己決定権を失うリスクだと考え、自分の生きる価値とは無縁の日本企業の仕事は興味がないから眠くなるしミスが増える(p.45)と率直に述べているところは、清々しいぐらい正直だと思う。自分をキラキラに見せようという気が全然なくて信用できる。

彼女は水を民間企業に任せてはいけないという運動をしてきた人でもあるので、そこも信頼するに値する点である。

とりとめのない章もある。ただ、それも著者の率直さによるものなのかもしれない。きれいにまとめなくてもいいこと、まとめられないことも、世の中にはたくさんある。

しがらみや利権がなく、新自由主義を疑う人が首長になっていくことで世の中は少しずつ変わっていくだろうし、そうであってほしいと思う。ただ、足を引っ張る人に嫌気がさすこともあるだろうし、バーンアウトのおそれもあるので、区民が区長をサポートしてあげてほしいとも思う。

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