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ロルフ・ドベリ(2019)『Think clearly シンク・クリアリー』の読書感想文

『Think clearly(シンク・クリアリー)最新の学術研究から導いた、よりよい人生を送るための思考法』を読んだ。著者は、スイス人の実業家のロルフ・ドベリで、翻訳は安原実津さんだ。2019年4月にサンマーク出版より出された「考え方」に関する本だ。

自己啓発書というのは、難しい。好きだとおおっぴらに宣言するのは、憚られる。自分が無教養であることを公言しているみたいだし、意識高い系だと思われてしまうかもしれない、という不安もある。そのうえ、サンマーク出版は、スピリチュアル系の本もたくさん出しており、ちょっと好きだと言いづらい出版社でもある。

わたしにとって、自己啓発書やビジネス本は、ポテトチップスに似ている。そればかり食べるわけではないのだが、ときどき、無性に食べたくなり、いつのまに一袋食べ終えている、といったものだ。プルーストの『失われた時を求めて』がフレンチフルコースだとしたら、ビジネス本はジャンクフードだ。人間にはジャンクフードしか食べられない時期もある。手軽だし、安価だし、ちょっと元気になれる。

ただ、食わず嫌いをしないほうがいいかもしれない。人生のそのときどきで響く本は違うのだから。

本書の著者のドベリさんの面白いところは、特別な人間なんかどこにもいない、と言っているところだ。

たとえば、世界有数の投資家のウォーレン・バフェットは、とてつもない額の金融資産を持っているが、朝起きたら顔を洗わなければならないし、歯も磨かなければならない。プライベートジェットは持っているが、日々の暮らしは、普通の人々とほとんど変わらない(p.119)と述べている。確かにそうだ。彼の好きな飲み物は、コカ・コーラだという。わたしが購入するのもそれほど難しくない炭酸飲料だ。

最後の3つの章「50 世界を変えるという幻想を捨てよう」「51 自分の人生に集中しよう」「52 内なる成功を目指そう」が心に響いた。

人々は、ネルソン・マンデラ、スティーブ・ジョブズ、ビル・ゲイツ、ガンジー、アインシュタイン、グーテンベルクなどを偉大な人物だと思っている。しかし、彼らがいなければ、ほかの人が世界を変えていた、という研究があるらしい。『進化は万能である』という本から引用しているのだが、確かにそうなのかもしれない。

彼は自分の死後、自分自身も、自分の著作も、すべての人が忘れてしまうだろう、と述べている。だからこそ、生きているうちに平静な心を持ち、自分の日々の暮らしを充実させることに注力すべきだ、という。

社会的な成功、社会の中における自分は確かに大事なポイントかもしれないが、日々の暮らしを犠牲にしてまで無理をする必要はない。あなたがCEOだったとしても、周囲の人々はすぐに忘れる。極論ではあるが、誰も他人に興味などないのかもしれない。だから、自分が満足するように日々を過ごしたほうがいいのだ、という著者の考えは、よくわかる。

今、革新的で素晴らしい仕事も、数年後にはなくなる可能性がある。アプリのコマーシャルを見るたび「この会社は、今、収支トントンで稼げればいいのだろう。3年後には、このアプリや会社は、おそらくない」と、最近よく思う。

結局、わたしたちは時代の流れの中にいて、それに抗うことは難しい。でも、生理的な欲求「きちんと寝て、きちんと食べる」という欲求を満たしてやれば、そこそこ生活の質はよくなるのではないかと個人的には思っている。この二つを疎かにせず、生きていきたいと思う。

他人と比較しても、何かが良くなるわけでもない。そこから、正のエネルギーで頑張れる人ばかりではない。ダメになってしまう人も多い。自分の心の平穏、平静には何が必要なのか、何をすれば満足感を得られるのかを考えていったほうが、ジタバタせずに済む気がしている。

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