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#映画感想文309『ゴースト・トロピック』(2019)

映画『ゴースト・トロピック(原題:Ghost Tropic)』(2019)を映画館で観てきた。

監督・脚本はバス・ドゥボス、出演はサーディア・ベンタイブ。

2019年製作、84分、ベルギー映画。

ハディージャは清掃作業員として働いており、おそらく移民である。終電で寝過ごしてしまった彼女は終点まで行ってしまい、帰る手立てがなく、途方に暮れている。

ATMでお金を下ろそうとしても、残金がそもそもない。娘に留守電を残すが、折り返しの電話はかかってこない。

彼女は自宅のある方向に向かって歩き始める。そこで人々の善意に触れたり、彼女が他者に善意を向けたりもする。

ちょっとしたおとぎ話のようでもあるが、彼女がこの生活に至るまでには長い道のりがあり、これからも楽ではない暮らしが続いていくと思わせる。

生活のため、娘のために頑張って働いてきたのだけれど、自宅近くまでたどり着いた彼女が見かけた娘は、ボーイフレンドに夢中で、母親のことを気にかけてすらいなかったことがわかる。夫に先立たれ、シングルマザーとして頑張って家政婦や清掃員として働き、生活を成り立たせてきたというのに。

男の子を待っている間、娘はスマホで自分の髪型をチェックするだけで、母親の着信も留守電も無視。そのことに母親はショックを受け、悲しみ、自宅にたどりつく。

ラストシーンは娘が友達と海に遊びに来て、青い海の前で、長い髪をなびかせる。そこにあるのは「若さ」であり、自分の恋に夢中で、親の世代の苦難など知ったこっちゃない。その海の向こうから、両親は命からがらやって来たのかもしれないが、若い娘はそれを気に留めることすらない。自分が移民の二世であることすら忘れている。しかし、その残酷さが「若さ」だとも言える。

この女性の冒険の先には、親離れ、子離れがあり、小津安二郎の『東京物語』の親子のような悲哀が描かれていた。

地味な画面がずっと続くのだが、それこそが観客の生活と彼女の世界が地続きであることを示しているようでもあった。

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