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映画『エルヴィス』(2021)の感想

映画『エルヴィス(原題:Elvis)』を映画館で観てきた。

監督はバズ・ラーマン、主演はオースティン・バトラー、トム・ハンクスである。2022年製作のアメリカ映画である。

わたしはエルビス・プレスリーの曲をちゃんとは聞いたことがないし、ファンというわけでもないので、正直159分はちょっと長かった。

幼少期に父親が刑務所に入ったことで、貧困に陥った母子が、黒人たちの住む地域に引っ越す。少年のエルヴィスは、黒人の文化や音楽を吸収していく。教会音楽やR&B、南部のカントリーソングからロック・ミュージックとなる過程も描かれ、アメリカ南部の土着的な背景を持った人物だったことがわかる。

この作品のエルヴィスには、あまり葛藤がない。屈託がなく素直な人物なのだ。それは母子密着ともいえる母子関係で、愛情には飢えていなかったことが要因なのかもしれない。

見ているうちに、エルヴィスのプロデューサーであった大佐こと、トム・パーカーの生い立ちや内面をもっと知りたいと思ってしまった。ショービジネス界で辣腕をふるい、エルヴィスを洗脳し、搾取し、焚きつけ、仕事をさせ、決して自由にはさせなかった彼がどんな人物だったのか。

「政治や宗教のことを考えるな。発言するな。私たちには関係ない」というパーカーの台詞を聞いて、どこかの国の芸能界と同じ構造だなと思った。

今年(2022年)、グループ活動を休止すると発表したBTSのメンバーは「人として成熟できない」とか「これまで面白いと思って仕事をしたことがない」とぶっちゃけており、大変驚いた。日本のアイドルグループは口が裂けても言わないだろう。日本のアイドルは、役割を果たしたいという律義さが見え隠れする。でも、それが本心でないことぐらいはファンだってわかっている。だからこそ、BTSの本音はよいと思う。人生は長いのだ。アイドル時代にのみ輝くより、長い人生をそこそこに、心身ともに健康を維持し、アベレージ高めに生きられたほうがよい。

エルヴィスは42歳で亡くなっており、どう考えても短命だ。死因は、過労と薬物中毒(オーバードーズ)として描かれていた。

時代の寵児となり、喝采を浴びて生きると、ドーパミンが過剰に出ているのが普通という脳になってしまうのだろう。それはそれで怖いことだ。わたしたちは、日々の地味な暮らしをしている時間の方がずっと長い。それを後回しにし始めると、生活が破綻してしまう。

そして、時代背景は、アレサ・フランクリンの活躍した時代とも通じているのかなと思った。キング牧師の公民権運動などは、映画『リスペクト』でも描かれていた。

バズ・ラーマン監督はインタビューで「エルヴィスとエミネムは似ているよね」と話しており、そこがアメリカのエンタメ業界にあるダイナミズムであるのだと思うし、漂白しきれない何かがないと、やはり、スターにはなれないのだなと思った。

チップをいただけたら、さらに頑張れそうな気がします(笑)とはいえ、読んでいただけるだけで、ありがたいです。またのご来店をお待ちしております!