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#映画感想文192『MONDAYS このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない』(2022)

映画『MONDAYS このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない』を映画館で観てきた。

監督・脚本が竹林亮、主演は円井わん、ほかにマキタスポーツが出演している。

2022年製作、82分の日本映画である。(タイムループしており、職場の似たようなシーンが続くので体感としては120分だった)

小さな広告代理店に勤める吉川(円井わん)は、大手広告代理店への転職を目指している。この件は同僚たちにも周知の事実であり、その転職したい職場から仕事が振られている。こういうことって、広告代理店ではよくあることなのだろうか。彼女は転職したいという気持ちを利用され、先方から無茶振りをされるも明るい未来のために、と耐えている。

そして、とある月曜日の朝、彼女は後輩二人からタイムループ状態に入っていることを知らされる。後輩たちがくだらない冗談を言っているのだと思い、はじめは憮然としていた彼女も、繰り返される日々を認識し始める。

この映画の場合、タイトルで「タイムループから脱出するために上司に、その状態であることを気づかせることが目的である」とはじめから宣言してしまっているので、上司が原因であることはわかっている。その上司がどのような秘密、問題を抱えているのかをタイムループにハマっていることを自覚した社員たちが謎解きしていく。

SNSでは絶賛の嵐であり、期待値が高すぎたせいか、拍子抜けしてしまった。タイムループもののメッセージは、「今を大事に生きろ」というものが大半で、それは本作にも共通している。

本作で指摘されているのは、似たような日々を送ることの恐ろしさでもあったと思う。昨日と今日があまりに似ていて変化に乏しい。一つ一つの仕事も、じっくり取り組むというよりは、惰性と習慣でこなせてしまうので、何も印象に残らない。

主人公の吉川は、成功したいと切に願っている。でも、それは「ここではないどこか」で達成されるものだと信じて疑わない。確かに場所や環境を変えることも大事なのだが、同時に自分自身が変わらなければ、その変化を持続させることができない。

「今、あなたの周りにいる人たちを大事にしてね」というのは、至極真っ当なメッセージだと思う。(もちろん、いじめられたりしていたら、そんなことを思う必要はない)

別に彼女がないものねだりをしているとは思わない。ただ、彼女が転職したかった会社で見た現実は、新しい地獄であり、あちらの地獄から、こちらの地獄へ移動するだけなのか、ということが判明し、彼女の夢と希望は木っ端微塵に粉砕されてしまう。そうなのだ。夢や憧れの先に、満ち足りた人生が待っているなんて幻想なのだ。中小企業から大手に移ったら、福利厚生がしっかりしていて安定はしているが、個人の裁量はほぼなく、仕事の実感が得られないなんて話はよく聞く。中小企業は仕事の実感しか得られないかもしれない(笑)なぜ、わたしたちは「今」を大事にできず、「未来」に過剰な期待をしてしまうのだろう。

上司が抱えていた問題とは、挑戦する恐怖であり、その挑戦自体が日々に流されることで、見えなくなってしまう。日々の忙しさを言い訳にして、自分のやりたかったことすら、わからなくなっていく。大事なことだったはずなのに優先順位がどんどん下がる。人間は怠惰であると同時に、否が応でも環境に適応し、自分自身をそちらに最適化させてしまう。

ただ、「夢」や「希望」も、一歩間違えば、単なる「呪い」となる。だから、日々の時間をやり繰りして、現実と折り合いをつけ、ちょっとの時間でもいいから、夢のための作業時間を確保し、それを続けることができれば、積み重ねとなる。食い扶持を稼ぐのが大事というのも、避けがたい現実である。

自分に残されている時間をいかに使うか。そこに目的や目標などはなくてもいい。ただ、後悔や心残りが胸にひっかかり始めたら、タイムループが始まってしまうのかもしれない。



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