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#映画感想文『アネット』(2020)

映画『アネット(Annette)』を映画館で観てきた。

監督はレオス・カラックス、原案はスパークスのロン・メイルとラッセル・メイル、主演はアダム・ドライバー、マリオン・コティヤール。

カンヌで監督賞を受賞した作品。

2020年製作、140分、フランス・ドイツ・ベルギー・日本・メキシコ合作。

ミュージカル映画なのだが、コメディアンとオペラ歌手が主人公なので、舞台のシーンも多い。作品の中に作品がある、というメタ構造もある。

ただ、描かれるのは、夫婦関係の崩壊であり、普遍的なことでもある。

妻のアンは一流のオペラ歌手で売れっ子で、人気者、セレブリティである。一方のヘンリーも才能あるコメディアンなのだが、アンがいると、どうしても見劣りがする。本人たちがそうは思っていなくても、周囲が許さない。妻のほうが、成功しており、収入も多く、名声も手にしている。その状況に夫は徐々に耐えられなくなっていく。結婚する前から、その問題はあったのに、恋を理由に見て見ぬふりをしてきたことが顕在化してしまう。夫は妻に欲情できなくなってしまう。子どもが生まれたことが原因といようり、子どもが生まれたことで、夢からさめてしまった、という風に見える。

ある種の男性の優越主義の破綻と崩壊が描かれている。

アドム・ドライバーの存在感がすごい。彼は意外と男性性の暴力性を演じる役どころが多い。指揮者役のサイモン・ヘルバークは、小柄な人なのかもしれないが、二人が並ぶと、アダム・ドライバーがあまりに大柄に見え、ぎょっとする。男性でも、対峙すれば恐怖を覚えるのでないだろうか。

エンドロールにも仕掛けがあるので、最後まで観てほしい。あっけらかんとはしていないが、受け入れやすい結末にしてくれていると思う。

そして、カラックス監督は、アダム・ドライバーの中にある猿っぽさが好きらしい。その感じはわたしも理解できる。

終盤のアネットとヘンリーの掛け合いにおいて、娘が「あなたを許さない! あなたはもう人を愛することはできない!」と、はっきり物申す場面には、ある種の爽快さがあった。

日本人キャストの古館寛治と水原希子も、そして六本木も自然な感じで出てくるので、ぎょっとはしなかった。

妻のアンがヘンリーに感じていた違和感、そして、露悪的に夫婦関係を舞台上で暴露するヘンリーの異常さ。妻に対する支配を「拒絶」や「無視」で行う残酷さ。それを大勢に話して恥をかかせる底意地の悪さ。有害な男性性ということで、まとめてしまっていいものなのか。でも、まあ、よくあることなんだよな。

ミュージカル映画なので、自宅ではなく、やはり映画館で観ることをおすすめしたい。

We Love Each Other So Much

なんちゅうシンプルな歌詞だと、最初は聴いていてちょっと恥ずかしくなったのだが、だんだん怖い歌詞に感じられ、鑑賞後は普通に怖い。

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